朝日杯フューチュリティSG1はドルチェモアが勝ちました。母のアユサンはディープインパクトの3年目の産駒で3頭目の桜花賞G1勝ち馬でした。母の9年後に、同じコースで仔もG1に勝ったわけです。
今年、ここまでを振り返ると、サンデーサイレンス系とキングカメハメハ系の内国産種牡馬が全盛の状況を反映して、フェブラリーSG1に勝った米国産馬カフェファラオと皐月賞G1のジオグリフ(父は輸入種牡馬ドレフォン)以外はすべて「G1に勝った日本調教馬の仔」でした。
そんな流れの中で、この秋は父と仔、母と仔の親仔同一G1制覇が集中的に起こりました。特定のレースの「父仔制覇」または「母仔制覇」です。一生で残せる産駒数の違いから、前者よりも後者の方が圧倒的に実現の難易度が高いはずですが、秋の最初のG1、10月2日に行われたスプリンターズSはジャンダルムが勝ちました。2002年のスプリンターズSと2003年の高松宮記念に勝ったビリーヴの7番仔として2015年に米国で生まれたジャンダルムはデビュー戦とデイリー杯2歳SG2を連勝したエリートです。3歳春はクラシックにも挑みましたが、結果は出ず、次に勝利を挙げるのは5歳1月のリステッドレース、ニューイヤーSでした。その後、リステッドの2勝を上積みし、以降、1200mの重賞ばかりを走ることになります。そして、今年3月のオーシャンSG3でデイリー杯2歳SG2以来の重賞勝ちを収め、2度の2桁着順を挟んで8番人気のスプリンターズSG1で3番手から伸びて接戦を制し、G1初勝利を飾ります。母のスプリンターズSは新潟競馬場で行われていましたので、コース違いとはなりますが、これはもう母の伝えた資質がG1の舞台で覚醒したとしかいいようがありません。父のトゥンズジョイは主に芝の稼ぎで北米リーディングサイアーの座に就いた変わり種ですが、その父エルプラドはサドラーズウェルズ産駒には珍しくダートで成功した種牡馬という、やはり変わり種でした。スプリンターズS母仔制覇の快挙を手土産に来春からアロースタッドで種牡馬となりますが、名牝レディーズシークレットの近親であるところのサンデーサイレンス直仔の名スプリンター・ビリーヴの血とともに、サドラーズウェルズ系の異色のスプリンターという奇想天外な血統構成は、とても魅力的に映ります。
10月16日の秋華賞G1はキングカメハメハ産駒のスタニングローズが勝ちました。クロフネ産駒の母ローザブランカはJRAで3勝を挙げていますが、重賞での実績はありません。しかし、祖母のローズバドは2001年の秋華賞でテイエムオーシャンの3/4馬身差2着に惜敗しています。惜敗といえばその次のエリザベス女王杯で、勝ったトゥザヴィクトリーから2着ローズバド、3着ティコティコタック、4着レディパステル、5着テイエムオーシャンまでがハナ、ハナ、クビ、クビの僅差でコールになだれ込む大接戦でした。ローズバドは春の優駿牝馬もクビ差で負けていますので、惜敗の無念が遺伝子に乗るのかどうかは分かりませんが、21年を経て孫娘がその無念を晴らしたことになり、ある意味では母仔制覇以上の大河ロマンとはいえるでしょう。
翌週の菊花賞G1はアスクビクターモアが勝ちました。父ディープインパクトとの父仔制覇です。これはサトノダイヤモンド、フィエールマン、ワールドプレミア、コントレイルに続く5例目となります。サトノダイヤモンドは続く有馬記念G1を連勝、フィエールマンは古馬となって天皇賞(春)G1を連覇、ワールドプレミアも2年後に天皇賞(春)G1を制覇、コントレイルは翌年にジャパンCG1を勝ちました。先例が示す通り、前途は洋々といえるでしょう。
続く天皇賞(秋)G1は春のクラシックでは2戦2着に泣いた3歳馬イクイノックスが逃げ切り態勢にあったパンサラッサを素晴らしい決め手で捉え、初のG1勝ちを果たしました。父のキタサンブラックとの見事な父仔制覇です。不良馬場で行われた2017年の天皇賞(秋)G1をキタサンブラックは2:08.3で走り、上がり3Fは38秒5を要しました。良馬場で勝った仔の方はというと勝ち時計が1:57.5で上がりは32秒7。全体の時計で10秒ほど、上がり3Fも5秒ほど違います。父と仔で方向性の違いが見えそうですが、キタサンブラックは2017年の天皇賞(春)G1は3:12.5の驚異的なレコードで勝ってフレキシビリティというか、対応力に富んだところを見せていますから、息子の方にもまだまだ隠れた引き出しがありそうです。
エリザベス女王杯G1はジェラルディーナが勝ちました。絶対女王ジェンティルドンナの仔のお姫様なので、母仔制覇と思うかもしれませんが、ジェンティルドンナは秋華賞G1に勝ったのを最後に牝馬限定戦に出ることはなく、次にはジャパンカップG1に向かって年長のオルフェーヴルをやっつけていたので、母が強すぎたがゆえに母仔制覇が成立しなかったということになります。お姫様の方はというと、条件戦を連勝したりして血筋と育ちの良さを示すことはあっても、なかなか重賞では結果が出ませんでしたが、この秋にオールカマーG2で牡馬をやっつけると、エリザベス女王杯G1ではその後香港ヴァーズG1快勝することになるウインマリリンをあっさり差して1馬身3/4突き放してしまいました。母が知るところの「やっつける快感」に目覚めたのかもしれません。そうであれば、お姫様の今後は手の付けられないころになりそうはあります。
マイルチャンピオンシップG1はセリフォスが勝ちました。NHKマイルカップG1ではダノンスコーピオンに敗れましたが、出走馬のレベルの高い安田記念G1で4着に健闘したことから、JPNサラブレッドランキングでも合同フリーハンデでもダノンスコーピオン以上のレーティングを得ていました。富士SG2での勝利は3着のダノンスコーピオンとの着差がクビ、クビだったので、斤量が2kg重いダノンスコーピオンが負けて強しというべき結果だったのですが、マイルチャンピオンシップG1の結果で「俺の方が強い」と示すことになりました。父のダイワメジャーは2006年と2007年にこのレースを連覇しており、安田記念G1にも勝ちました。皐月賞と天皇賞(秋)を勝って2000mでも結果を出しています。一流の産駒は1600mに専念することが好結果につながることが多いように思いますが、本馬はデビュー以来1600mしか走ったことがないという徹底ぶりです。父の産駒の先輩で香港マイルG1を制したアドマイヤマーズに追い付き追い越すことが期待されるところです。
このあたりがこの秋の母と仔、父と仔の出来過ぎるくらいよく出来たお話でしょうか。これで終わりではないかもしれません。有馬記念G1ではイクイノックス(父キタサンブラック)、ジャスティンパレス(父ディープインパクト)、ポタジェ(父ディープインパクト)、ウインマイティー(父ゴールドシップ)に父仔制覇のチャンスがあり、ジェラルディーナ(母ジェンティルドンナ)にはより希少な母仔制覇の可能性があります。ホープフルSG1はミッキーカプチーノの父エピファネイアがこのレースの正統的な前身であるラジオNIKKEI杯2歳SG3の勝ち馬です。
栗東編集局 水野隆弘
昭和40年10月10日生まれ、三重県津市出身
1988年入社。週刊誌の編集、調教採時、フリーハンデ担当。ワールドカップでケンペスを擁するアルゼンチンが優勝したころから、かれこれ40年以上たちました。にわかサッカーファンとしてはかなりベテランです。今年は久しぶりに頑張って決勝戦をリアルタイムで見ました。4年ぶりかな。布団の中でタブレットで見られるんですからABEMAさまさまです。それはそれとして、プラティニ、ヨハンクライフ、ペルーサ、ハンソデバンドとサッカー選手から名をもらった競走馬も多いですね。このあいだの新馬戦ではルンメニゲも走っていました。16着でした。