有馬記念を含めてGⅠがまだ4つ残っていますが、この2018年を振り返ると、約2年半ぶりにノンコノユメが2度目の戴冠を果たしたフェブラリーS、同じ世代の菊花賞馬が逃げて皐月賞馬が追いかけて、そして最後に日本ダービー馬がやってきた秋の天皇賞、そして、アーモンドアイが驚愕のレコードで駆け抜けたジャパンCなどが印象に残るレースとして挙げられます。また、GⅠではありませんが、血の強さ・伝統の継承というものを感じさせてくれたニシノデイジーとナイママの札幌2歳S、さらには重賞でもありませんが、福島の暑い夏を大いに沸かせたオジュウチョウサンの開成山特別なども記憶に残るレースとして挙げられるでしょう。

 さてアーモンドアイですが、前述のジャパンCだけでなく、史上5頭目の牝馬3冠を達成した秋華賞もまた強く記憶に刻まれるレースでした。4角までは悠然と中団追走、そこから馬群の一番外を回って一気に突き抜けた勝ちっぷりは、歴代の3冠牝馬にも劣らぬ見事なものだったと思います。

 しかし、これだけ堂々とした走りで3冠に輝き、また、ジャパンCでも単勝1.4倍の支持を集めたアーモンドアイですら、第一関門の桜花賞ではラッキーライラックに1番人気を譲っています。相手は阪神JF→チューリップ賞の王道ローテで4戦全勝。一方、自身は男馬相手にシンザン記念を制したとはいえ、そこからのブッツケという異例の臨戦だったので、それも当然かもしれません。

 ところで気になったのが、アーモンドアイを含めた歴代12頭の3冠馬(牡7頭、牝5頭)の3冠競走での人気です。さっそく調べてみたところ、結果は以下の通りでした。

           皐ダ菊

41 セントライト      ①②①人気

64 シンザン      ①①②人気

83 ミスターシービー  ①①①人気

84 シンボリルドルフ  ①①①人気

94 ナリタブライアン  ①①①人気

05 ディープインパクト ①①①人気

11 オルフェーヴル   ④①①人気

             桜オ秋

86 メジロラモーヌ   ①①①人気

03 スティルインラブ  ②②②人気

10 アパパネ      ①①①人気

12 ジェンティルドンナ ②③①人気

18 アーモンドアイ   ②①①人気

※メジロラモーヌの3戦目はエリザベス女王杯

 3冠レースで1番人気を一度も譲らなかった馬は、牡馬4頭、牝馬2頭で全体ではちょうど半数。気になるのは、残りの半数がどんな馬に人気を譲ったかですが、セントライトはダービーでミナミモアに、シンザンは菊花賞でウメノチカラに、オルフェーヴルは皐月賞でサダムパテック、ナカヤマナイト、ベルシャザールの3頭に人気を譲りました。ちなみに皐月賞におけるオルフェーヴルの4番人気というのは、今回の調べた中での最低人気になります。

 一方、牝馬ではスティルインラブが3冠競走のすべてでアドマイヤグルーヴに1番人気を譲り、ジェンティルドンナは桜花賞でジョワドヴィーヴルに、オークスではミッドサマーフェアとヴィルシーナに人気を譲っています。そしてアーモンドアイは前述の通り。

 こうして眺めてみると、異端の3冠馬と言えるのはやはりスティルインラブでしょう。何しろ、牡牝合わせた12頭の3冠馬のうち、3冠レースで一度も1番人気にならなかったのはこの馬だけ。よくよく考えれば、3冠を勝ち取りながらそのすべてで1番人気をライバルに譲るというのもなかなか考えづらいことであり、レアケースなのも当然でしょう。

▼1番人気なき3冠牝馬の誕生まで

 スティルインラブとアドマイヤグルーヴの初対決となったのは桜花賞本番でした。スティルインラブは3戦2勝2着1回。2連勝のあとチューリップ賞をクビ差で落として本番を迎えています。一方のアドマイヤグルーヴは土つかずの3連勝。男馬相手に若葉Sを制しての臨戦でした。単勝オッズはどちらも3.5倍。僅かな票数の差で1番人気を譲ったスティルインラブでしたが、好位抜け出しの競馬で3冠第一関門を完勝。一方、アドマイヤグルーヴはスタートでの出遅れが響き、ライバルに1馬身半+半馬身差の3着に終わりました。

 ところが、オークスでも人気の逆転はありませんでした。いや、逆転どころか桜花賞を勝ち取ったスティルインラブは5.6倍の2番人気。対して、3着だったアドマイヤグルーヴは1.7倍と断然の1番人気。2頭の評価はそこまで大きく開いたのです。2000mの若葉S勝ち、また、母エアグルーヴがオークス①着、JC②②着と、この距離で実績を上げていたことがその主因でしょう。しかし、結果はスティルインラブが2冠に輝き、エアグルーヴは7着に完敗。3冠レースの中で2頭の着差が最も開いたのがこのオークスですが、それは、単勝人気で大きな差をつけられた桜花賞馬が意地と誇りの激走を見せた……、そんなふうにも思えてきます。

 そして、3冠最終戦の秋華賞。アドマイヤグルーヴはローズSを完勝しての臨戦。スティルインラブは同レースで5着。この時に限ってはアドマイヤグルーヴの1番人気も妥当なものと思えましたが、結果はスティルインラブがアドマイヤグルーヴの猛追を凌ぎ切って優勝。こうして、〝1番人気なき3冠馬〟が誕生したのです。

人気のいたずら

 さて、その後。GⅠで2頭の人気が初めて逆転したのは、秋華賞に続くエリザベス女王杯でした。史上2頭目の3冠牝馬に今度こそ多くのファンが敬意を表したのでしょう。しかし、そのエリザベス女王杯を制したのは主役を譲ったはずのアドマイヤグルーヴでした。晴れてGⅠの舞台に1番人気で臨んだスティルインラブは2着と、何とも皮肉な結果に終わったのです。人気の神様がちょっとしたいたずらを仕掛けた……。そんなドラマが、この年の2頭の対戦にはありました。

 アドマイヤグルーヴはその後、エリザベス女王杯連覇を達成、阪神牝馬Sで引退の花道を飾るなど華やかな競走生活を送りました。一方、スティルインラブは8戦してついに勝てぬまま引退。古馬になってからの4度の対決も、すべてアドマイヤグルーヴが先着という結果に終わっています。

 この2頭の最後の対決となったのは2005年の宝塚記念。残念ながら、どちらも上位には絡めませんでした。しかし、8着のアドマイヤグルーヴと9着のスティルインラブの着差は僅かにクビ。3歳の春からずっとライバル同士だったこの2頭、最後の対決でも人知れずにひっそりと、鎬を削っていたのです。

 

03年桜花賞            

2003年秋華賞
03年秋華賞 スティルインラブがアドマイヤグルーヴを抑え史上2頭目の牝馬3冠を達成              

 スティルインラブ     ②人気 ①着

 アドマイヤグルーヴ    ①人気 ③着

03年オークス

 スティルインラブ  ②人気 ①着

 アドマイヤグルーヴ ①人気 ⑦着

03年ローズS

 アドマイヤグルーヴ ②人気 ①着

 スティルインラブ  ①人気 ⑤着

03年秋華賞

2003年エリザベス女王杯
03年エリザベス女王杯 1番人気を譲ったアドマイヤグルーヴがスティルインラブに競り勝って悲願のGⅠ制覇

 スティルインラヴ  ②人気①着

 アドマイヤグルーヴ ①人気 ②着

03年エリザベス女王杯

 アドマイヤグルーヴ ②人気 ①着

 スティルインラブ  ①人気 ②着

04年金鯱賞

 アドマイヤグルーヴ ④人気 ⑤着

 スティルインラブ  ⑤人気 ⑧着

04年エリザベス女王杯

 アドマイヤグルーヴ ②人気 ①着

 スティルインラブ  ③人気 ⑨着

05年金鯱賞

 アドマイヤグルーヴ    ③人気 ④着

 スティルインラブ     ④人気 ⑥着

05年宝塚記念

 アドマイヤグルーヴ ⑧人気 ⑧着

 スティルインラブ  ⑭人気 ⑨着

美浦編集局 宇土秀顕

宇土秀顕(編集担当)
昭和37年10月16日生、東京都出身、茨城県稲敷市在住、A型。
昭和61年入社。内勤の裏方業務が中心なので、週刊誌や当日版紙面に登場することは少ない。趣味は山歩きとメダカの飼育。ベタな表現ですが、〝闘い終えて日が暮れて……〟そんな言葉がジャパンCにはよく似合うことを、今年、再認識させられました。先週のチャンピオンズCのように、確かに眩しい陽射しが走りに影響するというケースもあるのでしょうが、それでも2分20秒6という驚愕のレコードとともに、オレンジ色の夕陽を背に受けて戻ってきた女王の姿は間違いなく今年の名シーンのひとつだと思います。