SNSなどを通じて知っている方もいるかもしれませんが、9月25日の水曜日は大変な一日になりました。
栗東坂路では調教時計が自動計測されていて、馬がゴール入線すると数秒後にパッと馬名とタイムが表示される仕組みになっています。トレセンの調教用モニターには7頭分表示され、下から上にどんどん流れていきます。水曜の朝一番が最も忙しく1分間に最大40頭ほどが追い切るので、スマホなのでモニターを録画しておいて、手の開いた時間帯に馬名をノートに書き起こしていきます。
さて、25日の水曜日。私は坂路のゴール数十メートルほど手前にある撮影小屋に行きました。本来は2階が日刊紙のカメラマンの撮影用ですが、邪魔にならないようにカメラマンの隙間から調教をチェックされていただいています。
午前5時半に馬場が開いて調教スタート。
1頭目の馬が駆け上がってきて入線……モニターに時計が出ません。
いきなりエラーなんて珍しいなぁと思いました。たまに採時エラーがあります。
2頭目が入線、またモニターに反応なし。
おかしいなと思いました。
そこからは一気に馬の数が増えて戦国時代の合戦のように殺到するのですが、画面はブラックアウト。
まじかよ。2階は騒然としました。
事態を理解するのに少し時間がかかりましたが、今日は時計が出ない日なんだと意外と冷静に理解しました。いえ、全然冷静ではなかったのですが、私はこういうアクシデントに涼しい顔をして対応するのがかっこいいと思っているので、焦っている風を出しませんでした。
朝一番の坂路を捌くにはミスを引きずらない、分からないことは後回しにして次に来る馬に対応するのが大切だと経験で分かっているので、気持ちを切り替えてとにかくゼッケンの番号を控え続けます。
併せ馬の場合、普段なら内の馬だけを控えておけば大体OKなのですが、この日はそういうわけにはいきません。とにかくできる限りゼッケン番号を書きまくりました。でもやっぱり数字が見にくかったり、ラチに隠れて見えなかったり、そもそも頭数が多過ぎて手が追いつかなかったり。人力じゃ無理っすね到底。
追い切りが途切れると、このあとの不安が襲ってきます。
時計が表示されていないだけなのか、はたまた採時すらされていないのか。時計のデータが残っていてJRAからリリースされればやりようがありますが、採時がされていない場合は追い切った馬をすべて割り出すのはさすがに不可能です。
新聞はどうするのか。スプリンターズSとシリウスSの重賞2鞍だけは調教欄を埋めて、あとは1面に採時エラーのおことわりを載せてもらうか……などなどいろいろ考えました。いずれにせよ、その日が長い一日になることは明白でした。
呆然としながらゼッケンを控え続けて約2時間。完全に諦めていましたが、7時42分になんとシステムが復旧しました。復旧1頭目の馬は角田大和騎手が乗ったゴッドペイズリーという馬で。いやぁ本当に嬉しかったというかホッとしましたね。
時計がすぐに出るありがたみを痛感しました。
9時半の調教終了間際、時計のデータが残されていてJRAからリリースされることが分かりました。普段は調教終了30分後に出るのですが、約3時間遅れて13時ごろになるとのことでした。
新聞の1面に「おことわり」を掲載する必要がなくなりひと安心です。
でも大変なのはここからでした。13時に調教タイムの一覧が出ると、坂路スタンドから撮影しておいた正面からの映像と、私が朝に書きなぐってきたゼッケンとをにらめっこしながら馬の特定作業にかかります。
急いで書いているので控えたゼッケンが間違っていることこの上なし。ゼッケン表で調べても、厩舎が違ったり既に抹消した馬だったり、全然合いません。
助手単走馬なりの馬なんかは、無意識のうちにスルーしている場合も多々ありました。
毛色や過去のパドック映像を確認したりしながら、坂路担当4人で手分けして何とか坂路の清書を書き終えました。
結局この日時計になったのが583頭。うち約75%にあたる438頭が時計エラーでした。
普段5時半開場の場合だと13時には清書が完了しているのですが、この日は16時過ぎ。都合が悪く17時から社内のサーバーメンテナンスがあり、ギリギリ時間に間に合いました。
清書を書き起こしただけでどの馬がどんな動きだったのかじっくり見ている暇がなかったので、もう一度調教VTRを見返してすべて完了したのが20時過ぎ。
メンテナンス中のため調教短評を入れたり調教解説を書いたりすることができなかったので、翌日の自分に期待してこの日は仕事を終えました。
とまぁ、先週水曜日の顛末を書きました。
穴を開けることなく新聞を出せたのでまぁ良しとしましょう。
JRA側の人的ミスが原因だったとのことなので今後起きないことを期待したいところですが、今回よりひどい事件はもうないだろうなぁ……。
JRAでは毎年10月にゼッケンが一新され、各馬に新しい番号が割り振られます。
さらに今年からは牡馬と牝馬を区別したり番号が通し番号になったりして、ゼッケンのしくみそのものが大きく変わることになります。
この原稿を書いている10月1日(火)の時点ではどんなゼッケンになっているのか全然分かっていません。
明日の朝、何事もなく時計が出てくればいいんですけど……。どうなりますやら。
栗東編集局 丹羽崇彰
丹羽崇彰(調教担当)
1989年2月1日生まれ。岐阜県出身。2013年、キズナがダービーを勝った年にケイバブックに入社。普段は栗東坂路の調教や編集作業を担当。夏は北海道(函館→札幌)でバリバリ働いてます。
10月2日(水)は無事時計が表示されましたが、新しいゼッケンになりなかなか慣れませんでした。4桁の数字ばかりで、最大は9000番台。数字を控えるのに苦労しました。そして関東ローカルが始まる週ということで追い切り頭数も約700頭と今年最多。坂路はつらいよ……