ラグビーワールドカップの日本開催が2009年に決まった時には「ヨッシャー」というよりは「大丈夫だろうか?」という思いの方が強かった。

 当時、ワールドカップにこそ毎回出ていた日本代表だが、本大会で勝ったのはたった1回だけ。

 強豪には圧敗、そこそこ強いチームには完敗。せいぜい予選で1勝できるかどうか微妙なチームにさえ敵わない感じがあった。開催が決まった直後の2011年大会もフランスに食い下がり、カナダと引き分けしたものの、結果的には未勝利。

 本当にこれで開催が盛り上がるのだろうか?

 ひと昔前の関東圏のGIレースのように場所だけ貸していると言われるようなことにはならないだろうか?

 世界の強豪が見られるかもしれない喜びよりも、何だかひどく恥ずかしい思いをするのではないかと関係者でもないのに不安しか感じなかった。

 そんな自分でも少し期待しはじめたのは2012年にエディー・ジョーンズさんがヘッドコーチに就任してからのこと。

 サントリーサンゴリアスで指揮を取って、2年目にはトップリーグで優勝。世界のラグビーを知っているのは当たり前として、日本のラグビーにも深く理解のある人が代表の指揮を取ってくれることは過去になかった。

 2015年大会はさすがに1勝は勿論、南アフリカ相手にもひどい負け方はしないはずだと思って観戦していたが、善戦どころか同点を拒否してまさかの逆転劇。その後もサモアとアメリカにも完勝して2勝を上積みしたのだから驚いた。

 ヘッドコーチが変わった今大会でも、前回3勝という数字が残っているだけに日に日にメディアも盛り上げて、開幕戦も自分の想像以上に熱気に包まれていた。ついにはアイルランドを撃破。もはや、奇跡とはいえないような強い内容で、今後の活躍も前回大会以上に期待させるものになった。

 それもこれも、ここまで地道に強化を続けてきて、エディーからジェイミー・ジョセフに受け継がれてきたものがあるからこそだろう。

 このまま1位通過を果たして、何とかひとつ勝ってくれれば、自分が持っている準決勝のチケットがプラチナチケット以上の価値になるかもしれない。いやいや、勝ちなどどうでも良く、そんな場面がもし見られるならここまでラグビーを見続けてきた甲斐があったというもの。

 ここからの1戦1戦は尋常じゃなく気合が入ります。

 さて、ワールドカップといえば、今週は競馬のワールドカップともいえる凱旋門賞。

 ここまでの日本の競馬界にも海外からの血がどんどん入ってきて、施設や技術も格段に良くなった。

 いまや悲願になっている凱旋門賞制覇。

 ラグビー日本代表と同じように、地道に積み上げてきたものが十分に厚みを増して、下地は整いつつある。

 ただ、あと一歩、何か足りないものがあるのも事実。それさえ分かれば、凱旋門賞制覇も夢ではないだろうと思うのだけれど……。

 しかし、最近、日本の競馬界にとって凱旋門賞制覇が本当に悲願なのかどうか、少し疑問にも感じてしまう。

 エルコンドルパサーが逃げて、一旦は抜け出しかけたのが1999年。オルフェーヴルが満を持して抜け出してきたのが2012年。

 オルフェーヴルの2年目から見ても6年。エルコンドルパサーからは20年も経ったのに、ここ数年は近づくどころか少し遠のきつつあるように感じてしまう。

 一方、春からイギリスに滞在しているディアドラは2戦目でナッソーSを勝って、前走の愛チャンピオンSもスムーズに捌けていればと思わせる内容。

 これだけですべてが語れる訳ではないが、もう少し腰をすえて挑戦する馬が出てきてもいいような気がしてしまう。

 いずれにしても今の自分は凱旋門賞を何とか当てて、ワールドカップ準決勝のスタンドで1杯1000円のビールをうまく飲めるかに気持ちが集中している。

 遠征2戦目になるあの馬の劇走がないだろうか。

 そうすれば何杯飲もうが平気なのだが……。

美浦編集局 吉田幹太

吉田幹太(調教担当)
昭和45年12月30日生 宮城県出身 A型
道営から栗東勤務を経て、平成5年に美浦編集部へ転属。現在は南馬場の調教班として採時を担当、グリーンチャンネルパドック解説でお馴染み。道営のトラックマンの経験を持つスタッフは、専門紙業界全体を見渡しても現在では希少。JRA全競馬場はもとより、国内の競輪場、競艇場、オートレース場の多くを踏破。のみならずアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、イギリス、マレーシア、香港などの競馬場を渡り歩く、案外(?)国際派である。