GⅠ勝ち馬で振り返る国枝厩舎1000勝の歩み・② (田村明宏)

 前回のコラムではアパパネまでを回顧してもらったが、今回はその続きを。朝日杯FSを勝ったダノンプラチナから。「ダノックスの野田さんが千代田牧場の生産馬を買われて、その後に私の厩舎で預かることになりました。新馬戦は勝てなかったのですが、そのあと2連勝してGⅠに挑むことになったのですが、登録の段階で頭数がフルゲートを超えていたこともあって抽選待ちの状況でした。結果的にそれを掻い潜ってレースでは1番人気に応えて勝ってくれました。血統的にはクラシックでもと思っていましたが、反応が良過ぎる面があってマイルまででしたし、足元が弱くて古馬になってからはGⅠを勝てなかったのは残念でした」舞台が阪神コースに替わって初めての勝ち馬。歴史に名を刻んだ一頭だった。

 そして国枝厩舎、いや日本を代表すると言ってもいい歴史的な名馬アーモンドアイの登場だ。「シルクレーシングの所有馬でデビュー前に見せてもらった時の印象が抜けて良かったです。牝馬ながら馬格があってバランスが良かったし、血統もいいので楽しみにしていました。厩舎に来て初めてキャンターをやったときも凄くよくて他の馬とは違うと感じました。デビュー戦は距離不足もあって負けましたが、その後の活躍は皆さん、ご存知の通りでしょう。5歳秋に天皇賞を勝って平地芝GⅠ勝利のレコード記録を達成してホッとしたところで最後のジャパンカップに挑むことになったのですが、当時は新型コロナの規制が今よりも厳しくて入場者も制限されていましたからね。そうでなければ大変な盛り上がりになったのかなと今でも思うことはあります。この馬に関しては育成のノーザンファーム天栄とうちの厩舎が連携して調教していましたが、どちらが良かったというより基本的にはこの馬がもっていた素材の良さを生かせたということだと思います。うちの厩舎も含めてアーモンドレベルではなくても素質があってもうまく生かし切れなかった馬がいる中で肉体的にもメンタルの面でも壊さずにいけたのが良かったです」トレセンの馬房数の限度、外厩施設の充実、馬の体質面、複雑な課題がある中ですべてがうまく噛み合った現代の名馬だろう。そう考えると今年、顕章馬に選ばれなかったのは残念でしかない。

 続いて母アパパネの4番仔にあたるアカイトリノムスメ。「お母さんとはタイプが違ったけど、いい馬でした。デビュー戦は目覚めていなかったのか7着に終わりましたが、2戦目から一変。赤松賞を勝つところまではアパパネと一緒でしたが、当時とは日程が違ったので阪神JFには向かわなかったのです。3歳になってからも桜花賞、オークスともう一歩届かなかったけど、秋華賞を勝ってくれて親孝行をしてくれました。その後は残念な形で引退になりましたが、繁殖としての役割もあるので無理しなくて正解だと思っています」名牝から名牝へ。師のGⅠ制覇の出発点となった金子オーナーの思い入れの結晶といっていい血統だけにどんな仔が生まれるか楽しみだ。

 そして最後はまだ現役のサークルオブライフ。「2歳の5月頃に預かることが決まったのですが、結果的にこの世代の中では一番最後に決まった馬なのです。それが一番、活躍してくれたというのはありがちなんですけどね。きょうだいはあまり活躍していなかったけど、牝馬で馬格があっていい馬だなと思いました。デビュー戦で負けたけど、相手は皐月賞、ダービー2着のイクイノックスだから今から考えると仕方ないですよね。そこからは3連勝で阪神JFを勝ってくれて。今年に入ってからは期待に応えられてないけど、まだ先があるのでこれからの楽しみです」今週の紫苑Sから復帰の予定で仕上がりひと息と伝えられているが、仕上げ上手な師のことだから目標のレースでは結果を出せるはずだ。

 ここまでかなりの長編になったが、取材の後にもハヤヤッコが函館記念を制覇。重馬場を予期していたかのような起用でいつもながら感心してしまった。調教師の役割と言えば馬を仕上がる職人というのが一番なのだろうが、それにプラスして柔軟な発想というのが師の成功の秘訣なのではというのが私の感想だ。

美浦編集局 田村明宏

田村明宏 (厩舎取材担当)
昭和46年6月28日生 北海道出身 О型
長い夏競馬が終わって今週からは中山開幕。秋のG1シーズンに向けてステップレースが続くことになる。今週の注目馬は大レースのステップの更に前段階にある2勝クラス白井特別を予定のエピファニー。アーモンドアイの現役時代を知る宮田師は「まだ、完成途上ですが、状態は前走以上でポテンシャルは上位」と将来性込みで期待している。