コロナ禍中に感じたこと-その1(和田章郎)

 こちらの『週刊トレセン通信』は、競馬ブックweb用のコラム記事として、2011年1月にスタートしました。厳密に言えば、スタート当初は「東西編集局リレーコラム」というタイトル。それを15年の1月に現行タイトルに変更し、現在に至っています。
 ざっと10年間。執筆陣は何度か交代していまして、スタート時から続けているのは私と栗東の山田理子編集員の2人になりました。

 で、実は私は今回が99回目。そして、当たり前ですけど、次回は節目の100回目を迎えます。スタート年の3月に東日本大震災が発生して、100回目を迎える今年は新型コロナウイルス禍に見舞われたことになるわけです。
 そんなようなことを踏まえて、前回も無観客競馬についての話でしたが、今回の99回目と次回の100回目、もしかするとその次(?)くらいまで、コロナ禍による緊急事態宣言下に考えたこと、感じたことなどについて、備忘録的に記しておきたいと思います。
 もっぱら外出を控えた期間のことですから、テレビやらインターネットを介して得た情報、話題になってしまいますが。
 この流れで言いますと、直近の話題として、女子プロレスラーの死、についても思うところはあるのですが、これは次回以降に回し、まず比較的明るい話題から。

◆その1
 〝SNSでの企画モノ〟

 4月7日に緊急事態宣言が東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、大阪府、兵庫県、福岡県の7都府県に発出されました。続いて16日には対象地域が全都道府県に拡大。当初、実施期間は5月6日まででしたが、その2日前の4日に、5月31日まで延長されることが発表になり、その10日後の14日に39県で解除。そして5月26日、全国で解除される運びになったことはご存じの通りです。

 約1カ月半、店舗の営業自粛要請や、個人レベルでの外出制限が求められ、嫌が応にも働き方改革を強いられることになり、多かれ少なかれ行動パターンが激変することになったかと思われます。特に休日など、お天気に関係なく一日中、家の中に居る、なんて滅多にない状況に置かれるわけですから、戸惑うなという方が無理。たとえ生来の引きこもり体質(?)の人でも、制約があったうえでの〝軟禁〟みたいな状況は、やっぱりストレスになったのではないでしょうか。

 私の場合、普段は〝現場主義〟を標榜していますが、引きこもり体質にはほど遠いにしても、一日中、家の中に居ることが耐えられない、ってこともありません。しかし、たまに反動(?)が来る、という意味では、やっぱりどこかで無理をしているのでしょうか。と、自己分析もしたりして。
 ともかくも、どことなく落ち着かない、イラつきやすい、みたいな状況下で強い味方になってくれたのが、さすがに今の時代ですね、インターネットでした。

 ただ、このネットに関しても、あまり耽溺するのは精神衛生上よろしくない、と日頃は思っている方でして、それも特にSNSでの書き込み欄については、気分が悪くなることも少なくありませんから、極力避けるようにしてきました。それで大筋、間違ってはいない、と思っています。
 ところがところが。それでもやっぱり時間を持て余すなか、コロナ関連の記事をチェックすることに注力していると、どうしたってネット内のニュースに触れないわけにいきません。すると、いろんな書き込みを目にしてしまう。大概、うんざりさせられて、余計に自粛疲れに陥ってしまう。

 これじゃいかん、と思っていたら、目に飛び込んできたのが、
〝ブックカバーチャレンジ〟
 なる企画モノ。

 最初に目にした時は、「こりゃまたチェーンメール的な気持ち悪いものだな」なんて思ったのです。下手に関わると、うんざりさせられてしまうのかな、と。ちょうど芸能人の皆さんが動画やら何やらを楽しそうにリレーしていて、一方でそれに拒絶反応をしている人もいる、なんて記事が出ていたものですから。

 ところが、このブックカバーチャレンジは、どうもニュアンスが違っていて、バトンを貰ったら、好きな本を1日1冊、7日間投稿(7日連続でなくてもいい)し、本の内容説明は不要で、表紙画像をアップするだけ。まあ一応、友人を招待することにはなっていたようですが、必ずしもバトンを渡さなくても良さそうで…いやそれ以前に、スルーもOK、落ちているバトンを拾ってもOK、みたいな。「ヤル気あるのかよ」と突っ込みを入れたくなるくらいの緩さなのです。
 何でも、「読書文化の普及に貢献するためのチャレンジ」だそうですが、これがステイホーム中、結構、楽しませてくれました。

 まったく知らない作家さんの本が紹介されているかと思えば、よく知っている作家さんの作品で、自分の好みのものもあったりする。で、しかも、「本の内容説明は不要」という参加条件なのに、ほとんどの方が取り上げた理由らしきことや、読んだ当時の感じ方や思い出話を添えていらっしゃる。
 チャレンジをしている方が、自分の知っている人の場合だと、「なるほどこういう趣味嗜好があったのか」と思って、ほんの少しでもその人のバックボーンらしきものを知る手掛かりを得られたり、「膨大な読書量だなあ」と打ちのめされ…いや感心させられたり。逆に知らない人の場合ですと、紹介されている本から、まったく知らないその人と為りをおぼろげに想像できたりする(こういう輩がいるからこそ、拒絶反応を起こす気持ちはよくわかります)。
 で、勿論、知らない本については、それこそこのネットの時代。すぐさま内容を調べたりできますんでね。

 つまりは、単純に、知的好奇心を満たしてくれた感じ。本来、この手の仲良しグループ内での〝同調圧力〟的ゲームっぽいものには顔をしかめているのですが、いつしか「早く明日の一冊を知りたいぞ」といった楽しみ方をしている自分がおりました。

 そんなことを自覚しつつ、「ん?これってミュージシャンのアルバムジャケットとか、映画のポスターとかパンフレットとかでも成立するんじゃないか?」と気づいたと思ったら、すでに存在しておりました。ついつい引き寄せられて、そっちの方も追ってみると、これまた「こういうアーティストがいたのか」とか、「こんな映画があったなんて」みたいな驚き、新しい発見を提供してもらって、何だか得した気分とでも言うのでしょうか。堅苦しい言い方をすれば、ステイホーム中に勉強させてもらった気がしています。

 まあネットの場合、往々にして年齢や嗜好性とかを含めて、似たような属性の人達とつながることが多いですから、ただただ自分の好みの部分で興味深く、楽しめた、ってだけかもしれませんけど、それにしても、いろいろと教わることが多かった。自分の中では、明らかにステイホームがもたらしてくれたことのひとつ。
 ですからね。緊急事態宣言が解除され、外出制限が解かれても、上記に限らずいろいろなジャンルで結構ですから、思い出したようにチャレンジしてくれる方がいると嬉しかったりもするのですが、あくまでステイホーム期間中ならではの楽しみであって、こちらも飽きてしまうんでしょうか?

 その前に自分自身のチャレンジは?
 そう、勝手にバトンを拾ってみるか、と思ったりもしたのですが、ちょっと考えてみると競馬本だったり、他のカテゴリーのものは、とうの昔に処分した文庫本ばかりだったりで表紙をアップできないことに気づき、泣く泣く(?)自重することにしました。

 などと、自分勝手なことを考えていて思ったのは、ステイホーム期間の楽しみ方も、経験からくるアイデアひとつなんだな、ということ。そして、だとすれば、年配(失礼)の皆さんの方が、より上手にステイホーム期間を過ごされたのかな?みたいなこと。
 いややっぱりチャレンジされている方の多くは、自分と同年代か、それ以上の先輩諸氏が多かったような気もするので。何よりも、読んでいるこちらが楽しいのは言うまでもなく、チャレンジをしている方達も結構、楽しんでおられるようにも感じましたので。

 まだまだ予断を許さない新型コロナウイルス対策。社会全体で対処しなくてはならない案件ですから、いろいろな形で知恵を授けていただければと思う次第。
 その点で今回は、いつにもましてインターネットにはお世話になりました。はたしてこれは、功罪の〝功〟になるのでしょうか。
 その答えは、これから、にかかっているのは重々承知しているつもりです。
 心して〝コロナ後〟を…いや、そうではなくて、実のところまだ〝コロナ禍中〟の意識を持っていなくてはならないのでしょう。心して…。

美浦編集局 和田章郎

和田章郎(編集担当)
昭和36年8月2日生 福岡県出身 AB型
1986年入社。編集部勤務ながら現場優先、実践主義。競馬こそ究極のエンターテインメントと捉え、他の文化、スポーツ全般にも造詣を深めずして真に競馬を理解することはできない、がモットー。さてどんなふうに〝withコロナ〟を生きるのか。最大の関心事はそこに尽きます。