風薫る季節を迎え、牡馬クラシック戦線は既に日本ダービーに向けて動き始めています。先週の青木TMから2週続け皐月賞ネタになってしまい恐縮ですが、ここで改めて第一関門の皐月賞を振り返ってみると、レースは9番人気の伏兵アルアインが好位から抜けて快勝。牝馬として69年ぶりの快挙に挑んだ1番人気ファンディーナは直線で先頭のシーンを作りながらも7着、共同通信杯組の4連勝を狙った2番人気のスワーヴリチャードは6着、3番人気の弥生賞馬カデナも9着に終わり、馬単配当は20,720円、3連単は100万円超えという波乱の幕切れとなりました。
ところで、勝ったアルアインは毎日杯からの臨戦でした。毎日杯組と言えば、1999年にテイエムオペラオー、1988年にヤエノムテキ、1977年にハードバージが優勝しており、何やら〝ゾロ目伝説〟のようなものが頭に浮かびますが(2011年は出走がなかった)、それはさておき、下記の通り、今回は上位8頭がすべて別路線組。これもかなり珍しいケースと言えるでしょう。
1着 | アルアイン | 毎日杯組 |
2着 | ペルシアンナイト | アーリントンC組 |
3着 | ダンビュライト | 弥生賞組 |
4着 | クリンチャー | すみれS組 |
5着 | レイデオロ | ホープフルS組 |
6着 | スワーヴリチャード | 共同通信杯組 |
7着 | ファンディーナ | フラワーC組 |
8着 | ウインブライト | スプリングS組 |
過去40年ほど(1976年まで)遡ってみましたが、同様のケースは見当たらず、これに準ずる年がカツトップエースの勝った1981年。この年は上位6着までが別路線組でした。3連単・3連複は勿論、馬単・馬連もなかった時代ですが、枠連配当は6650円。勝ったカツトップエースが16番人気、2着ロングミラーが11番人気と、この年もやはり、大波乱で幕を閉じています。
そもそも今年の牡馬クラシック戦線は、早い段階から〝混戦〟の評が支配的でした。この四半世紀で僅か2頭だった牝馬の挑戦があったのもそれを端的に示す事実ですし、競馬ブック当日版(関東版)でも、出走馬18頭のうち11頭までに予想スタッフの誰かが◎を打っています。つまり、弊社紙面上でも混沌とした勢力図のままで本番を迎えた訳です。
中でも見逃すことができなかったのが、これまで主力とされていたトライアル組に対する評価の低さではないでしょうか。下記の通り、今年の人気上位5頭の中で、トライアルを使っていた馬は僅かにカデナ1頭という状況でした。
1番人気 | ファンディーナ | フラワーC組 |
2番人気 | スワーヴリチャード | 共同通信杯組 |
3番人気 | カデナ | 弥生賞組 |
4番人気 | ペルシアンナイト | アーリントンC組 |
5番人気 | レイデオロ | ホープフルS組 |
ちなみに、弥生賞、スプリングS、若葉Sの3競走すべてに優先出走権が設けられ、今のトライアル体制の原型が確立されたのが1991年。その1991年は若葉S優勝のトウカイテイオーが1番人気(1着)、弥生賞優勝のイブキマイカグラが2番人気(4着)、スプリングS優勝のシンホリスキーが3番人気(15着)と、いきなり明快な下馬評が形成されたのですが、それ以降も、皐月賞における主力はずっとこのトライアル3組でした。
下の表は1991年から昨年まで26年間の人気上位5頭を路線別に集計したものですが、この表にも主力がトライアル組であることが瞭然と見て取れます。特に、1番人気馬がトライアル3競走以外から出たケースは、26年でたったの2度。近年、猛威を振るっている共同通信杯組にしても、戦前評価としては2番人気が精一杯というのが実情です。
人気 | 弥生賞 | スプS | 若葉S | きさら | 毎日杯 | 共同通 | アーリ | すみれ | 若駒S | 京成杯 |
1番人気 | 14 | 8 | 2 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
2番人気 | 13 | 4 | 3 | 1 | 0 | 5 | 0 | 0 | 0 | 0 |
3番人気 | 9 | 8 | 4 | 1 | 1 | 1 | 1 | 0 | 1 | 0 |
4番人気 | 11 | 3 | 3 | 1 | 3 | 2 | 0 | 2 | 1 | 0 |
5番人気 | 7 | 7 | 3 | 1 | 6 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 |
合計 | 54 | 30 | 15 | 5 | 11 | 8 | 2 | 2 | 2 | 1 |
もうひとつ、5番人気以内にトライアル組が何頭いたか、その数を1991年から順に列挙してみると……。4、5、4、4、4、4、4、3、3、3、3、3、4、5、4、4、3、5、4、4、3、4、4、3、4、4。
四半世紀の歴史で、人気の上位5頭のうちトライアル組が2頭以下だった年は一度もありません。前述したように、共同通信杯組の活躍目覚しい近年でも、上位人気勢の多くがトライアル組という構図に変わりはありませんでした。
それが、今年の場合はカデナ1頭だけ。いかにトライアル組が評価されていなかったかが窺い知れます。皐月賞戦線には、今年一気に〝カオスの時代〟がやってきた、そんな思いを否定できません。
さて、今年のレース結果を受けて、この〝カオスの時代〟に更に拍車がかかる可能性は十分にありそうです。来年の皐月賞もまた、〝難解だけど推理のし甲斐もある〟そんなクラシック第一関門になるかもしれません。
美浦編集局 宇土秀顕
宇土秀顕(編集担当)
昭和37年10月16日生、東京都出身、茨城県稲敷市在住、A型。昭和61年入社。
内勤の裏方業務が中心なので、週刊誌や当日版紙面に登場することは少ない。趣味は山歩きとメダカの飼育。
桜花賞翌日に山梨へ。既に〝桃源郷〟の季節を迎えていた甲府盆地でしたが、今年は紅白の桃に開花の遅れた桜が重なって、えも言われぬ絶景がありました。そんな花景色だけでなく、雪を踏み抜きながら登った夜叉神峠からは3000m峰の白根三山を望み、夜は山あいの静かな温泉宿でノンビリと……。翌日、天気は崩れましたが、雨に煙る桃源郷の風景もまた一興。こうして2日間の〝リフレッシュ放牧〟を終え、いよいよ今年も東京の5週連続GⅠを迎えます。