出会いに感謝(和田章郎)

 有馬記念がやってきます。
 今年は最終日ではないどころか、その4日後の平日に別のGⅠが行われます。来年も同じような〝変則日程〟(敢えてこう呼ばせてもらいます)でして、何だか時代が替わるというのか、それがいい方向に替わるのならいいのですが、どうにも不安な気持ちを打ち消せずに、焦燥感みたいなものがあるのが厄介なところです。

 ともかくも、とりあえず今週末が有馬記念。ということは、今年も最終日が近づいてきた、ということ。ですから、前回も似たようなネタを扱いましたが、今回は本格的に自分自身の今年を振り返りたいと思います。

 実は今年に限らず、ここ3年くらい前からでしょうか、新しい知り合いが増えることになりました。ただ、その傾向が今年も続いたどころか、随分と若い頃にしか経験できなかったくらい、新しい〝出会い〟をいただいた気がするのです。

 自分自身が特に何か始めたかと言えば、年明け2回目の当コラムで「『東京オリパラ応援プロジェクト(仮称)』を立ち上げて」云々と書きましたが、それほど具体的に動けたわけではなく、でも前年までと今年の違いはその点くらい。はたしてそのおかげなのかどうかわかりません。もしそうだとすれば、多少は進歩があったのかな、とは思いますが、何しろ刺激的な一年にはなりました。

 その刺激の中で特に印象的だったのは、私よりも少し年長の、二人のご夫人の生き様から学んだこと、だったと思っています。

 お二人とも想像を絶する苛烈な体験をしながら屈することがなく、むしろ窮地に陥ってから生来秘めていたのか?と思わせる生命力を爆発させ、未来を見据えて突き進んでおられるんです。そのうえで、お二人とも「そんなに特別なことをしているわけではありませんよ」と涼しい顔でおっしゃいます。

 その二人に共通するのが〝行動〟の素早さ。思ったり、感じたりしたら、すぐに行動に移す、ということです。

 血気盛んな年齢ならいざ知らず、それなりに生きてきますと案外、様々なことに慎重になりがちです。無論それはそれで、長い人生経験で得た知恵だったりもしますから、必ずしも悪いことばかりではないはず。
 でも、そういうことも踏まえて、或いは、失敗することを想定に入れたとしても、とにかく動く、「やってしまう」のです。ダメならまた〝次〟を考えればいい、みたいな開き直り方をして。

 そういうことは実は頭ではわかっているつもりでしたが、なかなか実践には移せないもの。それをお二人から、そうですね、カツンと木槌かなんかで頭を叩かれたような気になりました。簡単にはとてもマネできないことではあるのですが…。
 ここで名前を出すのは控えますが、何しろ今後もやりとりさせていただくことになると思いますので、どこかで紹介することができるかな、と…。

 最後に、「悩まず、すぐ動く」を実行して、とても幸せな気分になった例を。個人レベルの話であり、そんな大層なことではなくて恐縮ですが、紹介させてください。
 直近の5回中山開幕週、12月3日のこと。中京でチャンピオンズCが行われた日の話です。

 中山競馬場には「ゴンドラ席」と呼ばれる指定席があります。スタンドの5、6階にありまして、屋外スペースと屋内スペースが使用できるという、大変有り難いエリアなのですが、ここが私どもが仕事をしている記者席からすぐ近く。

 そのため、馬券の調子が悪かったりして気分転換をしたくなった際など、フラッと出向いてお茶を飲んだり、お客さんから熱気を分けて頂いたりすることがあるのですが、その日、いつものようにウロついていたら、ちょっと気になる女性がいらしたのです。いや勿論、普段から女性ばかり見ているわけではありませんよ。そこは誤解のないように。
 冗談はさておくとして、何故その女性に目が留まったか、というと、両腕を組んだ右手に競馬ブックを持ち、モニター画面の中京競馬のパドック映像を睨むように見つめておられたのです。
 「おおっ!素晴らしい」
 と思いながら通り過ぎようとした時に、「あれ~?これどこかで同じような経験があったんじゃないか?」という、デジャヴ…じゃなくて何ですかね、とにかく、妙な感覚に陥ったのです。
 そこがゲストルームの近くであったことから「あっ」と思い至ったことはあったのですが、「まさかなあ」とすぐに打ち消し、それでも気になっていると、ご主人らしき男性が近づいてきて二言三言、言葉を交わしたかと思うといなくなって…。

 そこにいたっていよいよお声をかけたい衝動に駆られたのです。でもまだ「違ってたらどうしよう」だの、「もしそうだとして迷惑をかけたんではなかろうか」だのと逡巡もあったんです。
 が、その際に、先の二人のご夫人から学んだことを実践しました。後先を考えずに確認させていただいたのです。
 「すみません、米津さんではないですか。ブックの和田です。東京競馬場のイベント記事の際にお世話になりました…」
 すると奥さん、最初は「何だろう?」みたいな顔をされていたのですが、みるみる表情がほころんで満面の笑顔を見せてくださり、「その節はありがとうございました」と。ご主人はちょっと離れたところに立たれていたのですが、すぐにわかってくださって「あぁ!あの時の」と。
 そうです、週刊競馬ブック2015年12月6日号で、来賓席への読者招待の様子をレポートした『競馬場へようこそ』というページに登場いただいたご夫婦だったのです。それじゃすぐに気付けよっ、てところですが、2年前に一度会ったきり。しかも全然シチュエーションも違いましたので…。
 でも、記事の中身はしっかり覚えていて、なぜ気がついたのか…つまりお二人の行動パターンとか、奥さんが勝負強くて競馬場の招待席によく当たる、といったようなことを説明させてもらって、すっかり指定席エリアで話し込んでしまいました。
 締め切り間際でしたし、お二人の馬券購入の邪魔になってはいけません(?)ので、ほどほどにしながらお別れしましたが、「また応募させていただきます」と。是非そうしてください。もしまた奥様が勝負強さを発揮されたその時には、この日の思い出話もできますし。

 それにしても、読者招待イベントで紹介させていただいたご夫婦が、変わりなく競馬を楽しんでおられるのがわかって、滅茶苦茶嬉しかったことは言うまでもありません。
 競馬を楽しめるのはサラブレッド達や関係者のおかげなのは言うまでもないですが、この仕事、やっぱりこういうことが起きるからこそ続けてこられたのかな?なんてことを入社31年目の暮れに思った次第です。
 今年もお世話になりました。
 来年もよろしくお願いいたします。

 ではまた、競馬場で会いましょう。

美浦編集局 和田章郎

和田章郎(編集担当)
昭和36年8月2日生 福岡県出身 AB型
1986年入社。編集部勤務ながら現場優先、実践主義。競馬こそ究極のエンターテインメントと捉え、他の文化、スポーツ全般にも造詣を深めずして真に競馬を理解することはできない、がモットー。まだまだ学ぶべきことがある、とつくづく思わされた一年。日々精進です。