血統閑談#008 7年目のレディジョセフィン(水野隆弘)

 日本時間8月28日の深夜、フランスのドーヴィル競馬場で行われたドーヴィル大賞G2にステイフーリッシュが出走し、逃げて2着となりました。ステイフーリッシュが日本を8月14日に出国したのを皮切りに、現在、栗東トレセンで出国検疫中のドウデュースは間もなく9月2日に出国。そのあとディープボンドが9月9日、美浦トレセンからはタイトルホルダーが9月16日に出国予定です。10月2日の凱旋門賞G1に向けて、準備が着々と進んでいます。
 ステイフーリッシュは父がステイゴールド。産駒は凱旋門賞G1で2着3回の実績があり、日本で最も凱旋門賞G1に近付いた種牡馬といえます。ドウデュースは父の母の父トニービンが1988年の凱旋門賞馬、タイトルホルダーは父の祖母の父がトニービンであり、母の父の父モンジューが1999年の凱旋門賞G1に勝っています。ディープボンドは父キズナが2013年に4着、母の父の父ダンシングブレーヴは1986年の史上最高とされる凱旋門賞G1に勝ちました。それぞれ凱旋門賞G1へのよすががあるものです。
 欧州では上半期の活躍馬がその後伸び悩み、夏にはいくつかブックメーカーがタイトルホルダーを暫定1番人気に押し上げていましたが、今週初めの報道によると現在世界ランキング首位のバーイードの凱旋門賞G1出走の可能性が出てきました。あくまでも、「馬場が悪化しなければ」という条件付きのオプションですが、マイル路線で無敵の9連勝、10F路線に挑んだ8月17日のインターナショナルSG1ではそれまでマイル戦で示した以上のパフォーマンスにより圧勝した今年の競馬の主役が登場すれば、日本勢には相手にとって不足なしです。あるいは突如想定外の巨大な壁が現れたともいえます。こちらは父が8連勝で凱旋門賞G1を制したシーザスターズ、その母アーバンシーも凱旋門賞馬です。
 今のところ出否未定のバーイードを別にすると、英国の主要ブックメーカーの多くはタイトルホルダーを抑えて5歳牝馬アルピニスタを1番人気に据えています。昨年、4歳春の時点ではリステッド勝ちしかなかったアルピニスタは、7月のランカシャーオークスG3に勝ったことをきっかけに本格化し、8月のベルリン大賞G1で後の凱旋門賞馬トルカータータッソを破ってG1初制覇を果たすと、9月のオイロパ賞G1、11月のバイエルン大賞G1とドイツの2400m戦線でG1・3連勝を果たします。今年は7月のサンクルー大賞G1、8月のヨークシャーオークスG1と連勝し、昨年から6連勝、G1は5連勝しています。アルピニスタは飲料の紙パックとしてお馴染みテトラパックで知られるテトララヴァル社の経営者のひとりで大富豪として知られるカーステン・ラウジング女史の生産所有馬です。白胴緑三本輪の勝負服は1998年と1999年の英チャンピオンSG1を連覇した名牝アルボラーダと同じです。アルピニスタの祖母アルバノヴァも同じ勝負服をまとい、5歳時にドイツ賞G1、ラインラントポカルG1、オイロパ賞G1とドイツの2400mのG1を3連勝した名牝で、3代母アルエットの娘が上記のアルボラーダです。4代母アルルカバの子孫には愛1000ギニーG1のイエスタデイ、仏2000ギニーG1のオージールールズ、サンクルー大賞G1のコロネット、ロイヤルオーク賞G1のアレグレットら多くの活躍馬がいます。この牝系をずんずんと遡るとムムタズマハルを経てレディジョセフィンに至ります。レディジョセフィンの子孫には、ナスルーラ、ロイヤルチャージャー、マームード、フェアトライアルにテューダーミンストレルといった大種牡馬が現れ、現代競馬のスピードの源泉となっています。この牝系から出たミゴリはアガ・ハーン3世の生産所有馬で1948年の凱旋門賞に勝ち、種牡馬として名馬ギャラントマンを送りました。歴史的名牝プティトエトワールに代表されるようにアガ・ハーン牧場の主要牝系のひとつでもあるこの牝系のマーイランの分枝からは、2008年の凱旋門賞馬ザルカヴァが現れました。その7年後、2015年にはロイヤルチャージャーの全妹であるテッサジリアンの分枝からゴールデンホーンが出現し、英ダービーG1、エクリプスSG1、愛チャンピオンSG1、凱旋門賞G1に勝ってカルティエ賞最優秀3歳牡馬に選ばれています。
 それから更に7年が経過したのが今年です。レディジョセフィン系7年周期説を唱える気はありませんが、大レースは終わってみると名門牝系が勝っていたというケースがあります。凱旋門賞G1まであと1カ月。頭の片隅に置いておいてください。

栗東編集局 水野隆弘

水野隆弘(調教・編集担当)
昭和40年10月10日生まれ、三重県津市出身
1988年入社。週刊誌の編集、調教採時担当。出国検疫の調教は一般馬の調教より先に、隔離された状態で行われます。現在の栗東トレセンですと、通常の馬場開場が午前5時ですので、検疫組の調教は3時から4時の間に行われることになります。真っ暗な中で速い時計を出すと、動きが普段よりよく見える法則があるのですが、実際にいい動きをしているのかもしれません。いずれにしても、無事に渡航して、無事の出走にこぎつけるのが大前提。ボンボヤージ!