七年目の本気(宇土秀顕)

 夏競馬のステージは既に福島から新潟へと移っています。前回のコラムでも触れたように、夏の福島開催は“夏競馬”というよりも“梅雨競馬”といった趣が強く、夏に突入したと実感できるのは、やはりこの新潟開催に入ってからでしょう。

▼牝馬が席巻してきた夏のスプリント
 その夏の新潟競馬の風物詩となっているのが、今週のメインレース・アイビスサマーダッシュです。照りつける夏の太陽の下、熱気で揺れる1km先のスタート地点。遥か陽炎の彼方から各馬がゴールを目指して一直線に飛んでくる姿は、直線競馬ならでは。そして、夏競馬ならではの光景といえるでしょう。  ところでそのアイビスサマーダッシュですが、現在、牝馬が実に7連勝中。同じ夏のスプリント戦である函館スプリントSと同様、牝馬が圧倒的な強さを誇っている重賞です。“夏は牝馬”の格言、確かにずっと以前からあるものですが、夏のスプリント戦線の整備によって、改めてその言葉を思い知らされたというところでしょうか。  アイビスサマーダッシュと言えば、同レースも含めて6年前からスタートしたサマースプリントシリーズ。同時にスタートした中距離のサマー2000シリーズとともに、それぞれのカテゴリーで夏の総合チャンピオンを決めるという企画です。そしてこのサマースプリントシリーズの結果に、より色濃く映し出されているのが、今も述べた“夏は牝馬”の格言。過去6回の結果は下記の通りですが、06年シーイズトウショウ、07年サンアディユ、08~09年カノヤザクラ、10年ワンカラット、11年エーシンヴァーゴウと、6頭のチャンピオンはすべてが牝馬。そして、2位も08年のキンシャサノキセキを除く5頭が牝馬。このサマースプリントシリーズはまさに、牝馬のためにあると言っても過言ではないでしょう。

年度 順位  馬  名 性齢 ポイント 函館SS アイSD 北九州記 キーンC セントS
06年  シーイズトウショウ メス6 22P
 ビーナスライン メス5 14P
 サチノスイーティー メス3 12P
07年  サンアディユ メス5 23P
 アグネスラズベリ メス6 16P
 クーヴェルチュール メス3 14P
08年  カノヤザクラ メス4 22P
 キンシャサノキセキ 牡5 14P
 シンボリグラン 牡6 13P
09年  カノヤザクラ メス5 18P
 アルティマトゥーレ メス5 16P
 グランプリエンゼル メス3 14P
10年  ワンカラット メス4 20P
 メリッサ メス6 16P
 ダッシャーゴーゴー 牡3 13P
11年  エーシンヴァーゴウ メス4 26P
 カレンチャン メス4 20P
 テイエムオオタカ 牡3 11P
 トウカイミステリー メス5 11P

 また、シリーズにおける牝馬と牡・セン馬の対戦成績を年ごとに振り返っても……。

年度 牝馬 牡・セン馬
2006年 5勝 0勝
2007年 4勝 1勝
2008年 3勝 2勝
2009年 3勝 2勝
2010年 4勝 1勝
2011年 5勝 0勝

 ご覧のとおり、牝馬による2度の“完全試合”を含め、6年すべてで牝馬が勝ち越しており、トータルすると牝馬が24勝、対する牡・セン馬は僅かに6勝。比率で言えば実に4:1。漠然と、牝馬がよく勝っているなあとは感じていても、ここまで大差がついていたとは……。
 一方、同じサマーシリーズでも、中距離のサマー2000シリーズとなると話は別。こちらは過去6頭のチャンピオンのうち5頭までが牡馬で、牝馬の優勝は昨年のイタリアンレッドが初めて。明らかに牡馬が優位に立っています。それを思えば、サマースプリントシリーズにおける牝馬活躍の要因は、必ずしも“照りつける夏の太陽”がすべてではなく、“距離”だの“フラットなコース”など、複合的な要素が絡んだ結果と捉えるのが妥当かも知れません。

▼7年目に異変が起こる
 まあ、要因はどうであれ、昨年までは牝馬が大手を振ってきたサマースプリントシリーズですが、7年目を迎えた今年はちょっとした異変が。シリーズ第一戦の函館スプリントSでは久しぶりに牡馬のドリームバレンチノが優勝、そして、今年から第2戦として新たに組み込まれたCBC賞でもやはり、牡馬のマジンプロスパーが勝利を飾ってみせました。シリーズ7年目にして、やっと本気になった牡馬勢。今週のアイビスサマーダッシュでも牝馬の8連勝を阻止する男馬が現れるのか、それとも、今年も牝馬が真一文字に直線コースを突き抜けて見せるのか……。大いに注目される一番になりそうです。

美浦編集局 宇土秀顕