第4歩目 決戦は金曜日(唐島有輝)

 「直前変わり身診断」
 競馬ブック当日版にこのコーナーがあることをご存知でしょうか。
 レースに出走する馬の前日(土曜出走馬なら金曜、日曜出走馬なら土曜、GⅠなら金、土両方)のトレセンでの気配を記したもので、後半3レースが対象です。だいたい関係者談話と調教欄に挟まれる場所にありますが、そのふたつの記事に比べると重要度はどうしても劣ってしまいます。いや、劣ってきているという表現の方が正しいかもしれません。
 理由として挙げられるのは時代による調整方法の変化でしょう。ひと昔前だと前日に時計を出す馬は珍しくなく、そこでの動きが本追い切りと比べてどう変化したか、それを伝えるのが「変わり身診断」の最も重要な部分だったのではないかと思います。ただ、今では前日に追い切りを行うケースはレアで、角馬場やコースで微調整するだけという場合がほとんど。
 前日気配をわざわざ記事として取り上げる競馬専門紙もかなり少数です。絶滅危惧種です。競馬新聞界のイリオモテヤマネコです。
 私は調教当番の週を除けば、週末は競馬場出勤なので、当コーナーを担当するのは金曜日が多いのですが、個人的な意見を書くと、例え軽い運動だけだったとしても、前日気配を見るのは結構好きなんですよね。主な理由はふたつあります。

①馬をじっくり観察できるから
 本追い切りでは時速60キロメートル近いスピードで目の前を通り過ぎるわけですから、アッと言う間に馬がいなくなるような感じ。次々と他の馬も来るので、1頭の馬を見る時間も限られてしまいます。もちろんこれには個人の技量の問題も含まれますが……。ただ、金曜日なら同じ場所でグルグルと調整している場合が多く、そこでしっかりと馬を観察することができます。「水曜には気がつかなかったけど、ちょっと体が太いかもなあ」などと思うこともしばしば。

②変化がとにかく面白い!
 これがモチベーションを持って見ている一番の理由かもしれません。当該週の追い切りと比べて気配がガラッと良くなる馬がいて、これが馬券に絡んだりすると、オッと思うのと同時に悔しく思うこともあって、競馬の面白さをすごく実感します。
 自分の中で強く印象に残っているのが、マジックキャッスルの秋華賞、サトノレイナスの阪神JF、サークルオブライフの阪神JF。恥さらしで私の印を書くと、それぞれ無印、△、二重△でした。あまり評価を高くしなかったのは、追い切りでの動きが自分の中であまりピンと来なかったから。どの馬も走りのバランスがもうひとつのように見えました。ただ、金曜日の気配は一気に良化。軸がしっかりとしていて、左右のバランスが完璧に矯正されていたように感じました。木曜の時点で予想を出しているので、自分としては悪い予感しかありませんでしたが、矢印を上向きにして出稿しました。そしてレースを見て「ああ、やっぱり来たか」と。
 偶然か必然か、3頭とも国枝厩舎の牝馬。個人的に牝馬の仕上げは国枝厩舎が日本でナンバーワンだと思っていて、名牝を数々育ててきた実績があるのはもちろんですが、それ以上にこういった嫌な?経験によるところが大きいです。たまにいますよね、追い切りで調子のピークが来てしまう困った馬が。傍から見ているだけでもつくづく馬の調整の難しさを感じますが、きっちりとレース当日にピークを持ってくる調整技術の高さ、これが一流厩舎たる所以かもしれません。

 他と比べて若干地味なコラムではありますが、「攻め解説」と「直前変わり身診断」、これらを照らし合わせることも馬券的中のヒントになるはずだと信じています。ちなみにこの「直前変わり身診断」は競馬ブックWEBには載っていないコンテンツ。当日版、もしくはコンビニプリントのみの情報となっています。デジタルで十分と思っているそこのアナタ、紙媒体も一緒に利用するという手もアリですよ。他にも使ってみて分かる様々な利点があるかもしれませんし。

 どんどん良くなってくる馬の変化を見逃さず、読者の方のお役に立つことができれば最高です。

美浦編集局 唐島有輝

唐島有輝 1993年7月11日生まれ。美浦調教取材班。最後の方に宣伝的なことを書きましたが、回し者ではありません、正社員です。国枝厩舎から数多くの名牝が誕生しましたが、ナンバーワンだと思うのはやはりアーモンドアイ。引退式当日にぬいぐるみも購入。可愛いという理由でティアラが乗っているものを選びましたが、よく見ると秋華賞バージョンで、ちょっと複雑な気持ちも。ちなみにカラオケで異性から歌われてその子を好きになってしまう曲ナンバーワンは「大阪LOVER」です。