第21歩目 おもひでの名世代 (唐島有輝)

この仕事をしていると、どの馬に対してもある程度の距離を置きながら見てしまうため、特定の馬を追いかけるということがなくなってしまう。ただ、そんな私にも過去に思い入れのある馬がいて、それが同じ世代、同じ厩舎に所属していたサトノレイナスとアカイトリノムスメだ。

この2頭が好きだった理由はふたつある。

ひとつめは調教担当としての自信がちょっぴりついたから。いまだに分からないことは沢山あるけれど、この2頭に関しては追い切りを見て時間を追う毎にグングンと良くなっているということが誰から聞いたわけでもなく「自分だけの感覚」で感じることができたし、それが実際にレースの結果に表れていて、競馬を見るのが本当に楽しかった。成功だけではなく失敗もしたけれど、それでもそんな失敗に対しても後悔はまったくなくて、2頭から教わったことは自分にとってすごく大きなものになっている。

ふたつめはソダシという自分にとっての分かりやすいヒール役がいたから。ソダシ云々ではなく、実を言うと私はもともと白い馬があまり好きではない。なぜなら白毛って見た目だけでチヤホヤされるから。そもそも白毛の馬がチヤホヤされる意味がよく分からない。「白馬の王子様」のイメージがあるから?でもそれならチヤホヤされるべきは「王子様」であって「白馬」ではないじゃないか・・・。

と、そんな捻くれた性格もあって、ソダシのことを2歳のときから勝手にライバル視していて、デビュー戦からずっと別の馬を本命にしていた。それが蓋を開けてみれば強いの何の。馬場もコースもまったく関係なくて、連勝街道まっしぐら。特に悔しかったのが桜花賞。ほぼ負けることがないだろうと自信を持っていた◎サトノレイナスが最速の上がりを使いながらクビ差届かず2着。結局レイナスは次走ダービーに進み、引っ掛かって自滅のような形で5着。その後、故障してしまいソダシにリベンジすることができないまま、ダービーが最後のレースになってしまった。無事なら重賞未勝利のまま終わるような馬ではなかったはずだと今でも思っている。

だからこそ、秋華賞は僚馬であるアカイトリノムスメに頑張ってほしかった。もちろん、春よりも馬が良くなっているという確かな感覚が自分の中にあったのが一番だが、レイナスのためにも、という気持ちも強かった。結果は持ち前のセンスを生かし、好位から抜け出して勝利。以前はワンパンチ足りない部分のあった馬が、しっかりと最後の一冠をモノにした瞬間だった。牡馬、牝馬とも春二冠と比べて秋の一冠は地味なイメージがあるだろうが、夏を越えて成長した馬が春の実績馬を倒すシーンもあるのが魅力で、日頃から馬を見ているトラックマンにとっても意味があるレースだと思う。◎→○の大本線で当てることができて、すごく嬉しかったのを覚えている。自分にとっての会心のレースのひとつだ。

大好きだったし、恩も感じていたから、翌年の阪神牝馬Sの返し馬でのあの痛々しい姿を見たときは大ショックで、最悪の状況も覚悟した。命が助かったと聞いたときはホッとした。もう少し先の話になるが、子供が活躍するのを楽しみにしたい。

ちなみに、その直後のヴィクトリアマイルで、11戦目にしてはじめてソダシに本命を打った。「本当はレイナスとアカイトリにも出てほしかったけど、その2頭が出ないんだから、それらに勝ったあなたがここで頑張らなくてどうするのよ」という気持ちを込めて。結果は危なげなく2馬身差の勝利。やっぱりスターは違う。2着ファインルージュも含めてあの2頭の強さを同期が証明してくれて嬉しかったし、なんだか少年漫画王道の展開みたいでエモかった笑。本当、個性派揃いのいい世代だったなぁ。

 

 

美浦編集局 唐島有輝

1993年7月11日生まれ。美浦調教班。

今年の3歳牝馬路線は阪神JF、桜花賞、オークスとそれぞれ違う馬がレベルの高い走りで勝利。ホープフルSも牝馬が制しました。秋華賞はそれらのGⅠ馬がすべて揃ったわけではありませんが、かなり面白い戦いになりそうです。GⅠ馬が意地を見せるのか、それともリベンジがあるのか、上がり馬の激走があるのか、楽しみにレースを待ちましょう。最終決断はまだですが、やっぱり国枝厩舎ステレンボッシュ推しになるのかな。