改めて見る〝夢〟の続き(和田章郎)

 〝夢〟を見ること、ありますか?
 あ、キング牧師の「I Have a Dream」の〝Dream〟ではなくて、いわゆる、寝ている間に見てしまう夢のこと。

 発現する要因が無意識なのか意識下にあるのかわかりませんが、ある年齢の頃まで、大学時代の試験前に焦っている自分、みたいなものが定期的に現れたものです。おそらく似たような経験を多くの方がお持ちかと思われます。仕事上の期日が迫っているのに、まったく手をつけていなくてビビリまくる、みたいな内容のもの。ありませんか?

 これ、心理学のユング派ではないですけど、夢判断的にはわかりやすい内容になるのかもしれません。だからこそ、それなりに年齢を重ねたら見なくなるんじゃないか(克服して?)などと思っていて、実際そのテのものは見なくなっているのですが、そうでないもの、つまり「今の夢って一体何?」みたいな内容のものは、相変わらず結構な頻度で見てしまいます。

 この寝ている時の夢。すべてではなくたまに、ではあるのですが、途中から内容を操作できるようになってたりします。これは〝特技〟の部類になるのかな?一旦、ぼんやりと覚醒して、「これは夢だな」と感じたところからの続きの部分。
 それは要するに、夢をみるというよりは〝妄想〟をしていることになるのでしょうか。ということは、その先に見ているのは、まさに「I Have a Dream」の〝Dream〟そのものと言えるのかもしれません。

 当コラムの前進である『東西編集局リレーコラム』がスタートしたのは2011年1月。
 その第1回目を担当した際のタイトルが〝初夢〟でした。

 内容はというと、海外に移籍したJRAのジョッキーが、当たり前に現地で活躍するようなことがないのだろうか?という妄想話。勿論、様々な障壁が立ちはだかるであろうことを承知のうえで。

 それからまもなく10年(!)が経過しようとしているのですが、残念ながら妄想は夢のまま。夢はしょせん夢、なのだと思うとしても、とりあえずここ数年でJRAを取り巻く環境そのものが劇的に変化した、という側面も影響しているようには思います。

 07年に国際セリ名簿のパートⅠ国に昇格して以降、ますます国際化が加速したのは周知の通りですが、ここ10年で人的な部分で象徴的だったのは、デムーロ、ルメールといった外国人騎手がJRAに移籍してくるようになったこと。日本人の騎手の海外移籍云々どころの話ではなくなってしまいました。

 そのうえで、優勝劣敗の大義名分のもと、それまでに既に広がりつつあった騎手の成績格差がどんどん大きくなっていきます。そういう中で海外へ出て冒険しよう、したい、と思ったとしても、そのモチベーションをどう持ち続けるのか。よほどのことでもない限りは、なかなか難しいことだと想像できます。

 そんなことを思い、どことなく八方塞がりで悶々とした気分に包まれた数年がありました。この時代に、何も変わることがないのだろうか…と。

 そこにオーストラリアで騎手免許を取得し、シンガポール、マレーシア等を転戦後、12~13年頃から腰を落ち着けた韓国で活躍する藤井勘一郎騎手が現れます。15年にはNARの短期騎手免許を取得してホッカイドウ競馬、南関東で騎乗。6度目の受験で騎手免許試験を突破し、昨年からJRAに移籍。ニュージーランドで騎手免許取得後、JRAに移籍した横山賀一元騎手以来の〝逆輸入〟騎手が誕生しました。昨年の15勝はいささか物足りなさがあったかもしれませんが、今年は先週の時点ですでに15勝。3月のフラワーCでJRA重賞初制覇を飾っています。

 その6カ月後。カナダのジョッキークラブに所属し、現地でデビューした日本人騎手である福元大輔騎手が、カナダ3冠レースの第一弾、カナダのダービーに相当するクイーンズプレートを制した、というビッグニュースが入ってきます。
 競馬学校の受験を2度失敗し、単身、カナダへ渡っての快挙達成。97年10月生まれとのことですから、まもなく23歳になろうという若さです。若いからこそできたチャレンジ、とも捉えることもできますが、だからと言って決して簡単なことではなかったはず。いつか北米の馬に騎乗してジャパンCに来日する、なんてことがあるのかも。これは〝夢〟とか〝妄想〟の類と言って済ませられることでしょうか?

 ここまで書いてきて、改めて不思議に思えてしまうことは少なくありません。
 競馬学校の在り方とか、競馬学校以外からの騎手免許へのアプローチ方法とか。その一方で8月5日に一部見直しが発表された騎手免許試験では、外国人騎手の短期免許取得の要件についても変更が加えられました。「女性騎手がより活躍できる環境を整えることを目的として」と概要にある通り、要は女性騎手に門戸を広げましょう、という意図で設けられたルール。これとて一見すると結構なことだと思う反面、日本の若手騎手との間で生じる重要な問題が置き去りにされている感も否めません。

 ちなみに、の話ではないのですが、〝女性騎手〟〝日本から海外へ移籍〟というワードを持ち出すと、南関東(浦和)でデビューし、アメリカに渡って200勝以上をあげた土屋薫という、それこそレジェンドがいます。JRAに所属したわけではありませんし、どういう経緯があったのかはわかりません。とにかく彼女は日本に戻ってくることなく海の向こうでキャリアを終えて、現役を引退しました。
 ここでイチローや松井秀喜を持ち出すのが適切かどうかはわかりませんが、本場できちんと結果を残したアスリートとして、格好いいじゃないですか。
 そういうことを成し遂げたJRAの騎手は、今のところまだ現れていません。

 個別の、こまかい案件についての言及は避けるとして、ただ単純に一人の競馬ファンとして夢が見たいだけなのです。その一番の対象になる馬はその走りだけで十分ですが、騎手については、対象が人である以上、求めることが多くなりがちです。
 その思いを強くした時に、現行のルールがその資質を育む過程で障害になってはいないのか?また、そのことを検証する必要はないのだろうか?という話。
 これは個人的な〝夢〟や〝妄想〟とは別にして、改めて思うわけです。

 だって大好きな競馬の、重要な構成要素である騎手ですから。繰り返しみたいになりますけど、その存在は特別な、畏敬の念を抱く対象であってほしい。ストレートに言ってしまえば、リスペクトできるような。
 これは本当に、一競馬ファンの、まったくもって一方的な、物凄く高い要望になるのかもしれません。
 ですが競馬を始めた頃からの願い、希望であり、どうしようもなく今も見続けている〝夢〟なのです。

美浦編集局 和田章郎

和田章郎(編集担当)
昭和36年生 福岡県出身 AB型
1986年入社。編集部勤務ながら現場優先、実践主義。競馬こそ究極のエンターテインメントと捉え、他の文化、スポーツ全般にも造詣を深めずして真に競馬を理解することはできない、がモットー。残り3カ月になった2020年。北海道?九州?それとも自粛?で頭を悩ませているところ。