注意事項
*最近競馬界で起きたニュースを子供向けに解説したものです
*12歳未満が対象です
*成人の方はお子様と一緒に読むことをお勧めします
*性や暴力などの刺激の強い描写は一切ありません
*馬券の購入は20歳になってから
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登場人物のプロフィール
- 芝かけるくん(10)両親からの影響で競馬に興味を持つようになった。とってもわんぱく。好きな教科は体育。将来の夢はティックトッカー。今一番ほしいのは自分専用のタブレット。
- からしまさん(29)競馬ブックの記者。とっても内向的。趣味は散歩と銭湯と酒。今一番ほしいのは事務所で使うためのスリッパ。
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ニュースその① 日本馬、世界の大レースで快挙達成
今年、高額賞金レースとして知られるサウジカップとドバイワールドカップで、日本馬が快挙を達成しました。サウジカップをパンサラッサが、ドバイワールドカップをウシュバテソーロが制したのです。サウジカップの1着賞金は約13億円、ドバイワールドカップの1着賞金は約9億円です。これまでなかなか日本馬が手にすることが難しかったレースでの勝利に、日本の競馬ファンは沸きました。この結果は、日本競馬にとって大きな意味を持つでしょう。
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からしまさん:かけるくんはサウジカップやドバイワールドカップは見たかな?
かけるくん:ううん、見てない。だってパパとママが今日は早く寝なさいって言うから。でも結果は知ってるよ。日本馬が勝ったんだよね。からしまさんは見たの?
からしまさん:うん、そりゃもちろんリアルタイムで見たさ。どっちのレースもすごく興奮したなぁ。
かけるくん:へぇ、次の日もお仕事なのに、夜更かししたんだ。ところで、なんで興奮したの?
からしまさん:だって日本馬が海外で勝つのはすごいことだからだよ。サウジカップを勝つのは初めてのことだし、ドバイワールドカップは2011年のヴィクトワールピサ以来2頭目のことだからね。
かけるくん:ふうん、そうなんだ。とっても難しいことを成し遂げたんだね。ところで、今年はどのくらいの数の日本馬が出走したの?
からしまさん:サウジカップは6頭、ドバイワールドカップは8頭だよ。
かけるくん:たくさんの馬が挑戦したんだね。でも、どうしてそんなにたくさんの馬が出たのかなぁ?だって、日本にもレースはあるんでしょ?
からしまさん:そうだなぁ。ぼくが思うに、たぶん大きく分けて3つの要因があるんじゃないかな。ひとつめは賞金が高いということ。さっきの記事にもあったように1着賞金が高いのはもちろんだけど、負けた馬の賞金も高額なんだ。たとえばサウジカップなら、5着でも約1億3000万円。同じ時季にダートで行われる日本のフェブラリーSの1着賞金が1億2000万円だから、それよりも高いんだよね。
かけるくん:そっかぁ。カフェファラオがなんでフェブラリーSの3連覇を目指さないのかなと思ったけど、結果的にサウジカップで3着だから、3連覇するよりも賞金がたくさんもらえたんだね。それにしてもサウジカップの1着賞金が13億円ってすごいね。ぼくのお年玉の約10万倍以上だよ。
からしまさん:お年玉はなにに使ったの?
かけるくん:いや、いつもママが預かっておくって言ってぼくにくれないんだ。
からしまさん:そうなんだ。
かけるくん:うん。ところでふたつめは?
からしまさん:ふたつめの要因は、海外のレースに勝つことは将来パパやママになったときに、子供の価値が上がるっていうこと。馬の生産っていう目線で考えると、競馬っていうのは、優秀な血を残すために行われているんだ。優秀な血の馬の方が高く売れるからね。それに、今は外国のお金持ちが日本の馬を買う時代。日本でしか勝っていない馬よりも、海外の有名なレースで勝った馬の方が、わかりやすいし、その子供はより強い可能性があるから、高く買ってもらえるんだよね。
かけるくん:たしかに、同じクラスの常歩くんはパパがグローバル大企業のエグゼクティブマネージャーだから、学校の先生から「えこひいき」されてるもんなぁ。ぼく、歩くんのこと大嫌いなんだ。
からしまさん:みっつめは「海外にも通用する馬づくり」っていうのが、今まで長い間の日本競馬の目標だったから。1981年の第1回のジャパンカップでは、外国馬が上位を独占したんだ。しかもレコードタイムを大幅に更新して。当時のことは知らないけど、たぶん、そのときの悔しさとか、海外への憧れがあったから、より強い馬を作るための努力をずっとしてきたんだと思うよ。その積み重ねがあるから、今の日本競馬があるんじゃないかな。
かけるくん:たしかに、海外のレースで日本馬が勝つことって今は珍しいことじゃないもんね。でも、同じ芝とかダートでも、国によって馬場の特徴とか違うよね。だから、どっちの方がレベルが高いとか低いとかじゃないんじゃないかな。それなら、日本の競馬に強い馬がたくさん出てきたほうが盛り上がるし、ぼくはうれしいな。
からしまさん:ぼくもその気持ちは共感できるよ。でも、人間のスポーツでもそうだけど、アウェイで結果を残すってとても難しいことだよね。やっぱり、そういう困難に立ち向かうからこそ人ってがんばれるんだと思うよ。もちろん、国内を盛り上げることも大事なことだけどね。
かけるくん:国内に強い馬が出てきてほしい人、海外のレースで日本馬に結果を残してほしい人、どっちの意見もとってもわかるなぁ。もしかしたら、日本競馬を盛り上げてほしいっていう根本の部分ではつながっているのかもしれないね。
からしまさん:うん。
かけるくん:このニュースを通して、大人の世界でのお金の大切さと、チャレンジ精神の大切さを学んだよ。
からしまさん:うん。
かけるくん:からしまさんは、お金もないし、チャレンジ精神もないから、人としての価値はゼロだね。
からしまさん:コラー!
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ニュースその② 3月18日競馬中止の危機も予定通り開催
JRAの厩務員組合と調教師会が賃金についての団体交渉を行いました。18、19日の競馬開催がストライキによって中止になる可能性がありました。結果、4つの労働組合中、3つの組合は合意に至らずストを決行しましたが、JRAは予定通りの開催を決定。3つの組合も19日にはストを解除しました。1999年以来24年ぶりのストライキ決行に対して、さまざまな意見が上がっています。
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かけるくん:もう難しすぎて、わけがわからないよ。どういうこと?
からしまさん:まずお仕事っていうのは「働く人(労働者)」と「雇う人(使用者)」のふたつの関係に分かれるんだ。「労働者」はお仕事をする代わりにお金をもらえるし、「使用者」はお金をあげる代わりにお仕事をしてもらうんだね。ここまでわかる?
かけるくん:うん。つまり歩くんのパパは使用者だし、ぼくのパパは労働者なんだ。
からしまさん:そう。でも労働者も決して納得のできる条件で働いているわけじゃないよね。だから労働者たちがグループを組んで使用者に「もっとお給料を上げてほしい」っていうような要求を伝える。これを毎年春に行うから「春闘」というんだ。
かけるくん:でも必ず要求が通るわけじゃないんでしょ。
からしまさん:そうそう。そのときに「要求が通らないならお仕事しません」っていってお休みすることをストライキっていうんだ。今回の場合でいうと、厩務員さんが労働者で、調教師さんが使用者っていう関係性になるね。
かけるくん:厩務員さんは今の条件に納得できなかったんだ。
からしまさん:JRAの売り上げが落ちたことと震災が起きたことを踏まえて2011年にコスト削減のためにお給料を下げたんだ。だけど、最近JRAの売り上げが回復してきたから、元に戻してほしいっていう要望をしたみたいだね。
かけるくん:でもJRAが儲かってるからって必ずしもすべての調教師さんも儲かってるわけじゃないんじゃないの?
からしまさん:そこが今回の問題が一般の人にはわかりにくくて、複雑にしているポイントのひとつじゃないかな。普通の企業なら「労働者」と「使用者」だけが対象になる話なんだけど、競馬の場合は違うからね。JRAとか馬主さんとか、いろいろな人とか決まりごとが絡んでくるし、成績も調教師さんによってバラバラだから、そう簡単にひとつに決まる話じゃないんだよ。
かけるくん:で、結局ストライキは行われたけど、競馬も開催したんだ。
からしまさん:そう。18日には可能な人だけで協力したみたいだし、19日にはストライキは解除したからね。厩務員さんも一番大事なのは普段からお世話している馬なんだと思うよ。
かけるくん:やっぱり生き物を扱うお仕事って大変だね。いくらストライキしようとしても、馬のお世話をやめることはできないだろうし。
からしまさん:そこが今回の問題を複雑にしているもうひとつのポイントかもしれないね。「そういう仕事なんだから」って意見もあるし、でも「だからって安い給料で働けっていうのは違う」っていう意見も当然だから。
かけるくん:でもぼくはやっぱり競馬を中止にするのは違うと思うな。当事者だけの問題のはずなのに、なによりも大切にしなきゃいけない馬とかファンとか、他にも数え切れないほどの人たちに迷惑がかかるから。からしまさんみたいな新聞社さんも大変だったんじゃないの?
からしまさん:いや、先輩とかはいろいろなところと連絡を取ったりしてすごく大変そうだったけど、ぼくの立場だと開催があると信じていつもの仕事をするしかなかったから。ただでさえ新聞の売り上げが厳しいのに、こういうときに何もできないって、けっこう歯痒かったなぁ。
かけるくん:そう考えると、もしかしたら「ストライキ」=「開催中止」っていう形がちょっと違うのかもしれないね。入口と出口が成立しにくいんじゃないかって感じるよ。
からしまさん:たしかに、当事者じゃないとわからないこともあるけど、逆に第三者だからわかることもあるもんね。じゃあ、どうすればいいかな?
かけるくん:それがわかったら、みんな苦労しないでしょ。そんな簡単なことじゃないよ。競馬が開催されたからって、問題が解決したわけじゃないし。ぼくはただ部外者だから好き勝手言ってるだけだよ。からしまさんもそうでしょ?
からしまさん:うん。
かけるくん:道徳の授業だと人のことを考えなさいって教わるけど、大人の世界だとたくさんの人がいるし、立場も意見も生活も違うから、みんなが納得できる結論を探すのって時間がかかりそうだね。
からしまさん:うん。
かけるくん:あっ、もうこんな時間!友達と公園でキックベースする約束だったんだ!
からしまさん:え?いいなー!ぼくも入れて!
かけるくん:いいけど、からしまさんはヘタクソだから、歩くんのチームね!
からしまさん:コラー!
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震災、コロナ禍、そして今回の件。毎週、当たり前のようにあると思っていた競馬も、もしかしたら当たり前じゃないのかもしれない、と思うようになってきました。人によって置かれている状況が違うので、みんなが幸せになる方法を見つけるのはすごく難しいことだと思います。ただ、ぼくたちは競馬がないと仕事ができません。「お馬さんに食べさせてもらってる」ようなものです。他の世界じゃ使い物にならないダメ人間の集まりです。たとえひとつだけでも、そういう共通点があるってことは忘れたくないなと思います。
1993年7月11日生まれ。2017年入社。美浦時計班坂路担当。子供の頃の将来の夢第1位は気象予報士、第2位は古生物学者、第3位は競馬ブックのトラックマンでした。第1位と第2位は学力の問題で諦めました。当時、勉強に対してストライキを起こしたので。あ、それはただのサボりか。