それでも父は前にいる(宇土秀顕)

 2015年の中央競馬のスタートは1月4日。逆算すると1月1日が通常の水曜業務日に当たります。しかし、さすがに元旦は休み。したがって、前日の12月31日が水曜の業務日となり(もともと本当の水曜ですが)、今回のリレーコラムも晴れて(?)大晦日の更新となった次第です。
 ちなみに、1月4日から競馬がスタートした年を探してみると2009年と意外に最近で、この6年前のことが記憶から完全に消えていたのは情けない限り。脳内が相当に経年劣化しているようです。ただ、スタートがもっと早ければ、さすがに話は別かもしれません。勿論、私自身は経験がありませんが、調べてみたところ、1961~68年の中山金杯(当時は金杯・東)が1月3日の施行。つまり正月3日が競馬のスタートだったようです。こうなると、それこそ〝暮れも正月もない〟状態だったことでしょう。

 さて、ジェンティルドンナのグランプリ制覇で幕を閉じた2014年の中央競馬ですが(まだ3日前のことですが)、今年のJRA平地G1を種牡馬成績の観点から眺めると、同馬の父ディープインパクトの活躍が際立った一年でした。桜花賞のハープスターに始まって、NHKマイルCのミッキーアイル、ヴィクトリアマイルのヴィルシーナ、秋華賞のショウナンパンドラ、天皇賞(秋)のスピルバーグ、エリザベス女王杯のラキシス、マイルCSのダノンシャーク、阪神JFのショウナンアデラ、朝日杯FSのダノンプラチナ、そして、トリを取った前述のジェンティルドンナと、自己記録を大幅に更新する10勝をマーク。年間のG1勝利数で、2位のハーツクライ(3勝)以下を圧倒してみせました。
 そのディープ産駒の成績の中でも、特に目を引いたのがマイル戦における強さ。何しろ、年間7レース行われた芝1600mのG1のうち、安田記念以外の6レースを制するという席巻ぶりです。ディープインパクト自身は生涯14戦すべてが芝2000m以上。マイル戦をただの一度も使うことなく引退しましたが、こうなると、〝一度くらいはマイルでの強さを見てみたかった〟そんな気にもさせられます。
 振り返ると、唯一勝利を逃した安田記念でも着順掲示板には2頭のディープ産駒が上がっています。つまり、〝マイルG1・コンプリート〟の可能性も十分にあった訳ですが、それを阻止したのがハーツクライ産駒のジャスタウェイだったのも、これまたよくできた話といえるでしょう。
 
●2014年種牡馬別G1勝利数
種牡馬名(G1勝利数)
ディープインパクト(10)
ハーツクライ(3)
ステイゴールド(2)
アドマイヤコジーン(1)
キングカメハメハ(1)
ゴールドアリュール(1)
シンボリクリスエス(1)
スペシャルウィーク(1)
ダイワメジャー(1)
フジキセキ(1)

 さて、このG1に年間10勝という記録、歴代最多勝ではありますが、単独トップの記録ではありません。まあ、誰もが予測できるところでしょうが、もう1頭の最多勝種牡馬が、ディープの父であるサンデーサイレンス。2003年、牝馬3冠(桜花賞、オークス、秋華賞)に輝いたスティルインラブ、牡馬2冠(皐月賞、ダービー)のネオユニヴァース、スプリンターズSとマイルCSを制したデュランダル、以下、フェブラリーSのゴールドアリュール、高松宮記念のビリーヴ、エリザベス女王杯のアドマイヤグルーヴと、まさに距離不問、芝・ダート不問のスーパーサイアーぶりを発揮してみせたのです。

●2003年種牡馬別G1勝利数
種牡馬名(G1勝利数)
サンデーサイレンス(10)
クリスエス(2)
サッカーボーイ(2)
クラフティプロスペクター(1)
ザグレブ(1)
スマートストライク(1)
ダンスインザダーク(1)
タイキシャトル(1)
トウカイテイオー(1)
プレズントタップ(1)

 ちなみに、サンデーサイレンスは翌2004年から2006年の3年も、G1年間9勝を連続してマーク。しかも、2005年までのJRA平地G1は今よりひとつ少ない21レースでした。こうして考えると、ディープインパクトにとって手が届いたかに見えた父の背中ですが、それはまだ、ほんの少しだけ先にあるのかもしれません。
 ただ、今年のディープインパクトの特筆すべき内容は、G1・10勝をすべて異なる馬でマークしてみせた点。つまり、1年間で10頭ものG1ウイナーを送り出した訳です。ちなみに、父のサンデーサイレンスは2004年と2005年に7頭のG1ウイナーを出したのが自己最多記録。この点において、偉大な父を上回ったことは歴然とした事実です。いずれにせよこの2014年、ディープインパクトは父を追い抜くための大きな大きな一歩を踏み出した、そう捉えて間違いないでしょう。

 ところで、2011年1月から4年にわたり4人体制で続けてきたこの『リレーコラム』ですが、2015年を迎えてリニューアルされることになりました。今までのメンバーから水野編集員が抜けて、新たに、青木(栗東調教班)、吉田(美浦調教班)、田村(美浦厩舎取材班)の各TMが参入。〝現場から〟の色合いがより強まるということで、タイトルも『週刊トレセン通信』と改題されます。このタイトルに変えて編集内勤の私が残るのも少々心苦しいのですが、まあ、私は私のスタンスで、多少でも面白いと思っていただけるものをお届けできるように頑張ります。

 2015年が皆様にとって良い年でありますように。

美浦編集局 宇土秀顕