新馬戦、新潟2歳Sを連勝したウーマンズハート。上がり3F32秒0の末脚を使って圧勝したデビュー戦の走りに魅了されたファンは多いと思われるが、私もそのひとり。来年の桜に想いを馳せて、タイトル奪取の喜びをかみ締めている。感覚的な「好き」、「強い」がまず最初だが、こればかりに頼ると、馬券の壁にぶちあたるので、数字の裏づけを探る作業を試みると、ウーマンズハートの初戦が記録的にズバ抜けていることが分かった。
8月3日、新潟の芝外回り1600mで行われた新馬戦の勝ち時計は1分36秒2。3F37秒8、5F63秒5で流れ、ラスト3Fは11.1―10.7―10.9。この1F10.9が注目すべき数字だ。全面リニューアルなった2001年以来、新潟の芝でレースの1Fが11秒0を切ったのは、他では01年にエイシンコジーンが優勝した轟S(1600万、1000m)、14年にルージュバックが優勝した新馬戦(芝外回り1800m)の2例だけ。1000mの前者はさておき、1800mの後者は3~6Fが14.0―13.9―13.8―13.6、5F68.7の超ドスローで、勝ち時計も1分55秒5と極端に遅い。そこでの11.7―10.7―10.8と比較し、ルージュバックののちの活躍(GⅡ2勝、GⅢ2勝、オークス2着)を加味すれば、ウーマンズハートがいかに優れているか分かる。直線半ば1分16~17秒の時点(1200m過ぎ)で左手前に替えて内にササると左手前のまま16完歩走り、そのあと右手前に替えて32完歩半でゴールに到達。ラストは抑え気味の余裕があり、1Fを27完歩半で爽快に駆けた。
では、2戦目の新潟2歳Sはどうだろうか。勝ち時計1分35秒0。35秒を要したのは競馬場リニューアル後の02年以降で6回しかなく、うち3回が重、不良、稍重なので、良馬場としては2番目タイに遅いタイム。自身の上がり3Fはメンバー最速の32秒8であり、過去の優勝馬で上がり3F33秒0を切っていたのは、シンメイフジ、モンストール、ハープスター、ロードクエスト、フロンティアの5頭いる。レースの上がり3F33秒6はフロンティア(33秒0)、モンストール(33秒1)に次いで3番目タイ。レース1F11秒6はフロンティア(11秒2)、ハープスター、ロードクエスト(11秒4)に次ぐ4番目タイ。歴史的とまでは言えないが、週を通して、前日の深夜から明け方にかけても雨が降った馬場状況、1000m通過がレース史上3番目に遅いスローのなか内へ行って減速する場面がありながら捩じ伏せたことを考慮すれば、優秀な部類と言えるだろう。
ところで、初戦同様にやはり内にモタれていたのは覚えておきたい癖。直線は1分20秒の時点(残り1F手前)で内にモタれ、1分25秒の時点(残り1F過ぎ)で左手前へ。1Fを28完歩半ほどで駆け、1F標で1馬身あった2着馬ペールエールとの差を逆転した。レース後の藤岡康太騎手の談話に「気性が成長すれば」とあり、まだまだ成長途上の段階での重賞Ⅴとなった。
私自身の坂路調教観察メモによれば、7月21日(日)に「飛ぶ」とある。これはいわゆるディープインパクトの「飛ぶ」ではなく、何かを気にしてよけるような「飛ぶ」。がむしゃらに走るのではなくて周りの状況が気になったのか、まるで人間のような仕草に感じ取れた。レースで内に行くのも、何かを気にする余裕があるためかもしれない。更に8月18日(日)に驚いたのが、まるで四肢にバネがついているかのような推進力(見た瞬間、ドクター中松のジャンピングシューズを思い出した←年齢がバレる例えだが)。レースリプレイを見ていてもトモの弾み方、前脚のシャープな出方と返しは異彩を放っている。
母レディオブパーシャはダート、芝の1200mで各1勝。兄デザートストーム(父ストーミングホーム)は芝1200mで2勝、ダート1000mで1勝。母の弟サドンストーム、ティーハーフ(父はいずれもストーミングホーム)は息の長い競走生活を送り、芝の短距離で重賞級の活躍をした。父がハーツクライに替わり、そのどれもにも似ていないが、父からも母からも高い競走センスを受け継ぎ、おそらく成長力にも富むウーマンズハート。純粋に「好き」。ファンとして見守っていきたい。
栗東編集局 山田理子
昭和46年6月22日生 愛知県出身 B型
水、木曜のトレセンではCWをお手伝いしながら障害コース、Bコースを採時。日曜は隔週で坂路小屋へ。調教時間が何より楽しく、予想で最重要視するのは数字よりも生身の馬の比較。人気薄の狙い馬、危ない人気馬を常に探している。09年より関西障害本紙を担当。週刊誌では15年より新たに「注目新馬紹介」のまとめ役を引き継ぎ、新馬の観察に一層力が入っている。