平成から令和に年号が変わって初めて行われた第86回のダービー。

 単勝は圧倒的な支持を受けて、文句なしの主役だったのは皐月賞馬サートゥルナーリアだろう。

 勝てばディープインパクト以来14年ぶりで11頭目になる無敗のダービー馬。

 乗り替わりで勝つとなるとシリウスシンボリ以来34年ぶり。更にはテン乗りとなれば1954年のゴールデンウエーブ以来、半世紀以上ぶり。

 いかにも新時代のダービー馬に相応しい存在だった。しかし、その反面。サートゥルナーリアにはアイドル的な魅力に少し欠けているのではないかとも感じていた。

 同じ4戦4勝で迎えたディープインパクトのような派手さはなく、何よりも今年の緒戦が皐月賞。

 熱心な競馬ファンを唸らせる実力はあるが、世間的にどこまで認識されているのだろうか。

 新しい時代のスターとしては今までにないタイプというのも魅力なのかもしれないが……。

 それを裏づける数字とは言い切れないが、朝イチこそ100%を越える勢いでお客さんが詰めかけたが、その後は真夏のような暑さの影響もあったのか、終わってみれば過去5年で最低の11万人止まり。

 売り上げも一昨年よりは多かったものの、前年比は96.3%の253億759万8300円。

 単に売り上げと入場人員だけで説明できるものではないだろうけれど、クラシック戦線で順を追って活躍してきた馬ほどの認知度や盛り上がりはなかったのかもしれない。無限の可能性は感じさせたが、現時点で多くのお客さんを惹きつけるだけの魅力はなかった可能性は少しあったのかも。

 馬が消耗品であることに異論はない。先を見据えていればこそ、使うレースを選ぶ必要もあるのだろうとは思う。

 サートゥルナーリアも凱旋門賞という大きな目標があればこそ、春は2戦と決めていたのだろう。

 しかし、日本の競馬の大前提が馬券の売り上げにあるとすれば、スターホースにはただ、いい成績を上げるだけでは物足りない。ある程度のレース数に出るか、圧倒的な成績を上げる必要があるのかもしれない。

 桜花賞馬グランアレグリアも同じようなローテーションで、同じように敗れてしまった。

 競馬だけに敗因はいろいろあって、勝てないのは仕方がない。

 でも、少なくとも自分は非凡な素質のある馬が、いろいろな困難な条件を跳ね返して、心を震わせるような走りを見せてくれることを期待している。

 その数は少ないよりは多い方がいい。

 そう考えると今年の3歳GⅠ戦線にはもうひとつ盛り上がりがなかったように思えてしまう。

 しかし、ダービーのレース自体はリオンリオンが前半1000メートルを57秒台で飛ばしたことによって、久しぶりに激しい消耗戦で見どころも満載だった。

 終わってみれば2番手から抜け出したロジャーバローズがレースレコードで押し切る強い内容。

 単勝配当は9310円。

 1949年のタチカゼに次ぐ2位の高配当だったのにも驚かされた。

 1着も2着もクラブ馬主ではなく、いわゆる個人馬主に分類される馬。

 浜中騎手も前走の京都新聞杯から手綱を取り、最終追い切りでも跨ってしっかり手の内に入れていたのだろう。それが速い流れを果敢に追い上げて、持ち味を存分に生かす騎乗につながったのかもしれない。

 令和になったことで、やはり、風向きは少し変わったのではないだろうか。

 そして、今年ぶっつけで桜花賞と皐月賞を制した2頭の2戦目での敗戦も、反動だったのか、ポカだったのか。いずれにしても、この分析は緻密にされて、必ず来年以降の肥やしになるはず。

 令和の時代は古くてよかった部分をしっかり残して、馬だけではなく、人も大きく育つような時代になるのではないか。そして、世界がもっと近くに感じられるようになる。

 そんな風に思わされただけでも、時代が変わったといえるのかもしれない。

 もっとも、こと自分においては、勝ったロジャーバローズを相手として買い切れなかった後悔で、しばらく、歯軋りをして立ち上がれなかったような始末。

 競馬の未来よりも、まずは自分の将来をもう少しマシにすることが先決なようです。

美浦編集局 吉田幹太

吉田幹太(調教担当)
昭和45年12月30日生 宮城県出身 A型
道営から栗東勤務を経て、平成5年に美浦編集部へ転属。現在は南馬場の調教班として採時を担当、グリーンチャンネルパドック解説でお馴染み。道営のトラックマンの経験を持つスタッフは、専門紙業界全体を見渡しても現在では希少。JRA全競馬場はもとより、国内の競輪場、競艇場、オートレース場の多くを踏破。のみならずアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、イギリス、マレーシア、香港などの競馬場を渡り歩く、案外(?)国際派である。