ブラジルの地方都市で生まれて兄弟が多い中で生家は決して裕福ではなく、幼い頃に父が死んで家計は更に苦しくなった。高等教育を受ける余裕もなく寂しさを紛らわすために夜の街をウロついていたが、たまたまスポーツと出会うことで悪い仲間と付き合うこともなく努力して多くの人に知られるような活躍をして現在に至る。あたかもヨーロッパのクラブチームで活躍するサッカー選手のようなストーリーだが、これがJ.モレイラ騎手の生い立ちだという。11月11日、リスグラシューに騎乗した彼がついにJRAでのGⅠ初制覇を達成した。更に当日、エリザベス女王杯が行われた京都競馬場では12レース中11レースで外国籍の騎手が勝つという史上初の出来事がおきた。当日、京都ではそのモレイラ騎手を含めて4人の外国人騎手が騎乗。昨今の例に漏れずいずれもが有力馬に騎乗していたが、日本人騎手が1番人気に推されたレースも3鞍あったので決して勝って当然、という訳ではなかった。

 馬券戦術からすればどんな馬で誰が乗ろうが、勝てそうな馬を買えばいい訳で外国人騎手のボックス買いという当て方もあるが、昔ながらの競馬ファンとしてはむなしいものがある。先週は京都で起きたことで対岸の火事のように見ていたが、今週の土曜には東京競馬場に6人の外国人騎手が騎乗予定。障害を除く11レースすべて勝たれる可能性も十分にある。上記のモレイラ騎手のような環境は今の日本ではあまりないし、私の世代よりも前の人達が幼少期に経験したような状況もないので今の若い世代はハングリーさが足りないと言ってしまえば簡単だが、厳しい状況になれば自然に技術が身につく訳ではなく、おそらくブラジルでも騎手が全員、トップクラスということはないはずだ。

 中央競馬には騎手学校という仕組みがあってしっかりしたカリキュラムがあり、設備も十分。先週の土曜日には東京競馬場で模擬レースが行われたように経験も十分で騎乗フォームもしっかりしていた。既にデビューしている現役世代も含めて技術的な面では特に日本人騎手が劣る訳ではないと思う。日本時間で13日、エンゼルスで活躍した大谷翔平がメジャーリーグの新人王に選ばれた。日本国内とはいえプロで活躍していた選手に今更、新人と呼ぶのもどうかと思うが、野球でもこれだけやれるのだからスポーツの分野で日本人が気後れすることはない。私も他人事ではなく、足りないのは出来るとか勝てるとかいうある意味、根拠のない自信のようなものではないか。確かに出走全馬にチャンスがあるのではなく普通に乗ったら能力的に足りない馬もいるだろう。だが、たとえ出遅れたとしてもそのままずっと後方で終わるというようなレースはあまりして欲しくないなというのが一ファンの願いである。

美浦編集局 田村明宏

田村明宏 (厩舎取材担当)
昭和46年6月28日生 北海道出身 O型
東京土曜1Rで現時点で日本人のリーディング戸崎騎手はレッドパラスに騎乗予定。今回は初ダートだが、初戦は芝でも先行して2着に粘ったように切れ味に欠けてもいいスピードがある。甘さを補ってストップ外国人騎手の先陣を切ってもらいたい。