障害競走の飛越の際に、馬はどんな足の運びをしているのか。
馬群がバラけて分かりやすい箇所で確認しようと、アップトゥデイトの中山大障害でのふたつめ(第1号・水濠)、みっつめ(第2号・生け垣)をスロー再生してみた。右回りで入るスタンド前の水濠へは右手前でアプローチし、飛越直前は左後→右後、左前→右前で前躯を押し上げたあとに後ろ肢をほぼ同時に着いて、右前→左前→左後→右後の順に着地。ここで左手前に替わり、次の生け垣に向かうが、今度は飛越直前に右後→左後→左前→右前の回転襲歩を挟み、やはり左前→右前で前躯を押し上げて後ろ肢はほぼ同時の踏み切り。左前→右前→左後→右後の順で着地して、右手前で進んでいった。中山大障害の名物赤レンガへは右手前でアプローチ。右前から着地し、左手前での一完歩を挟むとすぐに右手前に戻して右回りのコーナリングに対応している。
先週日曜の中山第4Rのオープン戦を完勝したニホンピロバロンのレース終盤はこう。先頭に立った最後からふたつめの第4号を右前で着地すると、バンケットは右手前、その後は左手前で進んでいき、最終障害は直前でパタパタと完歩を合わせるようにして右手前で飛び、右前から着地して、直線のダートでも手前を替えることなくゴールしている。
前回のコラムで紹介した書籍「メカニズムから理解する馬の動き」の「アプローチ」の位相で、「障害物の直前の1歩では駈歩(きゅうほ・かけあし)のリズムは崩れて、斜対の2本の肢は別々に踏着し、四拍子の歩法になる」とあり、馬術と違い襲歩(しゅうほ・ギャロップ)で飛越をこなしている障害競走の歩法をまずは理解せねばと思ったわけだが、今まで何となくしか捉えていなかったことを申し訳なく思うぐらい、飛越と手前変換のスキルの高さに驚いた。左右の回りやアップダウン、障害の高さや幅、障害と障害とのあいだの距離が違うコース設定のなかで、自身の完歩と踏み切り脚を合わせ、その一方で左右の手前のバランスをとって疲労を抑えて体力温存に努めているのが凄い。周知の通り、アップトゥデイトの技は最高峰。どちらの脚でも踏み切れて、どちらの脚でも着地ができ、コーナーに合わせた手前変換も巧み。両トモをほぼ同時に着いた踏み切りは高い障害に対応するためのものだろう。きっと、まだまだ知らない障害飛越の技術があるはず。ハイレベルな阪神スプリングJをお見逃しなく!
栗東編集局 山田理子
山田理子(調教・編集担当)
昭和46年6月22日生 愛知県出身 B型
水、木曜のトレセンではCWをお手伝いしながら障害コース、Bコースを採時。日曜は隔週で坂路小屋へ。調教時間が何より楽しく、予想で最重要視するのは数字よりも生身の馬の比較。人気薄の狙い馬、危ない人気馬を常に探している。09年より関西障害本紙を担当。週刊誌では15年より新たに「注目新馬紹介」のまとめ役を引き継ぎ、新馬の観察に一層力が入っている。