同僚はもとより、子供達にも笑われてしまうのですが、年に1度か2度、くらいでしょうか、動物園に行きます。
動物がいる広大な場所には、週末毎に必ずと言っていいほど足を運んではいるわけですが、そこはまあ一種類の動物しかいない競馬場ですのでね。そうではなくって、いろんな動物がいる、いわゆる動物園。幸田文の随筆集『動物のぞき』を読んだのは結構前のことですが、その影響があるのかどうかはわかりません。
つい先日も神戸市の王子動物園に行ってきましたが、それはまあ例外的な訪問として、普段は当然、関東圏が中心です。
日本で最も古い上野動物園が近いうえ、かつ入場料も手頃。周辺に美術館なども多いですから足を運びやすく、そこがホーム扱い。その他にも、よく知られている多摩動物公園や東武動物公園にも行きますが、あまり知られていないところでは千葉市動物公園がお勧めです(と言っても20年以上前に1度行ったきりですが)。
そこでキリンが走る姿(それも2頭の併せ馬。親子だったのかな?)を見ましたし、怒ったゾウが長い鼻でたくみに砂をつかんで勢いをつけて人に放つ、というシーンにも出くわしました。他所ではなかなか見れなくないですか?
行動展示で有名なのは旭山動物園ですが、千葉市動物公園での経験があったので、旭山の成功は妙に納得できたものです。
あまり知られていない動物園、と言えば、東京の武蔵野市にある「井の頭自然文化園」があります。学生時代、吉祥寺の、徒歩数分のところに住んでいた友人ですら知らなかったくらいで、井の頭公園内にある小ぢんまりした動物園です。
ただ、そこで唯一と言っていい大型動物であるゾウの〝はな子〟が、先月でしたかNHKの『ドキュメント72時間』で取り上げられていましたから、見られた方も多いかもしれません。
日本最高齢のゾウで、今年69歳?になるんだとか。30年以上も前ですけど、何度か行ったので、はな子も見たことがあるはずなんですが、記憶は薄れてしまってます。当時は競馬を始める前で、まだまだ動物園の楽しみ方がわかってなかったのかな、などと自己弁護を試みてみますが…。
ともかく、その番組の中で、外国から見学に来た男性が「60年以上同じ場所で飼育されているのは可哀想」「自然に帰してやるべき」といった主旨のことを言ってました。彼が〝飼育動物の現実〟をどこまで把握しているのか知る由もありませんが、むしろそれを聞いたはな子がどう思うのか、の方に興味がありました。
「ほんとにもうイヤになっちゃったよ」
なんでしょうか。
それよりは、
「冗談じゃありませんよ。今更、自然に帰れって、すぐに死ねってこと?」
「ここ、あんたが思ってるより居心地いいんだよ」
の方がしっくりきたりして。
直接、聞いてみたい気もしますが、はな子が本当に人の言葉を話せて気持ちを聞けたとしたら、それはそれで楽しく、嬉しい反面、やっぱりどこか怖いような気持ちになったりするかもしれません。
サラブレッドに置き換えてみましょう。
筒井康隆氏の短編小説に、『馬は土曜に蒼ざめる』というのがあります。この作品で主人公は「目が醒めたら馬になって」ます。カフカかよっ、と突っ込ませておいて、その後に抱腹絶倒の世界に引きずり込まれます。
そんな中でも、最も強烈に覚えているのが「驚いたことに、まぐさは食ってみるとめちゃめちゃ美味い。嘘だと思うなら食べてみるといい」みたいなセリフ(表現はもう少し違ったと思われますが)。
馬になった主人公がレースに出て云々、というストーリーの細かい内容については、よく覚えていないこともあるのですが、ここではさほど重要ではありません。
この作品中の馬の場合、もともとが人だったわけですが、要するに「人語を解して、自分の意思、感情を持った馬」が発する言葉の面白さ、興味深さ。
競馬ファンなら馬券を買う買わない(?)に関わらず、誰でも興味のあることではないでしょうか。いや、単なるファンに限らず、馬主さんや厩舎関係者にとってもそうでしょう。馬の意思、感情を聞いてみたいと思うはず。
もしも馬がしゃべって、その気持ちがわかるとすれば、単純に馬券の取捨に悩まされる部分が激減するかもしれません。少なくとも、買い目を絞りやすくはなりそうです。
関係者にしてみれば、調教の際やレースに使う際に、事故を大幅に減らせることにつながりそうですもんね。
ところが、です。
前述のはな子よろしく、馬が饒舌にしゃべり出すと、ちょっと怖い部分も出てこないかな、と感じる部分もあります。
ちょっと口うるさかったり、グチッぽかったりしたらウザかったりして?サラブレッドの場合は経歴を詐称することはできないでしょうけど、病気の症状などについてはそこらへんにいる人間同様、平気で嘘をつくヤツが出てくるかもしれません。
あるいは、レースについても具体的に、「また長い距離かよ」とか、「この騎手は勘弁して欲しいなあ」とか言い出したら面白いというより、露骨過ぎて笑えない感じになりませんか。
わからない部分があるからこそいいのだ、と結論づけるつもりはありません。
でも人語を話す動物がいない以上、人間がわかったように動物を語り、扱うことはしちゃいけないことではないか、というように思います。
動物園に行って檻や柵の中にいる動物達を見るのは、そのことを自らに言い聞かせるため、と言っては正直、格好良過ぎるようにも思います。単純にパンダが見たい、なんて気持ちもありますから。
ただ、どこかに人間の都合でこういうことになっていて、動物達についてわかったような気になっているのは、やっぱりどこか愚かしいことではないのか。これは動物園に行った際に、必ず感じられることのひとつではあります。
美浦編集局 和田章郎
和田章郎(編集担当)
昭和36年8月2日生 福岡県出身 AB型
1986年入社。編集部勤務ながら現場優先、実践主義。競馬こそ究極のエンターテインメントと捉え、他の文化、スポーツ全般にも造詣を深めずして真に競馬を理解することはできない、をモットーに日々感性を磨くことに腐心。今回の話の流れから、今年こそは旭山動物園を訪ねなくては、と思っているところ。