走る距離分かってる?障害編(山田理子)

 「前走は初めての距離で、馬が3周目に入ると競馬が終わったと勘違いしてスピードを緩めていた。それで最速の上がり。デキは上向いているので改めて」。これは2月27日の阪神競馬で障害オープンに出走したピエナミッチーの調教師のコメント。
 オープン緒戦の前走が3760mで4着、この時は3110mで2着だった。

 以前から疑問を抱いていたことだが、馬はレースでこれから何メートル走るのかって分かっているのだろうか。もちろん、同じ距離を何度も走っていればもう馬は知っているだろう。が、たとえば、短距離馬が障害に転向した場合などはどうなのか。トレセンで障害コースを1周飛ばしたとしても1450m。実戦でおよそ倍の3000mも走るなんて思ってもいないだろうから、レース中は???って感じなのでは。

 この疑問を解く糸口にもなる興味深い話を聞けたのが、2月26日の京都で未勝利戦を勝ったマルイチシンゲキについて。障害転向3戦目で勝利を挙げ、小坂忠士騎手にメモリアルの100勝目をもたらしたのだが、この馬、障害デビューは何と8秒1差12着という苦い結果だったのだ。

 タイキシャトル産駒(今年4勝で3月6日現在障害リーディング)。平地時には芝1800mの500万を勝っているから脚力はマズマズだし、試験の飛越も及第点。飛びついて買いたいほどではないが、こられても不思議はない。8カ月の休養明けだったが、攻め馬は動いていたし、厳寒期にしては毛ヅヤが良く、当日のパドック気配もいい。いざスタートが切られると3、4番手の好ポジションを取り、行きっぷり良くレースを進めて、初めてにしては悪くない立ち回り。もっと重い印を打っても良かったかな…と少し後悔し始めていた。ところがところが2周目のスタンド前を過ぎたあたりから、急に脚が鈍ってしまい、どんどん交わされて後退。経過表記でいえば3、4、9、12(番手)と不自然な数字が並ぶ、見事な脱落ぶりだった。うーんと首を傾げる。そこまで負けるとは……。小坂騎手に尋ねてみた。

山田:マルイチシンゲキはどうしてあんなに止まっちゃったのですか?どっとこられたときに周りを気にしたのですか?
小坂J:いやいや、あれは馬が走る距離を分かっていないから(苦笑)。平地に使っていた時と同じ距離でバッタリ止まっちゃったんです。それにしても久しぶりだったなあ、あんなに止まっちゃう馬。
山田:それなら経験を積めばチャンスがありそうですね。前半いい感じでしたもんね。
小坂J:そうですね。出走権がないのでしばらくレースを開けないと出られませんが、いい感じで調整できてますし、変わってくると思いますよ。

 なるほどなるほど。おそらくマルイチシンゲキは走るごとに障害競走というものを理解し、緒戦8秒1差12着→2戦目2秒差4着→3戦目勝利となったわけだ。

 マルイチシンゲキは3戦目だったが、私が「障害馬券攻略その1」として常に警戒しているのが、2戦目の変わり身。冒頭で紹介したピエナミッチーは未勝利の頃にも戸惑いがあったようで緒戦が3秒1差11着という何も見どころのない内容だったが、次走で4秒4も時計を詰めて勝利。8番人気で単勝は3850円もついた。いわゆる人気薄の大駆けだったが、その後のオープンで4、2着にきているのだからフロックでも何でもない。実力、適性は十分にあったのだ。緒戦は???でも要領を得た2戦目で激変する馬は多く、これが高配当につながるケースが多々あるのでみなさん御用心を。

 そんななか、最初から距離もスイスイこなすつわものがいるから、初障害の馬の取捨はいつも悩ましい。飛越の巧い下手は練習や試験を見ていれば自分なりの判断を下せるが、息が保つかどうか、ましてや馬が走る距離を分かっているかどうかなんて……。手がかりはないか、データを頼り、過去2年間に初障害で勝った馬(関西圏)を見直して、自分なりにポイントを挙げてみた。

エアリーズ(スキャターザゴールド)熊沢
リノーンランプ(マヤノトップガン)小坂
マイネルテセウス(ブライアンズタイム)小坂
ローレルオーラ(シンボリクリスエス)出津
イコールパートナー(カリズマティック)金折
ヒラボクロイヤル(タニノギムレット)熊沢
ホウライブライアン(ブライアンズタイム)熊沢
セレスケイ(アーチ)北沢
テイエムハリアー(ニューイングランド)熊沢
ヨドノヒーロー(カリズマティック)金折
スズカジェット(アドマイヤベガ)北沢
タイカーリアン(フサイチコンコルド)北沢
メイショウサンドラ(メイショウオウドウ)今村
デアモント(スペシャルウィーク)小坂
(1)試験の時計は重要だが、全体より上がりがポイント。掛かり気味に行って1周のタイムが速くなっていることが多々あるので、その数字を過信するのは危険。逆に試験でも前半じっくり抑えられる馬の方が本番の距離で息が保ちやすい。
(2)平地時が短距離中心だった場合、息の入れ方を覚えるのにある程度レース経験が必要。
(3)父の血統で怖いのが、ブライアンズタイムとその直仔のマヤノトップガン、タニノギムレット。SS系なら決め手より渋太さがあるタイプ。
(4)ジョッキーは熊沢、小坂、北沢騎手、今年初障害で2度馬券に絡んでいる植野騎手も怖い。

 初めてでも走れる馬と、そうでない馬の違いは何なのか。フィジカルはもちろん、メンタル面もありそうだ。じっくりと観察して、取材もして、もう少し掘り下げてみようと思う。いずれまた、この場で発表できればと思います。

栗東編集局 山田理子