サイアーランキング・ウォッチャーとして気づいた今年ここまでの“異変”はトップ10のうちサンデーサイレンスUSA直系が1位キズナ(JBISサーチ、9月2日現在)だけになってしまったことでした。2位ロードカナロア以下10位ヘニーヒューズUSAまではサンデーサイレンスUSA系以外の父系に属する種牡馬が占めています。初年度産駒が4歳に達した2012年から2022年まで11年にわたって不動のチャンピオンサイアーであったディープインパクトが去り、流れは変わって当然ですが、この機会にどのように変わってきたのか、ごく簡単に調べてみました。
 産駒が日本の競走に出走した種牡馬は近年では毎年600頭前後いますが、サイアーランキング20位までをエリート種牡馬として集計の対象にします。全体の上位3%くらいになります。その中でサンデーサイレンスUSA直系種牡馬がどれだけいて、どれだけ賞金を稼ぎ、それ以外の系統の種牡馬とはどの程度差があったかをまとめたのが下表です。

サイアーランキング・ベスト20のサンデーサイレンス直系占有率
年度 父系 頭数 収得賞金(円) 占有率※
2024 サンデーサイレンス系 7 10,014,143,000 32.78%
それ以外の父系 13 20,537,495,000 67.22%
2023 サンデーサイレンス系 7 18,215,716,000 36.97%
それ以外の父系 13 31,051,845,000 63.03%
2022 サンデーサイレンス系 8 20,556,810,000 42.79%
それ以外の父系 12 27,483,434,000 57.21%
2021 サンデーサイレンス系 7 20,257,285,000 43.99%
それ以外の父系 13 25,793,007,000 56.01%
2020 サンデーサイレンス系 9 24,653,164,000 53.35%
それ以外の父系 11 21,557,358,000 46.65%
2019 サンデーサイレンス系 10 26,781,478,000 58.89%
それ以外の父系 10 18,694,859,000 41.11%
2018 サンデーサイレンス系 10 25,297,479,000 56.15%
それ以外の父系 10 19,758,578,000 43.85%
2017 サンデーサイレンス系 10 26,098,592,000 58.44%
それ以外の父系 10 18,563,361,000 41.56%
2016 サンデーサイレンス系 10 26,255,786,000 60.60%
それ以外の父系 10 17,072,103,000 39.40%
2015 サンデーサイレンス系 10 24,630,247,000 58.48%
それ以外の父系 10 17,490,172,000 41.52%
2014 サンデーサイレンス系 11 26,456,779,000 63.06%
それ以外の父系 9 15,498,889,000 36.94%
2013 サンデーサイレンス系 10 23,608,487,000 57.45%
それ以外の父系 10 17,485,475,000 42.55%
※ベスト20内における占有率(例:サンデーサイレンス系種牡馬の収得賞金合計÷ベスト20の収得賞金合計)、JBISサーチによる、2024年は9月2日現在

 占有率のトレンドは種牡馬ディープインパクトの勢いにリンクしていると見ることもできますが、2019年まで拮抗していたトップ20内の頭数が2020年にはサンデーサイレンスUSA系以外の系統が優勢となり、収得賞金でも2021年には逆転しています。もちろん、上位種牡馬の中にはエピファネイアやドゥラメンテをはじめ母系からサンデーサイレンスUSAの影響を受けているものも多いので、父系だけで集計してもサンデーサイレンスUSAの影響力そのものが退潮を迎えているとはいえません。母の父のランキングで見るとサンデーサイレンスUSA系が多く、それが他の父系の戦力伸長の土台となったということもできるのです。
 もうひとつはサンデーサイレンスUSA系がディープインパクト系、ハーツクライ系、ダイワメジャー系……と種牡馬としても孫の代が主力となった結果、細分化が進み、それぞれの系統内での競争が進んだ面も大きいでしょう。
 そのようなことで、現時点での父系としてのサンデーサイレンスUSA系は引き潮の時間帯と見るべきなのでしょう。そんな中で当代のサンデーサイレンスUSA系の一族の長としてのキズナの存在は孤軍奮闘ともいうべきでしょう。このままサンデーサイレンスUSA~ディープインパクトと続いた覇権を握り続けるのか、あるいは同族で出自も同じコントレイルとライバルとして対峙することになるのか。はたまたキタサンブラック~イクイノックスが主流の地位を奪うのか。そして、その争いに引っ張られてまたサンデーサイレンスUSAの潮が満ちるのか。この先は歴史ドラマ的な展開もありそうです。

栗東編集局 水野隆弘

水野隆弘(調教・編集担当)
昭和40年10月10日生まれ、三重県津市出身
1988年入社。週刊誌の編集、調教採時担当。この間まで寒い寒いといっていて、いつの間にか暑い暑いといっているうちに1年の3分の2が過ぎてしまいました。1年が過ぎるのが年々スピードを増しているように感じます。そのうち来年を迎えるより先に再来年が来てしまうのではないでしょうか。ところで、TMTという望遠鏡が完成すると、138億光年離れたところが見える可能性があるといいます。ということは138億年前の宇宙の始まり、ビッグバンが観察できるのかという話になってきます。では140億光年先まで見える望遠鏡ができれば何が見えるのでしょうか。