ダービー馬VSダービー馬(宇土秀顕)

 ファインニードル(セントウルS)、レイデオロ(オールカマー)、ワグネリアン(神戸新聞杯)、アエロリット(毎日王冠)、サトノダイヤモンド(京都大賞典)、そしてディアドラ(府中牝馬S)と、この秋、中央競馬のターフでは王者・女王がシーズンの始動戦を飾るというシーンが続きました。

 中でも強く印象に残るのが先日、9月23日。今年の日本ダービー馬ワグネリアンが神戸新聞杯で実力を見せつけると、その勝利に共鳴するかのように、10分後のオールカマーでは昨年の日本ダービー馬レイデオロが優勝を飾りました。2頭のダービー馬が東西で同日に重賞の勝ち名乗りを上げたのは、おそらく史上初めてのことだったのではないでしょうか。

 今週の天皇賞で多くのファンが心待ちにしていたのは、この2頭の対決、更には一昨年の日本ダービー馬マカヒキも含めた〝3世代ダービー馬対決〟だったと思われます。

 それだけに、ワグネリアンの出走回避は残念としか言いようがありません。勿論、他にも有力候補はいます。しかしダービーには、〝ダービーだけが持つ重み〟というものが、やはりあるのです。

 調べてみると、3世代のダービー馬による対決がGⅠおよびGⅠ級のレースで実現したのは、これまで下記の2回だけでした。やはり3頭の日本ダービー馬が揃うというのはなかなか難しいこと。それだけに今回、ぜひ実現してほしかったのですが……。

 08年ジャパンC→ディープスカイ②、ウオッカ③、メイショウサムソン⑥

 17年ジャパンC→レイデオロ②、マカヒキ④、ワンアンドオンリー⑯

 ちなみにウオッカは日本ダービー以降、引退するまでに国内GⅠに計13戦、メイショウサムソンは12戦、ワンアンドオンリーも同じく12戦。このように、日本ダービー優勝後もGⅠの舞台に立ち続ける馬がいてこそ、はじめて実現する3世代対決なのです。

 とはいえ、このまま行けばレイデオロとマカヒキによるダービー馬対決は実現することになりそうです。では、2頭のダービー馬による対決というのは過去にどれだけあったのでしょうか……。これもGⅠおよびGⅠ級のレース限定で調べてみると、下記の21例が見つかりました。

 なお、これら以外に国外のレースでは、2013年凱旋門賞でオルフェーヴル2着、キズナ4着。また、2016年のドバイシーマクラシックではドゥラメンテ2着、ワンアンドオンリー5着の記録もあります。

 60年有馬記念→コマツヒカリ③、コダマ⑥

 81年天皇賞春→カツラノハイセイコ①、オペックホース⑫

 81年宝塚記念→カツラノハイセイコ②、オペックホース⑥

 84年ジャパンC→シンボリルドルフ③、ミスターシービー⑩

 84年有馬記念→シンボリルドルフ①、ミスターシービー③

 85年天皇賞春→シンボリルドルフ①、ミスターシービー⑤

 87年有馬記念→ダイナガリバー⑭、メリーナイス止

 93年有馬記念→トウカイテイオー①、ウイニングチケット⑪

 02年ジャパンC→ジャングルポケット⑤、アグネスフライト⑯

 06年ジャパンC→ディープインパクト①、メイショウサムソン⑥

 06年有馬記念→ディープインパクト①、メイショウサムソン⑤

 07年宝塚記念→メイショウサムソン②、ウオッカ⑧

 07年ジャパンC→メイショウサムソン③、ウオッカ④

 07年有馬記念→メイショウサムソン⑧、ウオッカ⑪

 08年天皇賞秋→ウオッカ①、ディープスカイ③

 09年安田記念→ウオッカ①、ディープスカイ②

 11年有馬記念→オルフェーヴル①、エイシンフラッシュ②

 12年宝塚記念→オルフェーヴル①、エイシンフラッシュ⑥

 12年ジャパンC→オルフェーヴル②、エイシンフラッシュ⑨

 16年宝塚記念→ドゥラメンテ②、ワンアンドオンリー⑭

 17年天皇賞秋→マカヒキ⑤、ワンアンドオンリー⑰

 さて、2頭の対決となるとその数は一気に増える訳ですが、日本ダービー馬同士のワンツーとなるとこのうち2回だけ。その2回のワンツーのうちの1回が2009年安田記念のウオッカとディープスカイでした。

 2頭の対決は前年秋の天皇賞、ジャパンCに続いてこの時が3回目。ウオッカが年長の意地を、ディープスカイが男馬の意地をそれぞれ1度ずつ見せて、それまでの対戦成績は1勝1敗。当日の人気もウオッカが1番人気、ディープスカイが2番人気でしたから、この年の安田記念はまさに、2頭の日本ダービー馬が雌雄を決する一番となりました。

 前日までグズつき気味だった空模様もレース当日には回復。青空が戻り、初夏の緑眩しい府中での決戦は、直線で前が壁になったウオッカがスペースを探している隙にディープスカイが堂々と先頭に。年少のダービー馬がそのまま押し切るかに見えましたが、残り100mで前が開いたその刹那、まさに鬼脚を閃かせウオッカが大逆転してみせたのです。その勝ちっぷりは強く記憶に刻まれるものでした。

 先に抜け出したディープスカイ(=澄み切った大空)。それをゴール目前で捉えた女傑ウオッカ。美浦事務所勤務の私は例によってテレビ観戦、しかも、週刊誌の製作業務に忙殺される時間帯でしたが、それでも、「前を行くディープスカイも、そして今日の青空も、すべては女傑の鬼脚が呼び戻したのだなあ……」などと、ほんの数分ながら仕事を忘れて感慨に耽ったものです。

 これ以外にも記憶に残るダービー馬対決は少なくありませんが、語っていたらキリがありません。とにもかくにもこの週末、府中の杜では新たな〝日本ダービー馬対決〟が待っています。果たして、そこにはどんな結末が用意されているのでしょうか……。

美浦編集局 宇土秀顕

宇土秀顕(編集担当)
昭和37年10月16日生、東京都出身、茨城県稲敷市在住、A型。
昭和61年入社。内勤の裏方業務が中心なので、週刊誌や当日版紙面に登場することは少ない。趣味は山歩きとメダカの飼育。
 一応、見直しておりますが、個人の手集計なので見逃している〝ダービー馬対決〟があるかもしれません。その際はご容赦ください。