タイムリーな話題ではないが、年末になると京都の清水寺で今年の漢字が発表される。私の子供の頃にはそんなものはなかったな、と思っていたが、調べてみると始まったのが1995年からで日本漢字能力検定協会のキャンペーンとして行われているものだという。ちなみに第1回の95年の漢字は「震」でその年に発生した阪神・淡路大震災に由来したもので昨年は「安」だったそうだ。95年の震については私が当時、栗東勤務だったこともあり、納得できるものがあるが、昨年の安は当初、安いという意味で解釈して何か安いものがあったかな?と理解できなかったが、安倍内閣による安全保障関連法の成立を象徴したもので「あん」と読まなければならなかったようだ。いずれにしても多くの人が暮らしている日本全体の1年間を漢字一文字で表すなんて随分、乱暴な話だなと思っていたものだ。
だが、先週社内の事情で競馬開催日にいつものレース後のコメント取材ではなく次走へのメモとレース成績を任されることになった。そこで初めて経験したのが各馬の走りを3文字の短評で表すという作業だ。いずれも弊社の週刊競馬ブックに掲載される重要な資料だが、出走馬の状態やレースでの位置取りなどはいつも確認していても、いざそれを3文字で表せとなると戸惑ってしまう。「逃切る」から始まり、楽逃切、鮮逃切、鋭逃切、……と続いて461種類の言葉があるが、不慣れなせいもあってなかなか適切な言葉が思い浮かばないし、同じ短評を使ってしまったりで思うように仕事が進まず、先輩記者の助言を受けながら何とか終わらせたが、まだまだ課題は多いなというところだ。「殿一気」とか「離楽勝」なんという馬を買っていれば気分もいいだろうが、中には「左失明」「右失明」というのもあって通常は使うことはなさそうだが、見ているだけで切なくなってしまう。
我々、記者の立場で言えばついつい自分の知っていることや調べたことを書きたくなってどちらかというと冗長な表現になってしまったりするが、一頭の馬の走りを3文字で表現するというのも意味があって普段は使わない想像力を要求されるものだ。3文字というと簡単で単純なものと思いがちだが、そこに凝縮された意味はなかなか味わい深く、的確な表現を見つけ出せればより多くの人に競馬の面白さが伝わっていくのではないだろうか。今週も「全的中」や「大穴当」を目指して地道に取材を続けたい。
美浦編集局 田村明宏
田村明宏(厩舎取材担当)
昭和46年6月28日生 北海道出身 O型
競馬用語には独特のものが多いし、関係者の表現もそれぞれで一様ではない。そんな中で記者の理解不足で聞き返してしまうこともあるが、言葉を置き換えて文章にしても本来の意味とは違うのかもしれない。今週は野暮にも意味を確かめてしまった大和田厩舎のアンジェリックに注目したい。「今回はここ数戦に比べていいです」という師の言葉を信頼する。