第20歩目 point of no return(唐島有輝)

よくアニメなどで頭の中の天使と悪魔が喧嘩する場面がある。

悪「せっかくの休日なんだから、目一杯遊んじゃおうぜ」

天「いいえ、あなたは受験生なのですから、しっかり勉強するべきです」

のような。この「天使」と「悪魔」という表現が昔からずっと引っ掛かっていた。天使って言うほど優しい言葉をかけてるわけじゃないし、悪魔って言うほど悪い言葉をかけてるわけじゃないから。これって正しくは「天使=あたま」「悪魔=こころ」なんじゃないかって思う。こころの中では「こうしたい」って思っていても、現実的なあたまがそれにブレーキをかける。

人が最も悩むのはこの「あたま」と「こころ」が一致しない時だ。

たとえば仕事なら「やりたいことはできてるけど、収入が少ない」がこのパターンだ。

 

これが競馬ならどうだろうか。

直感的には「コレが来そう」と思っていても、「あの時がああだったから」と経験則が邪魔をしてきて気持ちと別の馬を狙ってしまう。これが一番失敗するパターンだし、後悔もする。それが負のスパイラルになって積み重っていく。

 

そう考えると「天使=あたま=経験」と言い換えてもいいかもしれない。できる人なら経験が強みになるのだろうけど、自分の場合は足枷になっているように感じてならない。思えば経験が浅かった子供の時の方が気持ちに忠実だったし、好奇心もあった。でももうそんな年じゃない。

時間って残酷だ。

自分がしてしまったことは決して消えないし、巻き戻せないし、どんどん増えていく一方。しかもそれが未来にどう繋がるのかが見えてこない。そのくせにあれだけ大きかったはずの可能性が日を追う毎に小さくなっていく感覚になる。こんなの恐怖以外のなにものでもない。で、結局なにもできずにまた一日が終わる。

膨れ上がった「あたま」が大声を上げる。負けじと「こころ」も叫ぶ。もう音が大き過ぎてお互いが何を言ってるのか聞こえない。ミュート機能でもあればと思うが、それも無理だ。不安と焦りばかりが募る。

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで、ボクはドライブに出かけた。

行き先は松前城跡。普段仕事をしている函館競馬場から車で約2時間のところにある。

出発してから30分くらいで道は海沿いへ。函館湾の向こう側には函館山が見え、天気は快晴。しかも道が空いている上に信号もほとんどない。なんて最高に気持ちがいいドライブなんだ。

少し話は脱線するが、「海派か山派か」の質問にいつもボクはいつもこう答える。「両方だ」と。だからボクは函館という街が大好きなのだ。

途中、内陸側に曲がってトラピスト修道院へ寄り道。ボクはそこでソフトクリームを食べた。濃厚な味わいで一緒についているトラピストクッキーとの相性も抜群。こんなうまいスイーツは初めてだ。もしボクがこの地で映画を撮るとしたらタイトルは「純白の乳菓超美味(トラピスト)」にする。

元の道に戻って運転すること約1時間、目的地である松前城跡に到着。

城は風格のある佇まい、そして中から見る景色も素晴らしい。外国人観光客もどうやら喜んでくれているみたいで誇らしかった。

気分はすっかり松前藩主になっていたでござる。

そして近くの「レストラン矢野」へ行き、名物という噂の「のりだんだん弁当」を注文。

実は1年前にも松前には訪れているのだが、先輩である丹羽TMから「松前まで行ってのりだんだんを食べなかったなんて、お前ってやつは・・・」と入社して以来一番のお叱りを受けたのだった。

食べてみるとなるほど、岩海苔の風味が素晴らしく、ご飯と最高に合う。しかも弁当箱の中にぎっしりと詰まっていて、食べ応えも抜群。たしかに食べなければ損な逸品だった。

お腹一杯になってすっかり上機嫌になったソレガシ。

最初は来た道を引き返すつもりだったが、時間もあるし、もう少し先に進んでみたくなり、1時間ほどまた海沿いの道を運転して上ノ国町の道の駅へ。

少し雲は多くなっていたが、その分、気温はそれほどでもなく、潮風が心地良かった。

そろそろ帰路につくかな、と思い木古内方面へ。途中で気づいたのだが、車の走行可能距離が最初700キロだったのが、減るどころか増えていて800キロになっていた。ブレーキを踏まずに一定の速さで走っていたからだろうか。一瞬、自分の車が永久機関なのかと思って興奮した。

このままどんどん先に突き進んでいけそうな気がした。

 

函館に帰り、滞在場所の近くの居酒屋さんへ。そこには生ビールジョッキ2杯+おまかせ2品で1200円という破格のコスパのちょい飲みセットがある。生ビールを体内に流し入れ、一日のできごとを振り返った。

 

思えば苦難の連続だった。

 

映画監督としてのプレッシャー。

唐島藩主としての責務。

迫り来る米と満腹感の争い。

海からの逆風。

臀部の痛み。

 

そのすべてから一気に解放されたような、最高の一杯だった。これぞまさに至福の時。

気がついたら部屋でスヤスヤと眠っていた。

次の日の朝、ふと気がついた。

 

「あれ?誰か音量下げた?」

 

 

美浦編集局 唐島有輝

 

 

唐島有輝

1993年7月11日生まれ。美浦調教班。

裏函期間中に温泉を何箇所巡ったかを競う函館温泉リーディング・通称MVY(モストバリュアブルヤチガシラー)。第1回の昨年は17ポイントを獲得した私が初代王者に君臨しましたが、今年は今のところ1ポイントのみで最下位(2位)と不甲斐ない成績になっています。あと2週間で逆転は難しいですが、連覇の夢は諦めていないので、日々の努力を怠らずに頑張っていこうと思います。

あと仕事もやります。