10月23日に行われた第83回菊花賞はアスクビクターモアが4角先頭から押し切りました。これによりディープインパクト産駒の菊花賞G1勝利数は5となり、サンデーサイレンスの4勝を抜いて単独首位となります。菊花賞G1はディープインパクト産駒にとってクラシックのうちで初勝利まで最も時間がかかったのですが、直近7年で5勝と晩年の産駒による急速な追い上げがありました。ディープインパクト産駒のG1勝ちを勝利度数順に並べると、東京優駿G1が7勝でトップ、以下5勝で桜花賞G1、秋華賞G1、菊花賞G1、マイルチャンピオンシップG1が並びます。
 今回の菊花賞G1の勝利により、2008年生まれの初年度産駒で桜花賞G1に勝ったマルセリーナから始まったクラシック制覇が、これまで全12世代でなされたことになります。また、菊花賞G1の1日前、日本時間ではおよそ半日前に英国で行われた2歳戦、フューチュリティトロフィーSG1(かつてのレーシングポストトロフィーが2018年から改称)ではオーギュストロダンが勝ちました。同馬はクールモアがフィリーズマイルG1勝ち馬ロードデンドロンを日本に連れてきてディープインパクトを種付けし、愛国で生まれました。2019年に死んだディープインパクトはその年24頭に種付けし、日本で血統登録された現2歳馬は現時点で6頭しかいませんので、筆者も現3歳世代が「実質的なラストクロップ」などと知ったようなことを書いておりましたが、海外に渡ったわずかな種からG1勝ち馬が誕生するとは何とドラマチックなことでしょうか。これにより、ディープインパクト産駒は競走年齢を迎えた全13世代のG1勝利が早くも確定しました。そういった意味で2022年10月22日、23日は血統史に銘記されるべき週末となりました。
 また、この週末現在でのディープインパクト産駒のG1勝利は98となりました。競馬ブックWEBの「重賞回顧血統編」では「国内外でのG1勝ちも100に達した」と書きましたが、これは間違いでした。筆者には30を超える数を数えると数える度に答えが違うという病気があって、海外G1勝利数をひとつ余分に数えていたこと、国内G1勝利を機械的に抽出した際にアンジュデジールのJBCレディスクラシックJpn1がカウントされていたことが原因です。Jpn1と障害G1の勝利を加えると確かに100にはなりますが、パート1G1と他を混ぜて数えることは間違いです。特に格付け原理主義者にとっては許されないことです。したがって、正しいディープインパクト産駒のG1勝利は菊花賞G1終了時点で98です。お詫びして訂正します。もっとも、すぐに100に到達するのは間違いなさそうですが。
 ディープインパクトが残した血は、この先は後継種牡馬や娘によってつながれていきます。種牡馬として登録された直仔の数はJBISサーチによると外国馬を含めて64頭にのぼります。そのうちキズナとリアルインパクトは既にG1勝ち産駒を送り出しており、グレーターロンドン、サトノアラジン、シルバーステート、ダノンバラード、ディープブリランテ、トーセンホマレボシ、トーセンラー、ミッキーアイルにはグレード勝ち産駒が出ています。また、2018年の英2000ギニー馬サクソンウォリアーは2019年からクールモアで種牡馬となり、コンデ賞G3のヴィクトリアロード、シルケングライダーSG3のルミエールロックと仏愛で初年度産駒から早くもグループ競走勝ち馬を送っています。
 サンデーサイレンスの初年度産駒が誕生したのが30年前のこと。日本の競走馬が海外でG1レースに勝つことが難しかったころからすると、日本の種牡馬の産駒が海外で活躍し、更に彼の地で父系を発展させる時代が来るとは思いもよりませんでした。本当に競馬は何があるか予測がつきません。さて、次の30年ではどのような変化があるのでしょうか。

栗東編集局 水野隆弘

ディープインパクト産駒のG1勝利98
馬名 生年 地域 レース
ダノンシャーク 2008 m   マイルチャンピオンシップ
トーセンラー 2008 m   マイルチャンピオンシップ
マルセリーナ 2008 f   桜花賞
リアルインパクト 2008 m   安田記念
      ジョージライダーS
Beauty Parlour 2009 f プールデッセデプーリッシュ
ヴィルシーナ 2009 f   ヴィクトリアマイル
        ヴィクトリアマイル
ジェンティルドンナ 2009 f   桜花賞
        優駿牝馬
        秋華賞
        ジャパンカップ
        ジャパンカップ
      ドバイシーマクラシック
        有馬記念
        阪神ジュベナイルフィリーズ
スピルバーグ 2009 m   天皇賞(秋)
ディープブリランテ 2009 m   東京優駿
アユサン 2010 f   桜花賞
キズナ 2010 m   東京優駿
ラキシス 2010 f   エリザベス女王杯
エイシンヒカリ 2011 m 香港カップ
      イスパーン賞
サトノアラジン 2011 m   安田記念
ショウナンパンドラ 2011 f   秋華賞
        ジャパンカップ
トーセンスターダム 2011 m トゥーラクH
      エミレーツS
ハープスター 2011 f   桜花賞
マリアライト 2011 f   エリザベス女王杯
        宝塚記念
ミッキーアイル 2011 m   NHKマイルカップ
        マイルチャンピオンシップ
ショウナンアデラ 2012 f   阪神ジュベナイルフィリーズ
ダノンプラチナ 2012 m   朝日杯フューチュリティS
ミッキークイーン 2012 f   優駿牝馬
        秋華賞
リアルスティール 2012 m ドバイターフ
ヴィブロス 2013 f   秋華賞
      ドバイターフ
サトノダイヤモンド 2013 m   菊花賞
        有馬記念
ジュールポレール 2013 f   ヴィクトリアマイル
シンハライト 2013 f   優駿牝馬
ディーマジェスティ 2013 m   皐月賞
マカヒキ 2013 m   東京優駿
アルアイン 2014 m   皐月賞
        大阪杯
サトノアレス 2014 m   朝日杯フューチュリティS
フィアースインパクト 2014 m トゥーラクH
      カンタラS
      マカイビーディーヴァS
Saxon Warrior 2015 m レーシングポストトロフィー
      英2000ギニー
Study of Man 2015 m ジョッキークラブ賞
グローリーヴェイズ 2015 m 香港ヴァーズ
      香港ヴァーズ
ケイアイノーテック 2015 m   NHKマイルカップ
ダノンプレミアム 2015 m   朝日杯フューチュリティS
フィエールマン 2015 m   菊花賞
        天皇賞(春)
        天皇賞(春)
ワグネリアン 2015 m   東京優駿
グランアレグリア 2016 f   桜花賞
        安田記念
        スプリンターズS
        マイルチャンピオンシップ
        ヴィクトリアマイル
        マイルチャンピオンシップ
ダノンキングリー 2016 m   安田記念
ダノンファンタジー 2016 f   阪神ジュベナイルフィリーズ
ラヴズオンリーユー 2016 f   優駿牝馬
      クイーンエリザベスII世カップ
      BCフィリー&メアターフ
      香港カップ
ロジャーバローズ 2016 m   東京優駿
ワールドプレミア 2016 m   菊花賞
        天皇賞(春)
Fancy Blue 2017 f ディアヌ賞
      ナッソーS
コントレイル 2017 m   ホープフルS
        皐月賞
        東京優駿
        菊花賞
        ジャパンカップ
ポタジェ 2017 m   大阪杯
レイパパレ 2017 f   大阪杯
Glint of Hope 2018 f オーストラレイシアンオークス
Profondo 2018 m スプリングチャンピオン
Snowfall 2018 f 英オークス
      愛オークス
      ヨークシャーオークス
アカイトリノムスメ 2018 f   秋華賞
シャフリヤール 2018 m   東京優駿
      ドバイシーマクラシック
アスクビクターモア 2019 m   菊花賞
キラーアビリティ 2019 m   ホープフルS
Auguste Rodin 2020 m 英フューチュリティトロフィーS
水野隆弘(調教・編集担当)
昭和40年10月10日生まれ、三重県津市出身
1988年入社。週刊誌の編集、調教採時担当。秋華賞はスタニングローズが勝ち、ローズキングダムのジャパンC以来12年ぶりにローザネイの末裔によるG1制覇となりました。ローザネイのファミリーをカナで“バラ一族”と書くか、漢字で“薔薇一族”と書くか。好みの問題でどちらでもいいとは思いますが、カナだと「一」が音引きと紛らわしく“ばらーぞく”と読まれないかと心配です。漢字では「一」を飛ばすと古くからある某雑誌のタイトルと被ってしまいます。表記の悩みは尽きません。