ゆっくり行くのも悪くない(田村明宏)

 新型コロナ禍以前のように当日売りが解禁された訳ではないが、GⅠ当日で久々に6万人以上の入場があった秋の天皇賞は3歳馬イクイノックスが制した。これで昨年のエフフォーリアに続いて3歳馬が2年連続して古馬を破ったことになる。出走馬が毎年、違うので単純な比較はできないが、長い歴史の中でも古馬優勢だったレースで連続して3歳馬が勝ったのはひとつの傾向として捉えることができる。育成技術の進歩で競走馬の成長がスピードアップしているのは確か。2歳新馬のスタート時期が早まり、4歳以上の降級制度が廃止されたのもあってサイクルは早まっている。今後もこういうことは続くのだろう。時代の変化に対応しなければいけないのは我々、人間も同じか。

 その天皇賞の当日、9RはレジェンドトレーナーCというレースが施行された。今春、定年で惜しまれながらも厩舎を解散した藤沢和雄元調教師が顕彰者に選定されたことを記念したものだが、その藤沢師がオークス、ダービーを連勝したのが2017年。今から5年前のことでダービー馬レイデオロが産まれたのは2014年。今では同世代の多くの馬が現役生活に別れを告げて繁殖や他の道に進んでいる中でこれから大きな舞台に挑もうとする馬もいる。先日、リステッドレースのオクトーバーSを勝ったゴールドスミスだ。2歳暮れの12月にデビューして新馬勝ち。まずは無難なスタートを切ったが、脚部不安による休養が2回。おおよそ3年半に及ぶ長期休養を挟んで8歳の今年になってようやくオープン入り。晩成タイプが多い、ステイゴールド産駒とはいえ苦難を乗り越えてここまで勝ち上がってきた自身の精神力もさることながら諦めなかったオーナー、並びに厩舎関係者にも敬意を表したい。

 「もともとは勇退された二ノ宮敬宇元調教師の管理馬でうちに来てからも去勢や足元の不安で順調に使えなかったし、以前はモタれ癖があったりと課題を抱えている馬でした。それが今年の春に帰厩してからはこれまでになくいい状態で調整できて走りのバランスも良くなっているんです。切れる脚を使えるというイメージはなくて前走も本当はある程度、先行してという作戦だったのですが、行き脚がつかず後方になって。苦しいなと思っていたらあの脚を使ってくれていい意味で誤算でした。休養が長く8歳にしてはフレッシュとは言っても残された時間がたっぷりある訳ではないから状態がいい、今のうちに大きなところを勝てるといいですね」と管理する高柳瑞樹調教師。次走は11月13日の福島記念を予定しているが、昨年はパンサラッサが圧勝したように個性派が集まるレース。同馬にとって晴れ舞台になるのか注目したい。

美浦編集局 田村明宏

田村明宏 (厩舎取材担当)
昭和46年6月28日生 北海道出身 О型
8歳のゴールドスミスに比べればまだひよっことも言えそうな6歳馬ヨンクも今が充実期。前走はイキのいい3歳馬バトルクライに完敗したが、上がり最速の脚を使ってゴール前の伸びは目立った。東京土曜9Rの神奈川新聞杯に注目だ。