6月3日(土)に行われた第244回英ダービーは日本での馬券発売がなかったにもかかわらず、例年以上に高い関心を集めたのではないでしょうか。それはディープインパクト産駒の最終世代オーギュストロダン(牡3歳、青鹿毛、愛国産)が出走し、人気を集めていたからです。
2歳時の昨年10月22日にフューチュリティトロフィー-G1に勝ってディープインパクト13クロップ連続G1勝利を達成していた同馬は、今季のスタートとなった英2000ギニー-G1でカルディアンから22馬身差の12着と大敗していましたが、巻き返しが期待された英ダービー-G1では2番人気の支持を受け、中団の後ろから長い直線で素晴らしい脚を使って先に抜け出したキングオブスティールを捉えました。その勝ち方のすばらしさについてはニジンスキーやガリレオと比較する論評も出るほどで、詳しくは触れませんが英ダービー-G1の勝ち馬としてもレベルの高い存在と考えられていることは間違いありません。
この勝利により、ディープインパクト産駒の13クロップ連続クラシック勝ちも確定するとともに、通算G1100勝(パート1G1に限る)も達成されました。昨年10月のこのコラム(血統閑談#009 死んだ男の残したものは)には98勝達成時点の全G1勝利をまとめていますので、お時間のある方はそちらもご覧ください。
ここまで述べたようにディープインパクト産駒としての記録以上に、この勝利が画期的で歴史的だったのは、現代の競馬3極(といってしまっていいのかどうかは保留が必要ですが)を結んでの父系3代ダービー制覇だったということでしょう。ディープインパクト産駒の海外G1制覇は別表の通り30に上りますが、やはり「ダービー」は競馬のアイコンであり、特別です。
祖父 サンデーサイレンスUSA(1989年ケンタッキーダービー-G1)
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父 ディープインパクト(2005年日本ダービー)
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仔 オーギュストロダン(2023年英ダービー-G1)
これほどまでにダイナミックかつ美しい流れがあるでしょうか。
ケンタッキーダービー馬ノーザンダンサーが英ダービー馬ニジンスキーを出し、ニジンスキーはケンタッキーダービー馬ファーディナンドUSAを出し……といったケースはいくつもあると思いますが、このような流れの環に日本が加わったことが画期的です。
かつて、日本は「種牡馬の墓場」と呼ばれたことがありました。英国の血統評論家の誰がいったのかを誰かに聞いた記憶がかすかにありますが、もはや確かめられません。ともあれ、生き物である以上どこかで死ぬわけですし、特定の父系が途絶してしまうのも日本に限ったことではありません。今思えば、英国発の軽い揶揄が、日本の競馬の世界のコンプレックスを培地として勝手に大きく育っていった嫌いもあります。日本に流れ込んだ血を種牡馬として世界の流れに戻すことに成功した今、「種牡馬の墓場」は死語になるのでしょう。
オーギュストロダンの母ロードデンドロンIREはガリレオの娘で2歳時にフィリーズマイル-G1、3歳秋にはオペラ賞-G1、4歳春にロッキンジS-G1に勝っています。クラシックでも英1000ギニー-G1で2着、英オークス-G1では名牝エネイブルに残り1Fまで抵抗して2着となりました。このような名牝をディープインパクトの元に送り込んだクールモアの勝利であるのは間違いありませんが、ラストクロップの土壇場でのこの快挙は、やはりディープインパクトの神がかりと捉えるのが正しいように思います。
ディープインパクト産駒の国外G1勝利30 (★は欧州クラシック) | ||||
馬名 | 生年 | 性 | 地域 | レース |
リアルインパクト | 2008 | m | 豪 | ジョージライダーS |
Beauty Parlour | 2009 | f | 仏 | プールデッセデプーリッシュ ★ |
ジェンティルドンナ | 2009 | f | 首 | ドバイシーマクラシック |
エイシンヒカリ | 2011 | m | 港 | 香港カップ |
〃 | 仏 | イスパーン賞 | ||
トーセンスターダム | 2011 | m | 豪 | トゥーラクH |
〃 | 豪 | エミレーツS | ||
リアルスティール | 2012 | m | 首 | ドバイターフ |
ヴィブロス | 2013 | f | 首 | ドバイターフ |
フィアースインパクト | 2014 | m | 豪 | トゥーラクH |
〃 | 豪 | カンタラS | ||
〃 | 豪 | マカイビーディーヴァS | ||
Saxon Warrior | 2015 | m | 英 | レーシングポストトロフィー |
〃 | 英 | 英2000ギニー ★ | ||
Study of Man | 2015 | m | 仏 | ジョッキークラブ賞 |
グローリーヴェイズ | 2015 | m | 港 | 香港ヴァーズ |
〃 | 港 | 香港ヴァーズ | ||
ラヴズオンリーユー | 2016 | f | 港 | クイーンエリザベスII世カップ |
〃 | 米 | BCフィリー&メアターフ | ||
〃 | 港 | 香港カップ | ||
Fancy Blue | 2017 | f | 仏 | ディアヌ賞 ★ |
〃 | 英 | ナッソーS | ||
Glint of Hope | 2018 | f | 豪 | オーストラレイシアンオークス |
Profondo | 2018 | m | 豪 | スプリングチャンピオン |
Snowfall | 2018 | f | 英 | 英オークス ★ |
〃 | 愛 | 愛オークス ★ | ||
〃 | 英 | ヨークシャーオークス | ||
シャフリヤール | 2018 | m | 首 | ドバイシーマクラシック |
Auguste Rodin | 2020 | m | 英 | 英フューチュリティトロフィーS |
〃 | 英 | 英ダービー ★ |
昭和40年10月10日生まれ、三重県津市出身
1988年入社。週刊誌の編集、調教採時担当。早起きを求められる仕事柄、今年の英ダービー-G1は腹をくくって決死の夜更かしをするつもりでした。ところが、いつもの発走時刻がサッカーのFAカップ決勝と被るため、3時間前倒しされて日本時間9時半の発走となりました。本家のダービーがマンチェスターダービーに追われた格好ですが、おかげで無理なくリアルタイム観戦ができました。