馬の気持ちを考える(山田理子)

 JRAのコマーシャルの♯30・菊花賞、天皇賞(秋)での「馬の気持ちは、耳に出る!」は2017年から始まった「HOT HOLIDAYS!」シリーズのお気に入りヴァージョン。柳楽優弥さんが競馬場で仲間とはぐれ、探し、見つけ、合流するまでの心境を、着用する馬の帽子の耳の動きで表現したもので、不安・動揺→イライラ→発見→リラックスと気持ちが変化する。CMの表記ではupset(耳は片方前へ、もう片方は横に伏せる)→angry(両耳を後ろに伏せる)→curious(両耳を前に向けて立てる)→relaxed(両耳が緩やかに横に倒れる)。初心者のグループの設定にしては専門的であり、♯31のJBC、♯32エリザベス女王杯で電光掲示板の馬場状態や着差を理解してないギャップにツッコミを入れたくなるが、それはさておき、愛らしい“ウマ耳キャップ”が、菊花賞当日の京都競馬場、天皇賞・秋当日の東京競馬場での来場ポイントキャンペーンの抽選でプレゼントされたことも合わせて印象的な回となった。

 ところで「馬の気持ち」についてだが、最近、重要性を正しく理解していないがゆえに、◎やコラムでみなさんに迷惑をかけ、自身も馬券で損失していることを猛反省している。簡単に大雑把に言えば「操縦性」と「前進気勢」について。東京ハイジャンプの◎は前者に課題があり、動画でその件に触れずに推奨したことは弁解の余地がないミステイクだった。仮に相手関係が軽ければ、多少操縦性や前進気勢を欠いた馬でも、脚力の違いで馬券内にくることはあるだろう。ただ、1~3着が好走、4着以下が凡走の区切りは馬券を買う側が勝手に決めた線引に過ぎず、馬券の対象になったからすなわち課題をクリアしたとはならない。結果は結果。内容は別に記憶し、次のレース検討につなげていく必要がある。

 11月5日号の観戦記で吉岡哲哉TMは京王杯2歳Sの勝ち馬ファンタジストを俊才、アルゼンチン共和国杯の勝ち馬パフォーマプロミスを理想的な競走馬と表現してレース巧者ぶりを評し、「今の時代は、流れに乗ってきちんと折り合い、速い脚を繰り出せるセンスは必要不可欠」と締めている。ともにスローペースからの上がり勝負なので大きな着差はついていないが、操縦性、脚力、前進気勢に秀でているからこその勝利。とりわけ「操縦性」と「前進気勢」は人との良好な信頼関係が基盤となっているのが間違いなく、生産、育成、厩舎、ジョッキーとつながる、人と、繊細な馬という動物とのコミュニケーションの成功例を目の当たりにしてハナ差、3/4馬身差に重みを感じる。

 馬と暮らすホースマンでも難しい馬の気持ちを一介の予想屋が理解できるはずもないが、とは思いつつ、見て分かることがあればと、編集部で下記の本を購入してみた。馬の立ち場で考えることはあまりしてこなかったので、まずはそこから習慣づけねばならない。

「馬の気持ち」HOW TO THINK LIKE A HORSE
著者:CHERRY HILL
監修:瀬理町芳隆 持田裕之
翻訳:杉野正和 河村修
発行:株式会社エクイネット

栗東編集局 山田理子

山田理子(調教・編集担当)
昭和46年6月22日生 愛知県出身 B型
水、木曜のトレセンではCWをお手伝いしながら障害コース、Bコースを採時。日曜は隔週で坂路小屋へ。調教時間が何より楽しく、予想で最重要視するのは数字よりも生身の馬の比較。人気薄の狙い馬、危ない人気馬を常に探している。09年より関西障害本紙を担当。週刊誌では15年より新たに「注目新馬紹介」のまとめ役を引き継ぎ、新馬の観察に一層力が入っている。