どうも、北海道ロスから回復しつつある丹羽崇彰です。
函館と札幌ではストップウォッチを左手に持ってピッピピッピと時計を押しているわけですが、本職?は栗東坂路の調教担当です。2013年入社して、その年の秋くらいからずっと坂路にいます。
坂路は通称“山”と呼ばれていて人の往来が少なく、まさに山篭りして仕事に励んでいるわけです。調教班や取材班が多くいるコースのスタンドを羨ましく思うときもありますが、私は口数の多い方ではないので、この静かな環境が意外と気に入っています。
競馬ファンの方ならご存知のように、栗東トレセンには調教用のコースとして、トラック型のコース(内側からA~Eの5コースに分かれている)と坂路の2つがあります。
追い切る馬は足元がウッドチップであるCコースと坂路の2つに集中し、栗東の場合、更に坂路はCコースの倍近い馬が追い切ります。追い日にあたる水曜日は戦場と化すわけですね。
さすがにもう慣れましたが、坂路に配属されたあとしばらくは、火曜日の夜が嫌で嫌で仕方ありませんでした。
さて、そんな坂路の仕事内容をの一部を紹介したいと思います。
現在、競馬ブック系の坂路担当は私のほかに、青木TM、信根TM、そして研究ニュースの若手・小野TMの計4人。
調教の時は1人と3人に別れ、1人の方は坂路のゴール寸前にある撮影スタンド(めっちゃ小さいので小屋と呼ばれている)に行き、残りの3人は坂路を正面から見る坂路調教スタンドから調教を見ることになります。
坂路調教で我々が押さえるポイントは基本的に4つ。
馬名(併せ馬の場合は内外)≧併せ馬の着差>乗り手>脚いろ
優先順だとこんな感じ。
馬名を控えていないと、あとで何の馬が追い切ったのか分からなくなります。ケイバブックの事務所に帰ったあと、調教中に撮影したビデオを皆で見返して精査するのですが、馬の特定ができなければお手上げですからね。併せ馬の内外の間違いも厳禁です。
馬名は時計になったもの(栗東坂路では599-449-290-145のタイムを切った馬)だけをノートに書き上げていくのですが、追い切りが多い水曜日、特に朝一番は人間の能力ではまったく追いつかないので、スマホ等のカメラを駆使して何とか調教時間内に全部書き起こします。
少ない時で500頭、多い時で700頭分の馬名を書くわけですから、1時間に1回くらい、意味もなく大きな声で叫びたくなります。ハピ、モイ、モサ、など2文字の馬はめちゃくちゃありがたい。
全部手書きなんて恐るべき後進性だ…と私も思いますが、手を動かさないと追い切った馬のことが頭に入ってこないので、仕方ないことだとあきらめています。
2番目に大事なのが併せ馬の着差。
こちらは追い切りを正面から見るスタンドからは判別しづらいので、ゴール地点をほぼ真横から見られる“小屋”担当がしっかり控えておきます。水曜日の最も忙しい時間は1分間に30頭以上来たりするので、目だけをスライドさせながら着差を確認します。首を横に振っている時間的余裕がないんですね。目線だけ見られていたら、完全に不審者です。着差が大き過ぎて分からない場合は、時計から判断したりもします。
小屋はずっと立ちっぱなしで、しかも前列に立つスポーツ紙のカメラマンさん越しに調教を見る必要があるので、体力的にしんどいです。窓がオープンなので気候の影響をモロに受け、また、信じられない大きさのスズメバチの襲来を受けたりもします。でも、呼吸がはっきりと聞こえるほど間近で馬を見られるのは、我々坂路担当の特権だと思っています。
3番目は乗り手です。
弊社の調教欄には騎手、調教師、騎手見習い(いわゆる赤帽)が掲載されます。あとでビデオで確認したり、厩舎取材班に聞いてもらったりできますが、個人的に騎手を見分けるのが好きなので、ここは逃したくないポイントです。
4番目が脚いろ。
坂路で使われるものは基本的に「一杯バテ、叩き一杯、一杯、稍一杯、強め、末強目、馬なり」の7種類です。
もちろん調教中にチェックできれば言うことないのですが、馬が多くて残念ながら全部は見られません。なので、ビデオを確認して脚いろを確定していくわけです。
調教でヘトヘトに疲れて帰社したあと、食事も摂らずすぐに2時間近くビデオを見るので睡魔との闘いです。30分に1回の割合で叫びたくなります。でも、ここでしっかり調教のおさらいをすることが大切です。そうでないと、いい調教短評を入れたり、調教解説を書いたりできませんからね。
調教ビデオを全部見たあとに清書を仕上げて、とりあえずひと段落。あとは坂路担当4人でレースを分担し、短評を入れて調教解説を書いていきます。(こっからもまた先が長いのだけど)
ざっとこんな感じです。
なぜこんな話をしたかというと、今週がスプリンターズSだからです。短距離とダートのG1は関西馬の出走が多いのですが、なかでもスプリントG1に出てくる馬の追い切りは栗東坂路率高し。
スプリンターズSの過去10年で見てみると、関東馬の出走が延べ34頭だったのに対し、関西馬が延べ121頭。うち、坂路での追い切りは延べ103頭にもなります。
すなわち、栗東坂路調教を見極めることができれば、グッと的中に近づくわけです。
今年のスプリンターズSの坂路は私・丹羽崇彰が担当することになりました。
自分でハードルを上げてしまった感はありますが、皆様の役に立つ情報をお届けできればと思いますので、是非、当日版&WEBをチェックしてみてください!
秋のG1戦線、快調な滑り出しをお祈りしています。
栗東編集局 丹羽崇彰
丹羽崇彰(調教担当)
1989年2月1日生まれ。2013年、キズナがダービーを勝った年にケイバブックに入社。普段は栗東坂路の調教や編集作業を担当。週刊誌の新馬紹介のコーナーを担当しているので、新馬の観察に特に熱を入れている。
今年は初めて函館→札幌と北海道シリーズ13週フル参戦しました。
最終日の最終レースが終わった時は感慨深かったなぁ。
もちろん秋のG1シーズンも全力で楽しんでいきますので、よろしくお願いします。楽しむ前に仕事しなきゃだめっすね。
Twitterを@niwa_bookのアカウントでやってますので、よければご覧ください。