風はどうでしょうか(和田章郎)

 今年は7月が過ごしやすい日が多いと思ったら、これはどうも関東地方だけのようで、7月27日だと言うのに、まだ梅雨が明けていません。

 例年だと海の日が過ぎたくらいから強烈に暑くなってくるものですが、先週末など明け方などは涼しく、「あれれ?」という感じでした。この週明けもあまり変化はなく、各メディアで活躍されている気象予報士の皆さんも、梅雨明けのタイミングを聞かれて返答に困っているようです。

 そんなやりとりの中で、風が冷たいとか、偏西風がどうとか、いろいろな解説を耳にします。そりゃまあ梅雨とて気象現象のひとつですから、風が大きく影響するというのは当然なのかもしれません。

 競馬の場合、お天気の良し悪しは馬場コンディションを左右しますから、その日の気象条件には敏感にならざるを得ません。でも案外、風に関する考察は曖昧なまま、のように思います。

 いや、と言うよりも、きちんとした検証結果が報告されてないこともあって、個人個人が勝手気ままな説を唱えているような印象を受けます。

 “風圧”が問題になるのは競輪。競艇も風の強さや向きがレース条件の変更につながるほどに話題になりますが、競馬はよっぽどの時しか話題に上がりません。ただ、逆に話題に上がった時は、「レース結果に大きく影響した」という論調になります。

 好例が今年の皐月賞。「向正面が強烈な向かい風だった」ということで、ハイペースが刻まれる中、勝負どころから動いて出た先行勢が苦しくなって、直線を向くと追い風に乗った差し、追い込み勢が台頭…。大変わかりやすい、ように聞こえます。

 でも、何か違和感があります。風ってそんなに単純なんでしょうか、みたいな感じ。これ、取り立てて意地悪な見方ではないように思うのです。

 例えばの話。
 フワフワと風に乗って空を飛ぶ気球。あれにもしっかり競技としてのレースがあって、飛ぶ方向を替えるのにどうするかと言えば、高度を変えて調節するそうです。自然現象が相手ですから、変更する距離は一定しないようですが、10mくらいの差でも風向きが違う場合があるのだとか。

 また、高いスタンドが上から覆うようにグラウンドの周りを囲んでいて、その上部が開いているという独特の形状をしている千葉マリンスタジアム(今は別名称ですが)。東京湾のすぐ横にあって風が強いからか、風速と風向きがバックスクリーンの一角に表示されますが、スタンドレベルで感じる風とは違う時がありますし、ボールの飛んで行き方などでも、表示から受けるイメージとかけ離れていることがあります。

 そんなふうに考えると、より広大な競馬場の、スタンドの高い位置から見た馬場レベルの風の強さや向きが、そうそう簡単に把握できるものなのかなあ、と疑問に思えてならないのです。もしかすると、この疑問の方が単純過ぎるのかもしれませんが、でも競馬場のスタート地点とかコーナーとか、要するに馬場レベルに風力計みたいなものが設置されていて、それを主催者が発表している、というわけでもないですし。

 風の影響を云々するなら、普段から500k前後の逃げ馬と、直後につけた馬との有利不利なども問題になるでしょうし、時速60kmで走る馬が向かい風2mだとどのくらい速度が落ちるのか、消耗するのか、とかについても…。

 これはやっぱり、きちんと検証する価値がありますか。小島友実さんの著書『馬場のすべて教えます』の向こうを張って、どなたか『サラブレッドと風』みたいな本を上梓してみてはいかがでしょう。
 競馬とは関係のない、気象学的な内容になりそうなのはもとより、物理学の要素なども加わってきそうで、書く方の苦労は想像を絶しますけど。読む側ちんぷんかんぷんにならないような配慮までしなきゃなりませんもんね。
 え?タイトルからしてダメだから論外…?
 やっぱりそうですか…。

美浦編集局 和田章郎

和田章郎(編集担当)
昭和36年8月2日生 福岡県出身 AB型
1986年入社。編集部勤務ながら現場優先、実践主義。競馬こそ究極のエンターテインメントと捉え、他の文化、スポーツ全般にも造詣を深めずして真に競馬を理解することはできない、をモットーに日々感性を磨くことに腐心。そして固定観念に縛られないよう、様々な要素を織り交ぜつつ競馬と向き合い、理想と予想の境界線を超えられればと奮闘中だが、なかなかままならない現状が続いている。