80周年ダービー当日は……(宇土秀顕)

 

 日本ダービーは今年で第80回を迎えます。実に234回の歴史を重ねる本家のエプソムダービーや、今年が第139回となるケンタッキーダービーには及ばないものの、昭和7年、ワカタカの圧勝劇で幕を開けた熱闘史は、日本の競馬界にとっての大きな財産。節目の年くらい居住まいを正して観戦してみようかと思うのですが、結局のところ、自分が握っている馬券次第になるでしょう。

 そんなわけで今年の日本ダービー当日、5月26日は番組の方も80回を記念する“特別編成”。まずは、「ダービーメモリーズ」と銘打って、東京と京都で計7つのメモリアルレースが行われます。これは、各年代ごとにファン投票で選出されたダービー馬の名前をレース名に冠するという企画です。ここ美浦編集部の若手たちも、JRAホームページの特設サイトを見ながら、ああでもないこうでもないと熱っぽく語っていました。それだけでも、この企画は成功を収めたと言えるかもしれません。ちなみに、3月9日~24日に行われたファン投票により決定したレース名は以下の通り。ひと括りにされた1932~50年代、そして、3冠馬不在の1970年代を除くと、すべての年代で3冠馬が選出されており、“トリプルクラウン”の持つ重みというものを改めて認識させられる結果となりました。

東京6R ●1960sダービーメモリーズ シンザンC
      3歳500万下 芝1400m
東京7R ●1970sダービーメモリーズ タケホープC
      3歳500万下 ダ1600m
東京8R ●1980sダービーメモリーズ シンボリルドルフC
      古馬1600万下 芝1800m
東京11R ●1stダービーメモリーズ  ワカタカC(非投票で選出)
      古馬1000万下 ダ1400m

京都9R ●1990sダービーメモリーズ ナリタブライアンC
      古馬1600万下 ダ1800m
京都10R ●2000sダービーメモリーズ ディープインパクトC
      古馬オープン 芝1400m
京都11R ●1932~50sダービーメモリーズ トキノミノルC
      古馬1000万下 芝2000m

 また、かつてダービー当日に行われていた見習騎手戦をモチーフに、若手騎手限定の特別戦が東京5Rに組まれています。その名も「ホープフルジョッキーズ」。騎乗資格は今年5月12日の時点でデビュー7年未満、そして、通算100勝以下の騎手。若手騎手受難の時代などと言われている昨今ですが、このホープフルジョッキーズは自らの存在をアピールする絶好の舞台。ダービー当日の大観衆の前で、ぜひハツラツとした騎乗を披露してもらいたいものです。

 さてもうひとつ、長い時を経て復活するレースがあります。それがダービースタリオンズS。こちらはそのものズバリ、「復刻ダービースタリオンズS」と称して、21年ぶりに施行されることになりました。振り返ると、過去のダービースタリオンズSは1988~92年(昭和63~平成4年)の5年間、やはり、ダービーの当日に古馬900万下(現在の古馬1000万下)の芝2400m戦として行われていました。クラスと距離に関しては“復刻版”でも変わりありませんが、大きな違いがひとつ。それが以下に記した出走資格です。

旧 → ①日本ダービー5着以内馬の産駒
    ②英・愛・仏・ケンタッキーダービー優勝馬の産駒

復刻→ ①日本ダービー優勝馬の産駒
    ②英・愛・仏・ケンタッキーダービー優勝馬の産駒

 日本ダービーに関して言うと、復刻版では同レース優勝馬の産駒に限定されるのに対し、かつてのダービースタリオンズSは、なんと、日本ダービー5着以内馬の産駒であれば出走可能。復刻版に比べると、なんともユルユルの規定だったのです。
 日本ダービー当日に、日本ダービー馬2世たちが、日本ダービーと同じ東京芝2400㍍で競い合う……。それが、このレースの目指すところ。20数年前、ダービースタリオンズSはおそらくそのような意図で創設されたのではないでしょうか。ところが、それでは如何せん馬が揃わない。輸入種牡馬が幅を利かせていたこの当時、内国産種牡馬はあくまでもマイノリティグループに属し、例外的に奮闘していた内国産種牡馬といえば、ダービー2着のトウショウボーイ、同5着のアローエクスプレス、同9着のアンバーシャダイ、そして、現役時は持ち込み馬としてダービー出走資格のなかったマルゼンスキーなどでした。
 そこで、日本ダービー5着以内馬の産駒、更には海外主要国ダービー馬の産駒も加えて始まったかつてのダービースタリオンズS。しかし、これだけ緩い出走規定にも関わらず、出走数は88年から順に、10頭、11頭、8頭、9頭、9頭。結局、92年を最後にダービースタリオンズSは姿を消すことになったのです。とはいえ、最後の年となった92年は9頭立てながら、初めて出走馬すべてが日本ダービー入着馬の産駒となり、海外ダービー馬産駒の出走はゼロ。そして結果の方も、初めて日本ダービー優勝馬2世によるワン・ツーだったのだから、何とも皮肉な話。しかし、いずれにしてもこのダービースタリオンズS、着想は素晴らしかったのですが、実際に施行に踏み切るには少々時代が早かった、そう言えるのかも知れません。

 前述した通り、21年ぶりの復刻版はダービー優勝馬の産駒が限定。それでも、ディープインパクト、キングカメハメハ、ネオユニヴァース、ジャングルポケット、メイショウサムソン、スペシャルウィークらが“有資格種牡馬”として名を連ねているのですから、量的にも質的にも、かつてのダービースタリオンズSを超えるレースになることは確実でしょう。
 先日行われた皐月賞ではキングカメハメハ産駒が③⑮⑰⑱着、ディープインパクト産駒が④⑩着、ジャングルポケット産駒が⑪着、ネオユニヴァース産駒が⑯着。来たるべき5月26日、どの父親にとっても1000万特別のダービースタリオンズSより、日本ダービーで皐月賞の雪辱を果たす方が先決、そして、父子でダービー制覇を飾る方が先決でしょう。それでもこの復刻版ダービースタリオンズS、メインレースひとつ前のセミファイナルとしては、大いに盛り上がりそうな予感がします。

美浦編集局 宇土秀顕