JBCを振り返る(赤塚俊彦)

 少し前の話になってしまいますが、ご容赦いただき、昨年の秋、11月4日に初めて佐賀競馬場で行われたJBCを振り返りたいと思います。レディスクラシックはアンモシエラ、スプリントはタガノビューティー、クラシックはウィルソンテソーロが制し、大盛況となりました。当時の話を横山武史騎手、石橋脩騎手、小手川準調教師に取材しましたので、是非読みながらもう一度レースをご覧下さい。より理解が深まり、楽しめるのではと思います。(取材日2024年11月20日)

 

【JBCレディスクラシック アンモシエラ 横山武史騎手】

JBCレディスクラシックを制したアンモシエラ

――見事な逃げ切り勝ちでした。2周目の3コーナーからリードを広げ、そこからは内に進路を取りましたね。

横山武 内側の馬場が深かったので、1周目から内を通っては厳しかったと思いますが、1周目は馬場の真ん中の外目を通ったことで体力を温存できましたからね。最後はリードを生かすために敢えて内に入れました。正直あれはギャンブルでした。グランブリッジが強いと思っていたし、どうしたら勝てるかを考えていたんですが、馬がよく頑張ってくれたし、うまくいきましたね。地方でGⅠ(級)を勝つのは初めてだったので嬉しかったです。

――前日までアメリカのブリーダーズカップに参戦していましたし、強行日程で大変でしたね。

横山武 実はアメリカできちんと体重を計る術がなく、帰ってきてすぐに佐賀での53キロだったんです。あまり体重がオーバーしてしまっていると絞れなくなるので、帰りの飛行機では機内食を食べずに帰ってきました。「ビーフorフィッシュ?」と聞かれて「No!いらない」って(笑)その分、競馬場についてすぐに絞れました。大変でしたが、こうやって勝つと疲れが吹き飛びますね。

直線での進路取りは「ギャンブルだった」と話す横山武史騎手

 

【JBCスプリント タガノビューティー 石橋脩騎手】

JBCスプリントを制したタガノビューティー

――ハナ差の大接戦を制しての勝利。正直、レース前は佐賀の小回りコースは合うのかなと思っていたんですが。

石橋脩 気分屋なんですかね?分からない面はありますが、結構競馬場によって行きっぷりが良かったり悪かったりする馬なんです。佐賀が合うかどうかは何とも言えなかったですが、返し馬での雰囲気が凄く良くて、これならいけるかなと思いました。実は以前に名古屋で走った時(2022年かきつばた記念)も進みが良かったので、何となく雰囲気が似ているのも良かったのかもしれないですね。レースは最初の1~2コーナーで豊さんの馬(武豊騎手騎乗のチカッパ)が内目に進路を取るのが見えました。ついていくことも考えましたが、それでは届かないとも思ったので、あの馬が内に進路を取った瞬間、自分は外を選びました。しっかりと馬が動ける状態にあったこと、返し馬から進みの良さを実感できたことがあの進路取りにつながりました。

――しかし、2歳の夏のデビューから7歳で初めての重賞勝ち。息の長い活躍でようやくタイトルを獲得しました。5年以上の付き合いですが、2歳時から何か変わった点はあるんですか?

石橋脩 いい意味で変わらないですね。7歳になってもまだ若いというか、衰えなどなく、当時と変わりないです。稽古でそれほど動くわけではないですが、却ってそれがいいのかもしれません。無駄な消耗はせず、レースで頑張ってくれて、馬がもう分かっているんでしょうね。とはいえ、これだけ長い間高いレベルで活躍しているのは本当に頭が下がるし、管理している厩舎スタッフさんのおかげだと思います。ずっと乗せ続けてもらって、GⅠ(級)を勝たせてもらい、感謝しかありません。

これまでの38戦のうち29戦で手綱を取る石橋脩騎手

 

【JBCクラシック ウィルソンテソーロ 小手川準調教師】

JBCクラシックを制したウィルソンテソーロ

――3コーナーから先頭に立つ形で最後は圧勝。強かったですね。

小手川 位置取りも仕掛けのタイミングもドンピシャで、さすがは佐賀で生まれ育った川田騎手でしたね。小回りコースなので位置取りやコース取り、仕掛けのタイミングがより重要になると思っていましたが、さすがでした。そして、それに応えた馬も頑張りました。実は返し馬に行って川田騎手に「素晴らしいデキです。これなら大丈夫」と言ってもらえたので、いい状態で臨めたのも大きかったと思います。以前よりもパドックから落ち着いていたし、春にはドバイ、秋には韓国にも行ったので、そういった経験を力に変えることができたのかなと思います。体重はそう変わらないんですが、以前は芝向きかなと思えた体つきも大分ダート馬らしくなってきましたからね。

――当日は小桧山元調教師も佐賀にいらしたそうですね。

小手川 そうなんです。勝った後、「俺を超えるなよ」なんて言われたんですが、とても喜んでくれて思わず抱きしめられました(笑)師匠である小桧山先生の目の前で勝つことができて、少しは恩返しができたのかなと思います。

GⅠ級初制覇で師匠に恩返しができたと語る小手川調教師

 

 その後、アンモシエア、タガノビューティーは未出走ですが、ウィルソンテソーロはチャンピオンズC2着、転厩を経て東京大賞典でも2着しました。年が明け、佐賀から競馬ファンを熱くさせた3頭の更なる活躍を期待したいですね。

 

赤塚俊彦(厩舎取材担当)

1984年7月2日生まれ。かに座。千葉県出身。2008年入社。美浦編集部。

X(旧Twitter)やってます→@akachamp5972

  ちょうどJBCが終わって後日取材をした日が前回の私のトレセン通信担当日とあり、執筆が間に合わず。丸2か月開いて、いささか旬が過ぎてしまったことをお詫びします。

 アンモシエラは2月11日船橋のクイーン賞、タガノビューティーは2月2日東京の根岸S、ウィルソンテソーロは2月22日のサウジCを目標に調整中。特にタガノビューティーは当時GⅠはおろか、重賞すらまだ未勝利。「全国どこにでも乗りに行く」とコンビを組み続けた石橋脩騎手での初タイトルには興奮しました。フェブラリーSでの引退、種牡馬入りの話もあり、あと2戦頑張ってほしいですね。

 そしてご存知の通りウィルソンテソーロは取材後、諸事情によりこの間に転厩がありました。現在は高木厩舎所属ですが、今回掲載許可を下さった小手川調教師に改めてお礼申し上げます。

 文中の写真にあるように今回のGⅠ級勝利のお祝いと取材のお礼に私から3人にカラーパネルをプレゼントさせていただきました。3人ともとても喜んでくれました。おめでとうございます。