ちょっとだけリフレッシュ(吉田幹太)

 やらなければならないことが迫ってくると、旅に行きたくなる。

 わかりやすい現実逃避なんだろうと思う。そして、だいたい、決まった時期になるとこの感情が湧いてくる。3月下旬か、10月初旬。競馬で言えば春の福島開催の前と秋の福島開催の始まる少し前になる。

 季節として最高なのも要因ではあるのだろうけど、自分の場合はそうではない。ダブル開催というだけではなく、立て続けにGIも行われる。ない頭を絞ってあれこれ考え、仕事が滅法忙しくなる前に旅心がむくむくと湧き上がってくるのである。

 今年も高松宮記念が終わったあたりから無性に旅に出たくなった。頭に浮かぶのは誰もいないホームにぽつんと座っている自分の姿。遠くからかすかにレールの音が聞こえてきて、空がにわかに白んでくる。おもむろに立ち上がって、列車を待ち構える。これが無性にいい心地のような気がして、実現させたくなるのだから困ってしまう。

 いつものように競馬場帰りに呑んでいたら、期限が翌日までの青春18きっぷを某先輩からもらえることになった。急な話でそんなに遠くには行けないだろうけど、1日、タップリ電車に乗れれば、いくらかでも気持ちはリフレッシュできるのではないか。一方、自分の体力の衰えを日に日に感じているのも確か。昔のように一日中、列車に乗っていて果たして疲れが残らないだろうか?

 ほんの少し迷いながらも、もともと欲望に弱い体質。結局は切符をもらって、最後の一日を有効的に使わせてもらうことになった。

 そうなると、どこへ行こうか迷ってしまう。一度やってみたかったのは、高崎から小田原まで、湘南新宿ラインのグリーン車を存分に楽しむこと。グリーン料金は別にかかるが、51キロ以上はどこまで乗っても同じ料金。運賃はそれ以上に高くなるだけに、18きっぷじゃないとなかなかできない。

 しかし、これではいかにも目的が電車だけで有効的とはいえないかもしれない。いろいろ考えた末に、近くて意外と遠い日光を目指すことにした。

 プランAは前日の酒が残っていて早起きできず、通勤ラッシュを避けてから出発するケース。素直に大宮まで出て、宇都宮線で宇都宮へ出て日光線に乗る。これだと時間はそれほどかからない。

 プランBは奇跡的に早起きできたケース。常磐線で水戸まで上がって、そこから水戸線を使って小山まで出る。東北本線で宇都宮に出て、日光線に乗るという観光だけではなく、存分に列車を楽しめる旅。これならせっかくの切符を有効に使ったことになりそうだ。

 翌朝は5時半の目覚ましをアッサリと無視して、ようやく9時に起床。必然的にプランAを選択するしかなくなった。それでも片道約3時間の道のり。列車に興味のない人ならこれでも十分過ぎるほど乗った感覚になるはずである。

 実際、ちょうど桜が満開で散るか散らないかの瀬戸際。車窓から見える風景はどこへ行っても、どこを見渡しても桜で一杯。宇都宮にたどり着くまでの3時間、うっとりしてはうたた寝して。また起きてはうっとりする。これだけで旅情はかなり満たされた。

 しかも、肝心の日光線と日光東照宮は平日の月曜にもかかわらず、どこもかしこも外国人で一杯。更にはこれは自分だけの問題だけど、家康のお墓の矢印にフラッと足を向けてしまったら、結構な急坂を外国人の列と一緒に階段で登らされることに。息は切れるわ、足がガタガタになるわで……まさにくたびれ儲け。

 ひっそりとした感じを期待していただけに目当ての日光は少し残念。それでも観光大国である前に、桜の国であることを実感できたのは大きな収穫だった。そして、ほんの数時間でも列車に乗って、知らない土地に行くということだけでもリフレッシュするものだとも分かりました。

 元気な時はまずは外へ出て、いろんなことに触れた方がいい。これを教訓にして、仕事にも生かしたいと思います。

美浦編集局 吉田幹太

吉田幹太(調教担当)
昭和45年12月30日生 宮城県出身 A型
道営から栗東勤務を経て、平成5年に美浦編集部へ転属。現在は南馬場の調教班として採時を担当、グリーンチャンネルパドック解説でお馴染み。道営のトラックマンの経験を持つスタッフは、専門紙業界全体を見渡しても現在では希少。JRA全競馬場はもとより、国内の競輪場、競艇場、オートレース場の多くを踏破。のみならずアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、イギリス、マレーシア、香港などの競馬場を渡り歩く、案外(?)国際派である。