“大谷問題”の深遠さ(大袈裟か)(和田章郎)

アメリカ大リーグ、エンゼルスに移籍した大谷翔平選手。高校卒業後、日本のドラフトにかかる前からメジャー挑戦を明言し、結局のところファイターズに入団して二刀流をスタートさせました。
その当時から賛否両論渦巻く中、国内で結果を出し続け、今年から海を渡って夢の実現を果たし、かの地でも順調に好成績を残しているのはご存知の通りです。

この彼の二刀流について、プロ入りの前後から擁護、応援派と、懐疑、反対派に分かれて、それこそ“論争”が繰り広げられてきました。
プロ野球のOBとか解説者の意見を要約すると、大体において長老…いや年配の方は批判的で、比較的若い皆さんは“興味深い試み”として容認派、のような、実にザックリした分類の仕方ができるのかな、と思います。

とりあえず私自身のポジションを明言しておくと、決して長老の年齢ではないですが、どちらかと問い質されれば懐疑的な方。ただ、「やれるものならやってみろ」なニュアンスでは決してありません。
むしろ私は、これまでにも、やろうと思ったら可能だった選手は結構いたんじゃないのかな、と本気で考えている方なので。具体的な名前は挙げませんが。

では、どうしてその可能性を秘めた選手達は、ハナからしようとしなかったのか。あるいは、二刀流の先輩であるベーブ・ルースは、なぜ途中から打者専門になったのか、といった思考に進んでいくわけです。

中5~6日で投手をやり、その間にDHとして数試合打席に立つ。このハードワークが果たして何年続けられるのか。確かに怪我や筋肉疲労のケア、また体力を回復するためのメソッドも日々進歩していますし、そこへ強靭な体力の持ち主が現れれば、と思わせるものはありますが、やってみなくては分からない。
また、個人競技ではない野球にあって、ユーティリティープレーヤーの起用方法が度を過ぎた時、組織として持続的な円滑さが保たれるのかどうか。いや、存在そのものが組織にどう影響するのかからして不透明です。

「だからまずはやってみてはどうか」と考える人が容認派になり、「先例がいないのは長続きしないからだ」と考える人が懐疑派に、といった構図ではないかと。いやそうではなく単純に「二刀流で活躍できれば面白い」が応援派で、「野球は一人でやっているんじゃない」が反対派でしょうか。

一見すると、前者が理解のある放任主義で、後者は型に嵌める偏狭な管理主義っぽい。これ、子供の教育の在り方としてイメージすると分かりやすいです。
子供の意思を尊重し、やりたいと思うことをやらせて能力を伸ばす、のが前者。
過去の成功例を引き合いに出し、ある程度の方向性を大人が示してやる、が後者。
でも、子供の育て方に正解不正解があるとは思えず、とどのつまりは個性に応じて、に行きつくもの。

だからこそ、“大谷問題”は世代を超えた侃々諤々ネタ、になりやすい。

そこから更に論争・炎上ネタを進めますと、先に世代によって意見が分かれるように思う、と書きましたが、大谷選手は1994年生まれ。いわゆる“ゆとり教育世代”です。

“ゆとり教育”がいいとか悪いとかを言おうとしているのではありませんよ。

ただひとつ言えるのは、「能力を伸ばすため子供の意思を尊重してやりたいことをどんどんやらせる」には、余程のことでもない限り、親に経済力がなくてはかなわないだろうな、ということ。
学力面での経済格差が問題になっていますが、それはスポーツの世界でも顕著なように思われます。それが果たしていいことなのかどうか…。
といったふうに、経済面での問題まで提起するのが“大谷問題”です。

ちなみに“ゆとり教育世代”と言えば、大谷選手と同い年のスーパースターに我らが羽生結弦選手がいます。

かたや男子フィギュアのオリンピック連覇、一方はメジャーで二刀流の成功、って、とてつもない世代になりますが、生年以外でも2人には共通していることがあって、ともに東日本大震災の被災地で思春期を送った、ということが挙げられます。
これを社会面での視点からの論争に持ち込むのは無理がありますか?
でも、単なる“ゆとり教育世代”とはちょっと違った視点につながるような気がして、気に入っているファクターなんですけどね。

いやまあ、侃々諤々どころか、いいオヤジがただウダウダ言ってるだけのコラムになってしまいました。

ついでに、といってはなんですが、“大谷問題”の私見になるかどうか分かりませんけど、プロ野球の選手として見てみたいのは-。

打っては打率295、本塁打16本、打点40で、投げては13勝7敗、防御率3.35、奪三振150という二刀流の選手よりも…。
打率400、本塁打60本、打点180の打者か、30勝4敗、18完封、2ノーヒットノーラン、防御率0.48、奪三振550の投手かな、と。

そんな数字を残せる選手や投手がいるわけがない?それ二刀流のことでしょうか?

美浦編集局 和田章郎

和田章郎(編集担当)
昭和36年8月2日生 福岡県出身 AB型
1986年入社。編集部勤務ながら現場優先、実践主義。競馬こそ究極のエンターテインメントと捉え、他の文化、スポーツ、芸術全般にも造詣を深めずして真に競馬を理解することはできない、をモットーに日々感性を磨くことに腐心。今年こその、久しぶりの北海道遠征に着々と準備を進めているところ。