JRAで2歳新馬戦が始まって1カ月と少し経ちました。新種牡馬の産駒も続々とデビューして、複数の勝ち馬を出しているものもいます。過去10年の新種牡馬ランキングはお手元に「週刊競馬ブック」6月3日発売号がありましたら「ファーストクロップサイアー名鑑」(藤井正弘)に掲載されていますので、そちらを参照していただくのが便利ですが、過去10年の新種牡馬ランキング首位を抜粋して一覧にすると以下の通りです。

年度 種牡馬 代表産駒
2023 スワーヴリチャード レガレイラ
2022 マインドユアビスケッツUSA デルマソトガケ
2021 ドレフォンUSA ジオグリフ
2020 ドゥラメンテ タイトルホルダー
2019 キズナ ビアンフェ
2018 ジャスタウェイ アドマイヤジャスタ
2017 ロードカナロア ステルヴィオ
2016 ルーラーシップ キングズラッシュ
2015 カジノドライヴUSA コウエイテンマ
2014 ハービンジャーGB トーセンバジル

 2歳戦ということで早熟性が求められるのは当然ですが、ランキング首位には意外にもクラシックや古馬戦、長距離戦でも活躍できる種牡馬が就いているケースが多いことが分かります。近年は早い時期にクラシック出走権を確定しておきたいという傾向が強いですから、人気種牡馬がいい牝馬を集め、その産駒が抜かりなく仕上げられて早い時期から勝ち上がり、大物は更に活躍するという流れを考えると、種牡馬の世界も現代競馬と同様に成長度合での「先行力」が必要といえます。
 4月から2歳戦がスタートしているホッカイドウ競馬で産駒が最初に勝ち上がった新種牡馬はレッドベルジュールでした。5月1日の門別3レース、1000mの2歳新馬戦を5番手からディープインパクト系らしい鋭い脚で差し切りました。JRAではシスキンUSA産駒のキトンインザスカイが新種牡馬産駒として最初の勝利を挙げています。シスキンUSAはファーストディフェンスからアンブライドルズソングに遡る父系の米国産馬で現役時は愛・英・仏・北米で8戦し、愛2000ギニーG1、フィーニクスSG1、レイルウェイSG2など5勝を挙げた一流マイラーです。7月7日現在では後に続くものがまだ出てこず、ファーストシーズンサイアーランキング(JRAのみ、JBISサーチ発表、以下同じ)では8位にとどまっています。
 現在の首位はナダルUSAで11頭が12回出走し3勝を挙げています。ブリーダーズCクラシックG1勝ち馬の父ブレイムからアーチ、クリスエスを経てロベルトに遡る父系。3歳1月のデビューから5月のアーカンソーダービーG1まで4戦4勝と競走馬としては底を見せないまま引退して種牡馬となりました。産駒の3勝の内訳は芝1000m、芝1200m、ダート1400m。ロベルト系で2歳戦から好成績を収めた種牡馬というとリアルシャダイUSA(ファーストシーズンサイアーランキング1987年1位)やブライアンズタイムUSA(同1993年2位)が思い出されます。
 2位アドマイヤマーズは2018年の朝日杯フューチュリティSG1と翌年のNHKマイルCG1、香港マイルG1に勝ちました。父のダイワメジャーは2011年のファーストシーズンサイアーチャンピオンで、産駒の早期駆けと長じてのマイル戦での強さに定評があります。こちらは父以上にマイル戦に特化した競走成績でしたが、産駒の3勝のうち2勝が1800mでの先行抜け出しというものでした。
 3位のタワーオブロンドンは15頭が20回出走して2勝、2着4回、3着1回の成績を残していて、毎週のように複数の産駒が出走して活躍しているイメージがあります。地方競馬も含めた総合ランキングでは出走数、収得賞金ともにトップに立っていて、仕上がりの早さでは屈指の存在といえます。自身は2019年のスプリンターズSG1に勝ち、そのほかセントウルSG2と京王杯スプリングCG2をレコードで勝っています。ブリーダーズCクラシックG1勝ちのレイヴンズパスを経てイルーシヴクオリティ、ゴーンウエストと遡る父系。ゴーンウエストはミスタープロスペクター系でも特に多様な適性を示すので、本馬の産駒からもダートはもちろん芝で距離が延びていいものも出てくるでしょう。
 4位のサートゥルナーリアは恐らくこの世代のチャンピオン候補といえるでしょうが、今のところ7頭が出走して2勝。兄のエピファネイアは産駒が東京優駿G1のダノンデサイルをはじめこの春G1に4勝、同リオンディーズも天皇賞(春)G1のテーオーロイヤルを送り出しました。現2歳で血統登録された頭数も142を数え、成功しない理由が見当たらないとさえいえるでしょう。この先、距離の長い競走や格の高い競走が増えるにつれて頭角を現してくるはずです。
 5位ウインブライトは13頭が20回出走して2勝を挙げています。ステイゴールド直仔で自身2歳時は4戦1勝。5歳時に中山記念G2、クイーンエリザベス2世CG1、香港カップG1とキャリアのピークを迎えますが、3歳初期にもスプリングSG2に勝っていて、それなりに早期駆けの下地もあったといえます。同じステイゴールド産駒のオルフェーヴル同様ノーザンテーストCANの近交馬である点もいいところ。
 6位以下ではモズアスコットUSAミスターメロディUSA、そして前述のシスキンUSAがそれぞれ1勝を挙げています。血統登録された2歳馬の頭数が149とこの世代で首位のルヴァンスレーヴはまだJRAでは未勝利ですが、地方では3頭が4勝を挙げており、ダートの競走が増えてくるとじわじわと力を発揮してきそうです。

栗東編集局 水野隆弘

水野隆弘(調教・編集担当)
昭和40年10月10日生まれ、三重県津市出身
1988年入社。週刊誌の編集、調教採時担当。京都は勿論、奈良も外国人観光客が多いですね。滋賀県の山奥にあるミホ・ミュージアムも久しぶりに行ったら外国の方が大変多く驚きました。このインバウンドの波を競馬場にも向けられないでしょうか。どうでしょうか。