第1回ブリーダーズカップが行われたのが1984年。それからもう40年が経ちました。BCクラシック、BCターフ、BCスプリント、BCマイル、BCディスタフ、BCジュヴェナイル、BCジュヴェナイルフィリーズの7レースでしたが、1999年にBCフィリー&メアターフ、2007年にはBCダートマイル、BCフィリー&メアスプリント、BCジュヴェナイルターフ、2008年BCターフスプリント、BCジュヴェナイルフィリーズターフ、2018年BCジュヴェナイルターフスプリントと次々に追加されて今では14競走がG1として行われています。増える一方のようですが、2008年に創設されたBCマラソンは2010年にG3、2011年にG2格付けを受けて順調に成長しているように見えたところ、2014年にはブリーダーズCシリーズからは外され、今ではサラブレッドアフターケアアライアンスSG3として施行されています。
 今年は日本から19頭が遠征し、馬券発売が行われるおなじみの4競走を含め10競走に出走します。日本からの輸送時間が短い西海岸、しかも2021年にはマルシュロレーヌ(ディスタフ)とラヴズオンリーユー(フィリー&メアターフ)の2頭が優勝したデルマー競馬場ということで、これはチャンス!と考えた陣営が多かったのでしょう。今年の場合、2歳競走4鞍に6頭も出走するという点も特徴的です。
 さて、第1回のブリーダーズカップは今はなきハリウッドパーク競馬場で行われ、BCクラシックG1はワイルドアゲインが序盤の3頭による激しい先行争いを制したところをスルーオゴールドが猛追し、更に直線で追い込んできたゲートダンサーも加わって残り1Fでは3頭の死闘がゴールまで続きました。1/2馬身差で勝ったのはワイルドアゲイン。次いでゲートダンサー、頭差でスルーオゴールドの順で入線したが、ゲートダンサーはスルーオゴールドへの進路妨害で2位→3着に降着となりました。勝ったワイルドラッシュはアイスカペイド産駒で母の父カーレッド、ネアルコ3×4、ハイペリオン4×3の近交という今から見ると古色蒼然たる血統ですが、日本でもナリタキングオーやワイルドブラスターといった重賞勝ち馬を送り、代表産駒といえるワイルドラッシュUSAはダービーグランプリのパーソナルラッシュUSAやジャパンカップダートG1のトランセンドを送り、日本でも、特にダート部門においてそれなりの成功を見ました。直仔のエルムハーストは1997年にハリウッドパーク競馬場で行われたBCスプリントG1に優勝。ブリーダーズC父仔制覇を遂げています。BCクラシックの父仔制覇はなりませんでしたが、2014年のBCクラシックG1勝ち馬バイエルンは父オフリーワイルドがワイルドアゲイン産駒なので、1代スキップした父系制覇を達成しています。
 BCクラシックG1の父仔制覇はこれまで2組達成されています。1998年の父オーサムアゲインと2004年の仔ゴーストザッパー、2007年の父カーリンと2019年の仔ヴィノロッソです。今年の出走馬ではハイランドフォールズがカーリン産駒。また、シエラレオーネはデルマー競馬場で行われた2017年の勝ち馬ガンランナーの産駒です。
 ここでBCクラシックG1勝ち馬の血統的特徴を挙げておきましょう。第一にミスタープロスペクターの血が入っている。これは過去20年で例外は2006年の勝ち馬でアルゼンチン産のインヴァソールだけです。といっても、現代の米国の競馬でミスタープロスペクターの血があるかないかといえば、定食に味噌汁がついているかいないかを議論するようなもので、今回の出走馬14頭全部がどこかにミスタープロスペクターの血を持っていました。それ以外にいえるのは、ミスタープロスペクターを巡って、デピュティミニスター、ストームキャット、エーピーインディが組み合わされているということです。これも米国のサラブレッドはそれらの血統の順列組み合わせ的なバリエーションで成り立っているといってもいいとはいえますが、過去10年で見ると昨年の勝ち馬ホワイトアバリオは父レースデイ、母の父イントゥミスチーフ、祖母の父グランドスラムですから、父系がエーピーインディ、母の父系がストームキャット、祖母の父系がミスタープロスペクターということになります。同様に2022年フライトラインは父系エーピーインディ、2021年ニックスゴーは父系デピュティミニスター、祖母の父系ミスタープロスペクター、2020年オーセンティックは父系ストームキャット、母の父系ミスタープロスペクター、2019年ヴィノロッソは父系ミスタープロスペクター、母の父系ミスタープロスペクター、祖母の父系デピュティミニスター、2018年アクセラレートは父系ミスタープロスペクター、母の父系デピュティミニスター、2017年ガンランナーは父系ミスタープロスペクター、母の父系ストームキャット、祖母の父系ミスタープロスペクター、2016年アロゲートは父系ミスタープロスペクター、母の父系ミスタープロスペクター、祖母の父系デピュティミニスター、2015年アメリカンフェローは父系ミスタープロスペクター、母の父系ストームキャット、2014年バイエルンは前述のワイルドアゲイン系で異色ですが、父の母の父がシアトルスルー(エーピーインディの父)で、母の父系サンダーガルチはミスタープロスペクターの孫で母の父はストームバード(ストームキャットの父)、祖母の父はアリダーと、伝統的米国血統で構成されている点は同じといえます。
 今年は主催者の予測オッズではアイルランドからの遠征馬シティオブトロオイが3.5倍のトップとなっています。同馬はクールモア産の英ダービー馬ですが、ケンタッキー生まれで父は米三冠馬ジャスティファイ。ジャスティファイは父系がストームキャットで、ミスタープロスペクターもデピュティミニスターもエーピーインディもすべて備えています。母の父ガリレオは現代の英愛血統の代表といえますが、現役時代は果敢にBCクラシックG1に挑みましたが、4番手から米国のスピードに屈する形で6着に敗れました。
 トラヴァーズSG1に勝った米国3歳代表フィアースネスがそれに続く予測オッズ4倍となっています。1番人気に支持されたケンタッキーダービーG1だけ惨敗しましたが、その後、ジムダンディSG2勝利で巻き返し、トラヴァーズSG1では無敵の牝馬ソーピードアンナを首差下しました。こちらは父系がゴーンウエストを経てミスタープロスペクターに遡り母の父系はエーピーインディ、祖母の父系はアンブライドルドを経てミスタープロスペクター、父の母の父デヒアはデピュティミニスター直仔ですから、典型的米国クラシック血統といえます。ここでのクラシック血統は高い格を備えていて大レース向きという意味です。なお、父のシティオブライトはBCダートマイルG1勝ち馬なので、父を超えるBC父仔制覇という形になります。
 7倍の3番人気は日本のフォーエバーヤングです。ケンタッキーダービーG1の激闘は米国でも強い印象を残したのでしょう。父リアルスティール、父系祖父ディープインパクトと遡る父系ですが、曾祖父サンデーサイレンスは1989年のBCクラシックG1でイージーゴアーとの歴史に残る死闘を制しました。父の母の父はストームキャット、母の父の父はエーピーインディ、祖母の父はデピュティミニスターと血統表3代目に並ぶ種牡馬はむしろ無敵の米国クラシック血統とさえいえます。何でも誉め過ぎは良くないのでこれくらいにしておきます。
 あとは人気順にワンポイントを。
 9倍::ネクスト 3代目にストームキャット、デピュティミニスター、アルファベットスープが並ぶ。祖母の父アルファベットスープは1996年にシガーを破ってBCクラシックG1制覇。
 13倍:シエラレオーネ 父ガンランナーとの父仔制覇かかる。ケンタッキーダービーG1で馬体を接して争ったフォーエバーヤングはイトコ。母はエーピーインディ系×デピュティミニスター。
 13倍:ウシュバテソーロ 父オルフェーヴルは2021年デルマーで行われたBCディスタフに勝ったマルシュロレーヌを送る。母はキングマンボ系×シアトルスルー系と見れば米国向き。
 16倍:アーサーズライド エーピーインディ系の父タピットは2022年の勝ち馬フライトラインと同じ。母の父はサンダーガルチ直仔。3代母の父キートゥザミントはリボー系だけに不気味。
 21倍:ニューゲート 父イントゥミスチーフ(ストームキャット系)は2020年の勝ち馬オーセンティックを送る。母の父はエーピーインディ系。
 21倍:デルマソトガケ 今回唯一のデピュティミニスター直系。
 21倍:ハイランドフォールズ 父仔制覇(2組目)がかかるカーリン直仔。母の父もBCクラシック勝ち馬オーサムアゲイン。デピュティミニスター3×3。
 31倍:タピットトライス エーピーインディ3×4、アンブライドルド3×4。
 31倍:ピレニーズ ニューゲートと同じイントゥミスチーフ産駒。ストームキャット4×3。
 31倍:セニョールバスカドール 父マインシャフトはエーピーインディ直仔。ミスタープロスペクター3×4。3代母の父は1988年BCクラシックG1勝ち馬アリシーバ。
 31倍:ミクスト カーリンの孫。
 総花式ですみません。
 ちなみに、デルマー競馬場でのブリーダーズカップ開催は過去2回。2017年は前半4F46秒31で前述のガンランナーが逃げ切り、2021年は45秒77でニックスゴーがやはり逃げ切りました。小回りなりのスピード勝負で、タフな競馬になるのは確かなようです。

栗東編集局 水野隆弘

水野隆弘(調教・編集担当)
昭和40年10月10日生まれ、三重県津市出身
1988年入社。週刊誌の編集、調教採時担当。栗東トレセン最寄りの小学校の児童は登下校時に鈴を着けるようになりました。トレセン近辺でクマらしきものの目撃情報が相次いでいるためです。私も早朝にトレセンまで徒歩通勤していますが、鈴を着けて歩くべきでしょうか。トレセン内に入るとウマがびっくりするからやめろと怒られる恐れがあります。板挟みです。