盛夏。そして秋を待つ(山田理子)

 盛夏。中京、小倉と続くこのシーズンは、子供の夏休みに便乗するかのように、遠征競馬に向かう足取りが弾む。生まれてから高校卒業までの18年間を愛知県で過ごした中京地区に行けることが高揚感を倍増させているのは間違いなく、電車の沿線や地下街、味噌の文化、行きかう人々の方言など何もかもが懐かしい。味噌煮込みうどんは〇〇屋のものでなくても大好物。昔からある茶菓子ならういろう、なごやん。コーヒーにお茶請けがついてくる習慣も違和感なく受け入れられる。近辺に親戚縁者が多く、幼少の頃から世話になってきた叔父叔母を訪ねて1泊するのが7月の恒例行事となっており、ふたりはもう後期高齢者となったが、今年も元気な姿を見られてほっとひと安心。この夏は生年月日がまったく同じの、古くからの友達に20年ぶりに会えたのも大きな出来事。6月に突然きたメールをキッカケに再開が実現し、定番の名古屋駅の金時計で待ち合わせたが、姿が目に入ったその瞬間に中学生時代にタイムスリップ。長らく忘れていた「素」が体に蘇り、大げさに言えば、自分が何者なのかを思い出したような気さえした。

 舞台は移って、小倉での決まり事は開幕週の小倉サマージャンプの日に競馬エイトの元障害本紙担当者Jさんと鳥町食堂街でお食事をすること。ふだんは朝の挨拶しか交わさず、一切の近況報告もないのに、なぜか続いている会合。障害好きが根底にあるから、大好きな小倉サマージャンプの感動さめやらぬその夜に、真摯に競馬に向き合うこの人から馬のこと、レースのこと、騎手のことを、あれこれ聞ける時間が貴重だと思う。ほかには約束も行きつけもなく、駅地下のスーパー・レッドキャベツと小倉駅で活動している猫の里親の会に出向くぐらいだが、予定がないのが贅沢というもの。ふだんはあまり買い物をしないくせに、サマーセール真っ只中の小倉駅で洋服や靴、アクセサリー、雑貨などを見てぶらぶら。小さな非日常が十分な気分転換になっている。

 お盆を避けて有休をとり、父親の生家である岡山の山奥に帰るのも夏のイベント。今年は先々週がそれだった。山と田んぼと畑しかないこの地に身を置くといつもなら競馬が遠のくが、今回は「代々墓を建ててくれた石材店の職人さんが熱烈な競馬ファンで、KBS京都「競馬展望プラス」(私出演中です)も観てくれているから、一度挨拶に行こう」となり、昼も夜も虫の声しか聞こえない緑のなかで、競馬談義をする珍しいシチュエーションに。会うなり、「朝の小倉で3連単が当たった」とか「仲間は他にもいて、日曜日はひとりの家に集まってずっとレース中継を見ている」とか。手土産の競馬グッズをお渡しするとそれは喜んでいただけて、競馬というのは、私が想像するよりはるかに強く人を惹きつけるものなのだということを、競馬から離れたところで改めて知った。ところで土砂崩れ危険地域となっていた我が家のある村には西日本豪雨の爪跡は確かにあり、川岸が崩れていたり、橋が通行禁止になっていたり。滋賀に帰る日の最寄駅への道のりは迂回し、片側通行の臨時信号待ちをし、余分に時間がかかった。場所が変わり、人に会い、直に見たこと話したことのひとつひとつが夏の思い出になっていく。

 さて、滋賀に帰り、仕事に戻り、週刊誌企画の「秋を待つスターホース」の準備にとりかかる。仕事柄、秋の気配は周りより早く感じられ、ラストの週には小倉競馬場にまた出向くが、私のなかで夏は終わりつつある。

栗東編集局 山田理子

山田理子(調教・編集担当)
昭和46年6月22日生 愛知県出身 B型
水、木曜のトレセンではCWをお手伝いしながら障害コース、Bコースを採時。日曜は隔週で坂路小屋へ。調教時間が何より楽しく、予想で最重要視するのは数字よりも生身の馬の比較。人気薄の狙い馬、危ない人気馬を常に探している。09年より関西障害本紙を担当。週刊誌では15年より新たに「注目新馬紹介」のまとめ役を引き継ぎ、新馬の観察に一層力が入っている。