2006年に始まって今年で8年目を迎えたサマーシリーズ。当初からの「サマースプリントシリーズ」(以下「スプリント」)と「サマー2000シリーズ」(以下「2000」)に加えて翌年に騎手のポイントを争う「サマージョッキーズシリーズ」、昨年からは「サマーマイルシリーズ」(以下「マイル」)も新設された。いくら年数を重ねても大して話題にもならないのは、これがオーナーと関係者向けの誘因でしかなく、馬の体調次第の競馬という競技の特質上、リーグ戦やトーナメント戦のような反復性、継続性を望みようがないためだが、このシリーズのおかげで寂しいメンバーの重賞に夏枯れを嘆くこともないのだから、みんな間接的にはそれなりに恩恵は受けていることになる。
今年は折り返し点を既に過ぎて、「2000」はトウケイヘイローの逃げ切り濃厚、「スプリント」はポイントトップのハクサンムーンを巡って残り2戦でどう変動があるか、「マイル」は京成杯AHで下位からの逆転もあるという状況。ここでは、その後に発展性のある「スプリント」を中心に過去のサマーシリーズチャンピオンのその後を振り返ってみたい。
「スプリント」は函館スプリントS、CBC賞(これだけ昨年から)、アイビスサマーダッシュ、北九州記念、キーンランドC、セントウルSの6戦と数が多く、決勝戦というべきスプリンターズSが9月末か10月初めなので夏から秋への連続性が高い。初代チャンピオンのシーイズトウショウは函館スプリントS、キーンランドCをともに2着し、セントウルSに勝った。そこから臨んだスプリンターズSは8着止まり。この2006年はテイクオーバーターゲットが勝ち、4着にサイレントウィットネスが入るなど4頭の外国馬をはじめ層が厚く、2着にセントウルS7着のメイショウボーラー、3着に北九州記念9着のタガノバスティーユが入るなど、「スプリント」凡走組が変わり身を見せた。オーストラリアのテイクオーバーターゲットも前哨戦としたセントウルS2着なので、一応「スプリント」組ではあった。
2007年にアイビスサマーダッシュとセントウルSに勝ってチャンピオンとなったサンアディユは続くスプリンターズSでも2着となった。勝ったアストンマーチャンは桜花賞大敗後から北九州記念6着を経て変わり身を見せた。
2008年のカノヤザクラは同じくアイビスサマーダッシュとセントウルSに勝ったが、スプリンターズSでは7着に敗退。「スプリント」ポイント2位のキンシャサノキセキが2着となり、勝ったスリープレスナイトは唯一参戦した北九州記念1着からスプリンターズSに直行したが、その前にCBC賞も勝っているので、今のシステムなら2位からの前進ということになる。
2009年はカノヤザクラがアイビスサマーダッシュ1着、北九州記念3着、セントウルS4着として2年連続チャンピオンとなる。スプリンターズSでも8番人気ながら3着と気を吐いた。勝ったローレルゲレイロは安田記念15着後の秋緒戦セントウルS14着からの一変だった。「スプリント」2位のアルティマトゥーレは1番人気5着、「スプリント」では唯一出走したキーンランドCに勝ったビービーガルダンが2着だった。
2010年は函館スプリントS、キーンランドCと北海道2戦を制したワンカラットがチャンピオンとなった。スプリンターズSの勝ち馬は香港のウルトラファンタジー、2位入線のダッシャーゴーゴーは4着降着となったが、当時シリーズ外のCBC賞2着から、北九州記念11着、セントウルS1着からの臨戦で「スプリント」で3位の実績を残していた。2着に繰り上がったキンシャサノキセキは高松宮記念以来のセントウルSを取り消した直後だった。
2011年のエーシンヴァーゴウはアイビスサマーダッシュ1着、北九州記念3着、セントウルS1着の堂々たるチャンピオンとなったが、函館スプリントS、キーンランドCを勝って2位のカレンチャンがスプリンターズSを制した。エーシンヴァーゴウは3着だが、7番人気だったことを考えると健闘といっていい。2着パドトロワは函館スプリントS6着、キーンランドC3着の7位タイからの躍進。
そのパドトロワがチャンピオンとなったのが昨年。函館スプリントS4着、アイビスサマーダッシュ1着、キーンランドC1着だった。函館を根拠地として、新潟、札幌へ輸送して結果を出したわけだが、シリーズチャンピオンを狙うならこの方法が最も効率が良さそうだ。ただ、スプリンターズSでは8着に敗れている。スプリンターズSの勝ち馬ロードカナロアは函館スプリントS2着、セントウルS2着で3位タイ。2着のカレンチャンはセントウルSのみ走って4着だった。函館スプリントSに勝ちキーンランドC7着で3位タイのドリームバレンチノが9番人気で3着、北九州記念3着、セントウルS勝ちで2位のエピセアロームは4着に入っている。
「スプリント」のチャンピオンからそのままスプリンターズSで頂点に立ったものはまだいない。セントウルSで始動したり、「スプリント」でとりこぼしたりしていた実績馬が巻き返すことの方が多い。ただ、2009年のカノヤザクラや2011年のエーシンヴァーゴウのように「スプリント」で好成績を残していながらスプリンターズSで人気を落とした場合、舐めたらあかんでの反撃があることには留意しておきたい。
「2000」は七夕賞、函館記念、小倉記念、新潟記念の4つのハンデG3とG1馬が多く出走するG2の札幌記念が別路線となることが多く、函館記念と札幌記念を連勝したのは今年のトウケイヘイローが初めて。距離カテゴリーは天皇賞(秋)と同じだが、厚いクラスの壁がある。それでも、2006年のスウィフトカレントは小倉記念1着、新潟記念4着で初代王者になると、オールカマー4着を経て天皇賞(秋)でダイワメジャーの2着に入った。7番人気だから大健闘といえる。同じ年のアドマイヤムーンはピンポイント参戦の札幌記念勝ちから天皇賞(秋)で3着となるが、そのような札幌記念のポイントだけでシリーズ上位となる実績馬を除くと、その後、サマーシリーズで勢いをつけて秋のG1戦線に通用するものはいない。2007年ユメノシルシ、2008年ミヤビランベリ、2009年ホッコーパドゥシャ、2010年ナリタクリスタル、2011年イタリアンレッド、2012年トランスワープといずれもG1の厚い壁に跳ね返された。初めてG3+G2勝利でチャンピオンとなればトウケイヘイローがその壁を越えることができるのか、注目されるところだ。
昨年から始まった「マイル」は中京記念をフラガラッハ、関屋記念をドナウブルー、京成杯AHをレオアクティブがそれぞれピンポイント参戦で星を分け、チャンピオン出現を見ずに終わった。今年は関屋記念勝ち馬レッドスパーダが毎日王冠に向かうと表明しているので、京成杯AHでフラガラッハとドナウブルーの対決が実現すれば、熱のこもる一戦になりそうだ。残暑で十分に熱い戦いでしょうけれど…。
栗東編集局 水野隆弘