僅かな人が入っただけでどれだけ変わるものか。

 自分が行くことになっていた新潟競馬場の上限は621人。

 両国国技館で2度行われた7月場所、9月場所の上限が約2500人。収容人数が1万人ちょっと。約4分の1は埋まっていたのに、ほとんどの瞬間が静寂に包まれていて、とても声を出そうなどという雰囲気ではなかった。

 それがその倍以上は入場可能な新潟競馬場で621人。

 開けたのはいいけれど、結局は無観客競馬とそれほど変わらないのではないだろうかと予測していた。

 ところが当日、開門前の競馬場に着いてみて気がついた。
 お客さんを入れるということは、受け入れるJRA側にも人がいる。掃除をする人、受付をする人、馬券を売る人。
 各売店も開いていて、朝から仕込みの匂いも漂ってくる。

 7ヶ月の間、すっかり忘れていた競馬場の日常がそこに戻っていた。

 考えてみれば、無観客競馬は実に異様なものだった。競馬場の外に人はほとんどいなくて、非開催日のような雰囲気。
 中に入ってもガランとして、記者席に着くまでに数人とすれ違う程度。
 レースが始まれば実況が流れて、多少は競馬場らしさは出るものの、レースが始まる前と終わったあとはしーんとした静寂。

 多くの人がどう感じたのか、いいレースだったのか、盛り上がらないようなレースだったのか。それをまったく認識できなかった。

 お客さんが入った先週も声を出しての応援は基本、控えてもらうことになっており、外で観戦していたお客さんもそれはしっかりと守っているように見えた。

 それでもスタンドから人がぞろぞろ出てくる姿や、戻って行く姿。それを見ているだけでも、活気を感じて、気分も高揚してくる。

 今までゼロだった感覚が、10でも20でも感じられる。
 それが何よりも嬉しい。

 実際に、競馬場で働いている人にもいつも以上に笑顔があったような気がする。
 売店の従業員の方はいうまでもなく、馬場に背を向け、スタンドを向いているガードマンの人でさえ、何かうれしそうな印象を受けた。
 やはり、競馬場には人がいた方がいい。

 今は限られた人数で、限られた場所にしか行くことはできない。
 店舗もすべて開いている訳ではなかったけれど、第一歩としてはこれでいいのかもしれないと思わされた。

 2日間、目立ったトラブルはなく、上から見ている限りソーシャルディスタンスも守られているように見受けられた。

 だからといって100%感染することはないとはいえないだろうけれど、他の競技に比べてもかなり安全な方ではないだろうか。

 かつてのGIレースのように本馬場の前にビッシリと人が埋まるのは何年先になるのかは分からない。
 それでも確実にその日が戻ってくるのではないかと期待を持たせてくれる雰囲気ではあったか。

 しかし、問題がひとつ。その活気ある雰囲気にややスタンスを崩してしまった自分自身。

 ついつい、現金で買えることがうれしくなって、ネット投票に加えて必要以上に現金でも馬券を買ってしまった。

 久しぶりに開いた売店でも、売れ残りが出ないように貢献しなければならない。などと、変な義務感に襲われて、これも必要以上に食べ物を買って食いまくってしまった。

 その夜、財布の中を見てびっくり。体重計に乗ってもびっくり。半年振りに味わう後悔と反省の時間が……
 それでもそんなイレギュラーなことがちょっとうれしいような気も。

 是非、皆さん、プラチナチケットにトライして、現場でレースを楽しんでください。
 コロナ前とはひと味違う喜びをきっと感じ取れると思います。

美浦編集局 吉田幹太

吉田幹太(調教担当)
昭和45年12月30日生 宮城県出身 A型
道営から栗東勤務を経て、平成5年に美浦編集部へ転属。現在は南馬場の調教班として採時を担当、グリーンチャンネルパドック解説でお馴染み。道営のトラックマンの経験を持つスタッフは、専門紙業界全体を見渡しても現在では希少。JRA全競馬場はもとより、国内の競輪場、競艇場、オートレース場の多くを踏破。のみならずアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、イギリス、マレーシア、香港などの競馬場を渡り歩く、案外(?)国際派である。