第19歩目 馬場のすべてを教わりました(唐島有輝)

「馬場のすべて教えます2~JRA全コース徹底解説~」(小島友実/主婦の友社)を読みました。

この本を読もうと思った理由はふたつあります。ひとつめは普段仕事でお世話になっている小島さんが書いた本だからですが、もうひとつ自分の中で大きかったのが「馬場のことについて自分はまったく無知だな」と思ったからです。

競馬ブックの記者として恥ずかしい話ですが、実はこの本を読むまで「エアレーション」と「シャタリング」の違いを知らなかったくらいのレベルでした。作業名と機械名をごっちゃにしているなんて考えられないですよね。ほんと蹄跡あったら入りたいです。

なぜ馬場について無頓着だったのかというと、例えば馬場にスポットライトが一番当たるのがレコードタイムが出た時だと思うのですが、速い時計が出る要因は「ペース」と「馬の能力」が比重として大きいと今までの自分は考えていて、あまり馬場に対して興味を持つということをしてきませんでした。予想をする際も、「速い時計が出るから先行馬が有利」とか「今日は外伸び馬場だ」とかはジョッキーの読みに任せようと。

ただ、ここ数年で競馬の情報化が一気に進みました。「含水率」は2018年から、「クッション値」は2020年からJRAのホームページで公表されています。それこそエアレーション作業を行ったのかどうかもそうですし、いつ散水を行ったのかもかなり細かく記載されています。正直、ここまで細かく公表する必要があるのか、と思ってしまうほどです。ちなみに競馬ブックWEBではTMによる開催日の馬場傾向の解説ページもあります。

ここまで情報が公開されているわけで、もし仮に自分がファンの方から馬場についての質問をされた際に、答えられないようではダメだなと。しっかりと競馬を学ぶためにも、ちょっと難しいかなと思いつつ手にとって読んでみました。

すると、そんな素人の私でもスイスイ読めるくらい解説が丁寧で分かりやすかったですし、知らなかったことが山ほどあって、もう抜群に面白い。買ったその日のうちに一気に1周目を読み終えましたし、ちょっと難しいなと思ったところでも何度か読み返すうちに理解できてきました。今でも競馬場への通勤電車の中で読んでいるくらいで、読む度に毎回新しい発見もあります。

 

というわけで、どのあたりが面白かったのかをネタバレになり過ぎない程度に軽く紹介したいと思います。

 

主な流れは以下のとおりです。

第1章 馬場の基本
第2章 全10競馬場 馬場&コース徹底解明
第3章 馬場の管理
第4章 馬場にまつわる素朴な疑問
第5章 JRA騎手&JRA馬場造園課座談会
第6章 地方と海外の馬場

他にも「馬場の小ネタ教えます」というミニコラムがその1~4まであります。

 

もちろん、どれも面白かったのですが、あえてピックアップすると以下のふたつが個人的に特に興味深かったです。

(1)第1章⑤含水率

(2)馬場の小ネタ教えます その3~4

 

まず(1)について。

含水率というのは馬場に含まれる水分量。含水率が低ければ乾燥していて、高ければ湿っています。この数値によって、例えば同じ芝の良馬場でもパンパンなのか稍重に近いのかが分かります。

ただし芝コースの場合、含水率と馬場状態区分の関係(○○%までは良、△△~□□%だと稍重など)が、実は競馬場によって数値も幅も違うのです。この本だと例に出されているのが東京と小倉。引用すると「例えば芝の含水率が13.1%の時、東京競馬場では良になるが、小倉競馬場では不良になるケースがある(p65)」と書かれています。これって結構びっくりじゃないですか。よくよく考えてみると、JRAのホームページで含水率表を見ることはあっても、これを競馬場毎に比較したことはありませんでした。

ちなみに数値の基準が違うのは、路盤に使われている砂の種類が競馬場によって違うから。また、同じことはクッション値にも言えます。つまり単純な数値ではなく、同じ競馬場で比較するのが大事だ、ということです。なぜ路盤に使われている砂の種類が違うのか、その種類は何なのか、といったもっと詳しい説明や、各競馬場の数値の基準は本に書かれているので、ぜひ読んでみてください。

 

そして(2)について。

まだ研究段階のようですが、今東京競馬場でドローンで撮影した画像から芝の状態を数値化し、それを芝の生育管理に生かそう、という取り組みがされているそうです。

このあたりの詳しい説明も本を見ていただきたいですが、これってかなり革命的なことですよね。

ここから先は自分の解釈ですけど、これを応用すればたとえば「3コーナーは内から2頭目あたりまでが荒れているけど、直線はほぼフラットで内が伸びる」のような、今ならジョッキーの感覚的な部分が分かりやすくなる、ということになるかもしれないってことですよね。もちろん、スポーツとして、ギャンブルとしては、このあたりのジョッキーの馬場読みや駆け引きも見ていて楽しいところなので、謎な部分も残していた方が面白いのではないか、と思う気持ちも少しあるのですが、この取り組みはかなり凄いことだと思います。

 

そして以上の2点の他に本全体を通して感じたのが、JRAは現状で満足せず、常に新しいチャレンジを行っているのだな、ということです。

普通、今まで行っていることで問題がなければ、次も同じ方法を用いたくなるじゃないですか。でも、馬場管理に関しては、その年によって雨量が違ければ気温も違う、開催の時季や日数も年によって微妙に違うわけで、これでOKということがない。より安全で且つ公平な馬場を目指すことに終わりはないのかもしれません。先に書いた「細か過ぎるくらいの情報公開」も、より公平にしてファンの方に競馬を楽しんでもらおう、という気持ちの表れなのでしょう。

また、そういった日々のチャレンジ精神もそうですし、小島さんの熱意や取材力もそうですが、見習わなければいけないことが自分にはたくさんあるなと感じました。

 

感想は以上です。

 

どの部分が刺さるのかは人によって違うと思いますので、ぜひたくさんの方に読んでいただきたいです。馬場に興味がある方だけでなく、私のように馬場にまったく詳しくないという方に対して特にそう思います。

知らなかった世界を知ったときの楽しさって何ものにも代え難いじゃないですか。同じような感覚になってくれる方がいてくれれば嬉しいですし、競馬をより深く好きになってくれる方が少しでも増えたらと思い、僭越ながら紹介いたしました。

 

美浦編集局 唐島有輝

 

 

唐島有輝

1993年7月11日生まれ。2017年入社。美浦時計班。

実を言うとこの本を買うまで「馬場のすべて教えます」のパート1があることを知りませんでした。これまた凄く恥ずかしい話です。ただ、時系列を遡るという面白さもあるかな、と思うので、スターウォーズ的な感覚で第1弾も読んでみます。この調子だと馬場専門家専門家になりそうです。