ロンドン橋でウオッカを(水野隆弘)

 「週刊競馬ブック」11月4日発売号のコラムで日米の同名馬について触れた。「ロンドンブリッジというと桜花賞2着、母としてオークス馬ダイワエルシエーロを産んだ。その同名馬が先週のブリーダーズCマラソンを快勝。こちらはアーチ産駒の3歳牡馬」というもの。今回はそのあたりを少し掘り下げてみたい。「リレーコラム」を名乗りながら前後で内容が全然つながらないではないかというお叱りをしばしばもらったりはしないが、たまには自分でリレーしてみる。

 ロンドンブリッジは、米ジョッキークラブ社のデータベースにある限りでも、1952年生まれから2010年生まれまで、米国産から南アフリカ産まで14頭がリストに上がる。日本のロンドンブリッジ(牝18歳、父ドクターデヴィアス)は現役の繁殖牝馬として登録されているので国内では馬名登録ができない。現在の馬名登録のルールは「公益財団法人 ジャパン・スタッドブック・インターナショナル」のホームページ( http://www.jairs.jp/ )から「本財団について」>「情報公開」>「馬名登録実施基準」と進むと全文を読むことができるので、興味のある方はそちらへどうぞ。

 登録できない馬名の基準はその第4条に示されていて、過去の名馬と同じ馬名および紛らわしい馬名の登録を禁止する具体例がその第1項第5号にある。
 ア サラブレッド造成から今日まで功績を残した著名な馬の馬名
 イ 国際保護馬名
 ウ 外国の重要な競走(別表4)の勝馬の馬名
 エ 我が国の競走馬の系統上、特に有名な種雄馬及び種雌馬の馬名
 オ 日本グレード格付け管理委員会により格付けされた中央競馬のG1競走及びJ・G1競走(中山大障害競走は平成23年以降)並びに地方競馬のG1競走及びJpn1競走の勝馬の馬名
 カ 平成20年以前の中央競馬G1競走及びJpn1競走(2歳時の競走は、平成3年以降)、中山グランドジャンプ並びにダート格付け委員会により格付けされた地方競馬のG1競走及びJpn1競走の勝馬の馬名
 キ 昭和58年以前の東京優駿、皐月賞、菊花賞、桜花賞、優駿牝馬、エリザベス女王杯、天皇賞、有馬記念及び宝塚記念競走の勝馬の馬名
 ク 昭和56年以前の中山大障害競走の勝馬の馬名
 ケ 全日本アラブ大賞典、平成13年以前の東京ダービー、楠賞全日本アラブ優駿及び平成8年以前の東京大賞典競走の勝馬の馬名
 コ イギリス(アイルランドを含む。)、フランス、アメリカ(カナダを含む。)又はオーストラリア(ニュージーランドを含む。)で最近10年間にリーディングサイアー(獲得賞金別)の10位までになった種雄馬の馬名

 基準を示すべき部分で「ア」の「著名な」とか「エ」の「特に有名な」といったあいまいな表現は困る。中山大障害/グランドジャンプの扱いもよく分からない。それはともかく、先に進みます。「ウ」の別表4というのは英愛仏3カ国の1000ギニー、2000ギニー、オークス、ダービーと英グランドナショナル、アメリカの三冠とジョッキークラブゴールドカップ、ブリーダーズCのディスタフ、フィリー&メアターフ、マイル、スプリントの4カ国21競走。あれ?ブリーダーズカップクラシックはないのかとお気付きの方もあろうが、それは、自動的に「国際保護馬名」となる各地域の最重要競走にリストアップされている。「イ」の国際保護馬名から漏れる海外の名馬を「ウ」で補完しているわけだ。勝てば自動的に国際保護馬名となる競走のリストは、

 南米:カルロスペレグリーニ大賞(亜)、ブラジル大賞(伯)
 アジア:メルボルンカップ(豪)、ドバイワールドカップ(首)、香港カップ(港)、ジャパンカップ(日)
 ヨーロッパ:凱旋門賞(仏)、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(英)、愛チャンピオンS(愛)
 北米:ブリーダーズカップクラシック(米)、ブリーダーズカップターフ(米)

 以上11競走。そのほかに日本のオーソリティが特に敬意を払っているのが「ウ」に上がった各競走と考えていいだろう。

 「国際保護馬名」は上記の11レースの勝ち馬のほか毎年各国最大3頭の名前が申請でき、繁殖牝馬は2頭のG1勝ち馬と更に1頭のブラックタイプ勝ち馬を、種牡馬なら15頭のG1勝ち馬を出したことを基準に、国際血統書委員会によって認められる。これにより日本からは2013年より新たにビワハイジとスカーレットブーケが国際保護馬名となっている。国際保護馬名のリストは国際競馬統括機関連盟のホームページ( http://www.ifhaonline.org/home.asp )から「Racing」>「Protected Names」と進むと閲覧できるので、興味のある方はどうぞ。

 同名馬の話に戻ります。「馬名登録実施基準」の第5条には「再び使用できる馬名」が定められている。全部引くと長いのでおおまかにまとめると、普通の馬の馬名は抹消後5年たてば使える(正確には「登録が抹消された日の属する年の翌年1月1日から4年を経過した日」以降、以下も同様)。繁殖牝馬は死亡または用途変更してから10年、種牡馬は同じく15年たてば使える。G2/Jpn2、G3/Jpn3勝ち馬は10年たてば使える。長く競馬を続けていると、「昔、こんな名前の馬がいたような気がする」ケースが増えてきて、例えばエイシンフラッシュなら先代が30年ほど前に走っていたのを覚えている人も少なくないだろう。しかし、当代のエイシンフラッシュのあと、この馬名が再びつけられることはない。更に香港カップにでも勝てば、それが世界的に保護されるわけだ。

 ジャパンカップに勝って知らぬ者のいないウオッカ(牝、2004年生、父タニノギムレット)は、国内に1993年生まれのクリエイター産駒の同名の牡馬がいたが、米ジョッキークラブ社のデータベース上には1900年生まれのアメリカ産から2010年ウルグアイ産まで、29頭もいた。ウイスキー12頭、ジン17頭、ブランデー26頭を超え、テキーラ31頭に迫る人気だが、液体でないウオッカがこれ以上増えることはない。ただ、2004年カントリー牧場産ウオッカがジャパンCに勝ったのは2009年なので、2010年ウルグアイ産ウオッカの馬名が通ったのは謎だ。受付担当者が酔っていたのかな。

栗東編集局 水野隆弘