先週日曜の京都3Rのアブニールで、◎単勝2820円の馬券を仕留めた。予想が◎―無印(9番人気―10番人気)とあり、本業ではただの残念なトラックマンだが、私自身としては昨年半ばの単勝派移行後最高の払戻額で、9番人気をある程度手応えを持って買えたのは20年以上続く馬券ライフで初めての体験だったので、生涯忘れられないレースになると思う。
そもそもなぜ単勝で勝負していく決心を固めたかというと、近くにソウルな単勝馬券師がいて、その馬券術にひどく感銘を受けたから。以前、このリレーコラムでも紹介した馬券の師匠の基本ラインは10倍以上の「おいしい」過小評価オッズ。ギャンブルは控除率が重要(単勝は低い)、このレースで儲けると思わずトータルで考えよ、馬券はくるかこないかよりおいしいかどうかなどいくつかの持論のもと我が馬券道を驀進していて同業者にファンは多い。複勝を押さえないのも師匠のやり方。昨年秋の◎ブルーデジャブ(14番人気3着、単勝147.2倍)のときなんて、周囲は複勝(1870円)でもいいのにと悔しがったが、当の本人はけろりとしていて次走には見向きもしない(確かにその後は馬券圏内にきてない)。もともと私は券種の選択がド下手だ。優柔不断で気持ちの切り替えも遅く、一旦リズムを崩すとくよくよしてしまう。さらには思い切りがないから本線押さえの比重も悪い。往々にして馬券のうまい人というのは、型が決まっているものだ。単勝1点買いが自分の性分に合っている気がした。
アブニールは、担当の栗東Bコース(ダート)で行われた3頭併せの追い切りで1頭だけ鞍上が手綱を引っ張ったまま上がってきたのがまず良かった。Bコースはマイナーで、特に先週のような変則開催木曜一発追いの週は見ている絶対的人数が少ない。牝馬限定戦のダート戦で、15頭のうちこの馬を含めた9頭が初ダート。調教でダートがOKなのは確認ずみだが、念のため以前のパドックとここまでのレースを見返して適性をチェックする。後ろの球節が長くて下がり過ぎるのはNGだが繋は短めで許容範囲の降下、蹄にも高さがあり、前膝のピッチが利く走法も合格ライン。新種牡馬コマンズは自身の競走実績が芝の短距離で、産駒の5勝がすべて芝だが、この馬はいけるだろう。2走とも出遅れながらラストで脚を使っている。前走なんかは最内を通った馬が1~3着を占める展開のなか4角最後方、直線大外のコース取りで前進気勢を見せて8着。2着が次走で楽勝し、4、5、6着がその後で馬券圏内に入っているのを確認したとき心がグッと傾く。あとは相手。敵陣を調べあげて絶対的存在はいないと判断し、師匠の言うところの「おいしい」オッズになることも狙って◎に決めた。競馬当日は坂路当番→内勤のシフトだったので映像で最後の最後まで確認。大丈夫、久々でも仕上がって毛ヅヤ張りともいい。捌きが軽く、気合も良し。パワーも負けていない。怖いのは内枠のルメールだが、あっちは単勝1倍台で、こっちは30倍を切るぐらい。そこまでの開きはないだろう…。競馬は今までにない好発を切り、終始いいポジションでのレース運び。ずっと余裕があった。ダブル開催になって京都はペースが落ち着くようになり、今週はやけに前が残っている。これで負けたら仕方ない。結局、脚いろは鈍らず、正攻法から後続を振り切っての快勝だった。出遅れても差してこれると予測していたので、そこは完全な読み違いだったが、嬉しい誤算とでもいうべきか。
ただね、つれてきた2着馬のフォーカスがないのよ、これが。10番人気のアグネスモバイルはまったく無警戒のノーマークだった。馬単71530円。敢然と打った◎が勝っても相手がなければカウントはゼロなのだ。予想の相手本数は最大6頭までなので、人気薄→人気薄の目を拾うには必然的に人気どころを切る作業が要求される。高配ヒットするには盲点の◎を見つけたうえになおかつ危ない人気馬を潔く無印にする心意気がいるのだ。あ~、道のりは長い。もう一歩、二歩と進んで、残念なトラックマンから脱却せねばらならない。
栗東編集局 山田理子