どこの職場でもそうかもしれませんが、暮れからお正月にかけての休み明けに顔を合わせると、それぞれの社員が休日期間中にタメ込んだネタを口々に報告する、といった光景があるのではないでしょうか。我々の業界も、有馬記念後はまさに束の間の休息期間。遠くへ旅行してみたり、実家に帰省してみたり、はたまた家でゴロゴロして完全充電にあててみたりと、いろいろな行動パターンに分かれますが、仮に暇人ばかりだとしても、やっぱり年明け久しぶりに顔を合わせると、何やかやと話す材料があるものです。
 そんな中のひとつ。年明け早々に美浦の事務所で「知り合いとの酒の席で話題になったんですが」と松本智志TMが切り出したのが、
「野球映画に面白くない作品はないのではないか」
 というもの。
 私だけでなく、そこに居た多くのスタッフがひとしきり考えて、全体の意見として「面白くないものもあるんじゃないか」という型通りの結論に達したのですが、それはそれとして、松本智志TMの知り合いが野球を心から愛していて、「とにかく“野球ネタ”なら何でもOK」と言いたかったのかなと思い、微笑ましいエピソードとして受け取ってしまいました。というのも、確かに例外の方が少ないのかな、と思えたりもするから。
 まあ一概に「野球映画」と言っても、厳密に言い出すと定義づけが難しいですね。有名なところで「メジャーリーグ」とか、古いところで「打撃王」、最近の話題作では「マネーボール」などは王道と呼べるかもしれませんが、単に“野球モノ”というのではなく、もっと細かくジャンル分けできそうな感じもします。傑作「フィールドオブドリームス」に「がんばれベアーズ」、マイナーなところで「さよならゲーム」、「スカウト」、「オールドルーキー」など、このあたりをどう位置づけるのか。
 ただ感心させられるのは、アメリカでは国民的娯楽だからこそなのかもしれませんが(もっとも、ヨーロッパにこのジャンルは存在しないでしょうね、今のところ)、野球がテーマになっている映画が比較的コンスタントに作られること、バリバリのトップスターが出演すること、そして常に大きな話題になること。制作する側に、興行面での成功について疑う余地がない。それだけの土壌、つまり伝統があるということでしょうか。

 ま、それはさておき、外さない映画、というか物語では、古くから言われているのが“法廷モノ”。争われるのがどんなレベルであれ、なるほどハズレはないように思えます。その最大の原因は、物語の成否に最も重要な要素となる“人間模様をベースにしたドラマ性”が全面的に表に出せるから、かと思われます。「野球映画に面白くない作品がない」と感じるのは、競技そのものの性質に、法廷モノと似た側面があるからなのかもしれません…いや、そう考えていくと、“スポーツ映画”として括ると「面白くない作品がない」のは野球に限らないような気もしてきます。ボクシングとか、カーレースとか…。
 “競馬映画”はと言うと、これがまた負けじとたくさん作られています。大まかなラインナップをここで云々するのは避けますが(04年度に馬事文化賞を受賞した旋丸巴さんの『馬映画100選』をご参考頂く方がてっとり早いかと思います)、もっと細かくジャンル分けできそうな作品が多く、やっぱり物語として“ドラマ性が全面的に出やすい”からこそ、作品のテーマ、対象になりやすいのでしょう。
 例えば06年度に映画として馬事文化賞を受賞した『雪に願うこと』は、ご存知の通りばんえい競馬が舞台ですが、これも“ばんえい競馬”そのもの以上に、それを取り巻く人間模様が大きなテーマになった作品でした。レースシーンを始めとした“ばんえい”のディテールについてはさておくとして、個人的にはかなり楽しめる内容だったと思います。

 そんなことを思いながら、さて我々の、目の前の競馬。
 競馬が“物語”として既に優れているのだとすれば、重要なのはいかに観せるか、になりますか。個性溢れる様々なキャストと、そしてその様々な個性が煌びやかに交錯するストーリー展開。観る方に、ワクワク感を与えるような舞台設定。それさえあれば…。
 テレビドラマなどでよく見かけますが、同じ芸能事務所の、同じようなタレントさんに、変わり映えしないストーリーを繰り返されても、あんまり…ねえ。勿論、中身次第で視聴率とやらは取れる場合もあるんでしょう。今更の当たり前のことながら、それだけ“中身”は重要、ってことになるわけですけど。
 史上3頭目の3歳4冠馬が、また日本馬としてドバイワールドCを制する馬が登場した2011年が終わり、新しく12年の競馬がスタートしました。新しい役者達による今年の物語は、どんな具合に展開していきますか。
 願わくば、一人でも多くの人の目を釘付けにするような、高揚感に満ち満ちた展開を期待したい。かかわる馬や人のすべてが無事で、元気に…。

 他愛のない“野球映画”談義から、ついついそんなようなことを感じながらの12年の幕開けになりました。しかし、そう、忘れちゃいけません。面白い競馬を観るだけでなく、そのうえでしっかり馬券にもしていかないと。大好きな競馬を、続けようにも続かなくなるのは、いかにも寂しいですもんね。
 今年は、いい一年にしましょう!

美浦編集局 和田章郎