勝手にプレイバック~上半期障害戦(坂井直樹)

 こんにちは、栗東の障害大好き野郎こと坂井です。

 6月いっぱいという面ではまだあと1週ありますが、開催の区切りとしては先週で上半期の競馬が終了しました。来週7月1日発売号からは3週続けて恒例の「G1プレイバック」が始まります。3歳牝馬、3歳牡馬、そして古馬の3部構成で、私は西村TMと今年も古馬を振り返ります。是非週刊競馬ブックをお手に取っていただき、ご覧ください。

 さて、このどれにも当てはまらないカテゴリーがありますね。そう、障害戦です。先週の東京ジャンプSで上半期の重賞4鞍すべてが終了しました。いいタイミングでコラムの出番が回ってきたことでもありますし、この場で上半期の障害戦線を振り返ってみたいと思います。軸足が多分に私的要素満載になる点はご容赦ください。

◎1月
【オープン】
1/8 中山新春JS=セブンデイズ
1/20 小倉5Rオープン=ブラックボイス
1/27 牛若丸JS=ケイティクレバー

 オープン3鞍はいずれも関東馬でしたね。勝手に月間MVPをあげるとすればやはりセブンデイズということになるでしょうか。これで初勝利から3連勝。デビュー戦は「伝説の未勝利戦(独断)」の23年7月2日の中京1R(勝ち馬ホウオウヴォーヌ)。固定障害は昇級戦だった昨年末の阪神が初めてで、当然中山もこれが初めてでしたが、何しろ飛越でミスをしない。その分脚が十分残って、平地準オープンの脚がそのまま繰り出されるのだから戦っている他の馬は抵抗するのが大変です。上半期は全休という形になりましたが、年末へ向けて、復帰が楽しみな一頭です。

 未勝利戦で触れておきたいのは1月28日小倉4R、勝ち馬はヴァリアメンテでした。2着ファルコニア、3着メルテミア、4着イフティファールが次走で勝ち上がり。なかでも楽しみにしているのが4着だったイフティファールです。この上位3頭に初障害で食い下がれるのは能力の証でしょう。2月の未勝利勝ちのあとはお休みしていますが、来週の福島のオープンで復帰の公算です。

中山新春JSを勝ったセブンデイズ
▲【1月】中山新春JSを勝ったセブンデイズ

◎2月
【オープン】
2/3 小倉4Rオープン=サンデイビス
2/10 小倉5Rオープン=アランデル
2/17 小倉4Rオープン=オールザワールド
2/24 春麗JS=ブラックボイス

 オープン勝ち馬だけでも濃いメンツですね。この時点で「この馬凄いな」と思わされたのはアランデルでした。トビが大きいのに踏み切りのミスがほとんどなく、飛ぶごとにぐんぐん前に出るレースっぷりには思わず溜息が出てしまうほど。勝った大江原圭騎手の「掴まっているだけした」というコメントも印象的でした。これだけトビが大きいとリズムを崩したときの挽回が難しそうですが、まあその時はその時ということで。春の福島での復帰予定が一頓挫あって延びてしまいましたが、先週帰厩したようですね。復帰を心待ちにしております。

 未勝利からは2月25日小倉4Rのカイザーバローズ。制御が難しく、実戦でも1度落馬のあった馬ですが、小牧加騎手がコンタクトを取りながら修正を重ね、遂に勝ち切るところまで到達しました。「昔はめちゃくちゃ掛かっていたのに、今はそんなことないですね。ゲートも遅れたところから出しても大丈夫だし、馬込みに入れたりして競馬できました。着実に成長しています。この馬で勝てたら嬉しいですよ」と小牧加騎手が思いを伝えてくれていたのを思い出します。はたから見ればただの未勝利戦ですが、これは陣営の思いが一段と詰まった1勝だったと思います。

豪快な飛越が印象的なアランデル
▲【2月】豪快な飛越が印象的なアランデル

◎3月
【オープン】
3/2 小倉4Rオープン=エンデュミオン
3/9 阪神スプリングJ=マイネルグロン
3/16 ペガサスJS=ビレッジイーグル
3/30 三木ホースランドJS=オールザワールド

 ここは阪神スプリングJに触れないわけにはいかないですね。前年の中山大障害覇者マイネルグロンの春緒戦。前の週が冬の小倉最終週で、その金曜は当週の小倉の競馬よりも翌週の阪神SJの取材がメインでした。当時の週報のコラムでも触れましたが、この時は石神深騎手の、他陣営をまったく意に介さないというか、泰然ってのはこういうことをいうのだろうなあというやりとりが強く印象に残っています。石神騎手の言葉をそのまま借りれば「ここはサクッと決めてほしい」。レース後の「アクシデントだけ気をつけて普通に回ってくれば勝てるだろうと思っていました」の一語に尽きると思います。ほんとにサクッと勝っちゃった。強かった。

 未勝利戦では3月2日小倉5Rのサクセスエースの印象が非常に強く残りました。2月11日小倉4R(勝ち馬ルリアン)の初障害は急遽の騎手変更で井上敏騎手の手綱でしたが上手な飛越で4着。その次走がこのレースでした。飛越は本当にノーミス。余裕があったというか出し切っていない感もあり、それは次走の昇級戦、最終障害の着地で4番手まで後退しながら差し返すという形で潜んでいた能力を示しました。秋へ向けて、是非覚えておいていただきたい一頭です。

まだまだ奥を感じさせるサクセスエース
▲【3月】まだまだ奥を感じさせるサクセスエース

◎4月
【オープン】
4/6 福島5Rオープン=ヴェイルネビュラ
4/13 中山グランドJ=イロゴトシ
4/20 福島5Rオープン=サクセスエース
4/27 新潟1Rオープン=パトリック

 中山グランドジャンプについては前回のコラムでも少し触れたので割愛するとして、ここではヴェイルネビュラに触れておきましょう。1997年の基準タイムを更新してのレコード勝ち。短い距離の方が気性的には合うのかな、と考えていましたが、最後の追い比べで間を割ってグイッと伸びたあたり、認識を変える必要があるなと思わされました。次走、距離を延ばした東京JSで3着。まだまだ奥がありそうです。

 未勝利戦からは4月27日新潟1Rのリレーションシップをピックアップ。初障害は4月6日の福島4R(6着)でしたが、障害試験受験は1月4日。私のメモには「スピード乗らず」とあり、試験後、高田潤騎手に「普通以上に斜飛する感じで、まさか受かるとは…」と教えていただいたこともあり、緒戦は紙面でノーマークに。レースも後方にいたので道中はあまり意識していなかったのですが、2ハロン標手前から猛スピードで追い上げ、直線で外へ持ち出しながら脚を使う姿がばっちり映っていました。上がりは出色の36秒4。次走で1番人気に推され「なんで1番人気やねん!」と高田潤騎手は笑っていましたが、そりゃ1番人気です(笑)。「斜飛するところもまったくなかったし、直線に入る随分前から『あ、これ届くわ』という感じだった。最後にステッキを入れたのは、楽をして勝ってしまうとヤメる癖がついてしまうから。上でもやれると思う」とも。注目の昇級戦は今週土曜の福島です。

1番人気に応えたリレーションシップ
▲【4月】1番人気に応えてリレーションシップが完勝

◎5月
【オープン】
5/4 新潟1Rオープン=ヴァレッタカズマ
5/11 京都ハイJ=サンデイビス
5/18 新潟1Rオープン=サペラヴィ

 なんといってもサンデイビス(大好きなんですこの子)。もともと持っていた私の評価は「スタミナがあって飛越はうまいがワンペース」。スタミナが生きる流れだった2月の平場オープンはともかく、驚いたのは次走のペガサスJS。終盤が外回り=置き障害のスピード勝負に対応した3着に「(いい意味で)思ってたんと違う…」となりました。イメージ一新。その次走がこの京都ジャンプSです。17個の障害に難所の三段跳び、しかも3930mというタフなコースを涼しい顔で走り抜け、後続につけ入る隙を与えないレースぶりには思わず「スタミナお化け」という言葉が思い浮かびました。タイプ的にはグランドジャンプより大障害のような気がするのですが、今ならどちらにも対応できそうです。年末が本当に楽しみです。

 もう1頭、オープンから挙げたいサぺラヴィ。それまで新潟5戦2勝3着2回のコース巧者で、負傷加療中だった江田勇騎手の復帰戦でもありました。好位のポケットから「まだ早いのでは?」と思われる2角スパートを敢行。前を行くニューツーリズムとケイティクレバーを力づくで捩じ伏せて向正面で先頭に立ち、そのまま押し切る勝ちっぷりに、鞍上の馬への信頼と、それに応えるサぺラヴィの強さを感じさせられました。夏の新潟はすぐそこです。新潟をサぺラヴィ色に染めてもらいましょう。

 未勝利戦からは5月26日京都4Rのエイカイステラを。昨秋の練習当初から小牧加騎手の評価が高かった一頭で、そういう意味では少し時間がかかった感はありますが、遂に軌道に乗ったかなという印象。「馬術の世界では牝馬の方が強いんですよ。最後の踏ん張り、頑張りの面で断然牝馬なんです。ただみんな繁殖に上がっちゃうんで、いい牝馬ってなかなかこない。こんないい牝馬なかなかないですよ」という馬術競技出身らしい小牧加騎手ならではの評価がずっと頭に残っています。牝馬のオープン勝ちは昨年のダンツキタイ、一昨年のナギサがありますが、決して多くはありません。「牝馬新時代」を築いてほしいものです。

名コンビ・サペラヴィと江田勇亮騎手
▲【5月】主戦・江田勇亮騎手を背に得意の新潟を駆けるサペラヴィ

◎6月
【オープン】
6/2 京都1Rオープン=ネビーイーム
6/15 京都1Rオープン=タマモワカムシャ
6/22 東京JS=ジューンベロシティ

 東京JSについてはただいま発売中の週刊競馬ブックの成績ページや林茂徳TMの観戦記で(各種webコンテンツでもご覧いただけます)、またネビーイームのこのレースも同じく小誌今週号・藤村和彦さんの『インタビュールーム』で小牧加矢太騎手ご自身が触れてくださってますので、どちらも是非ご覧ください。

 さて未勝利戦。6月8日東京1Rを勝ったアンクルブラックに注目してみましょう。障害デビューは4月7日の福島4R。練習当初の高田潤騎手の評価は「まだトモが緩い。現状は体力不足」。それが練習を積む毎に良化を辿り、「以前は調教で動いていなかったらしいけど、今はめちゃめちゃ動く」(高田騎手)と変化が表れ始めました。そして2戦目2着、3戦目のこのレースで勝ち上がりを決めました。階段を一歩ずつ着実に上がっていく様子を横で見ているのは楽しいものです。体つきはまだ華奢な印象で、キタサンブラック感があまりないのですが、裏を返せば伸びしろたっぷりともいえるでしょう。何しろまだ4歳。どこまで成長を見せてくれるのか、下半期を楽しみにしています。

まだまだ良くなる4歳アンクルブラック
▲【6月】まだまだ良くなる4歳アンクルブラック

 

 ――思うままに月単位で振り返ってみました。下半期も障害戦は毎週やってきます。今週からはローカル場では唯一障害専用コースを備える小倉も始まります。暮れの大障害、あるいは、長く活躍できるカテゴリですから、来年以降まで見据えながらレースを観察していくのも楽しいものです。皆さんも是非、障害レースに注目してみてください。100円でも馬券を買って応援するとより楽しめますから、そんなレース観戦もおすすめですよ。

 

栗東編集局 坂井直樹

坂井直樹(調教・編集担当)
昭和56年10月31日生 福岡県出身 O型
 上半期の個人の障害戦予想を振り返ると、52レースで予想をつけて◎(本命)は(15.11.10.16)。勝率28.8%、連対率50.0%、複勝率69.2%、回収率は単勝121%、複勝105%でした。ベタ買いで100%を超える回収率なら悪くはないのですが、場別成績を見ると福島8鞍で◎が1勝もしていませんでした。秋の福島でリベンジしたいと思います。