アイビスSD13周年(宇土秀顕)

 

 最も短い1000m戦でも、向正面、3角、4角、そして直線の攻防というプロセスを経て決着が付く……。それが古くから慣れ親しまれてきた周回競馬。観戦する側にとって、それらがレースの全体像を捉えるうえでのポイントになっていることは間違いありません。「3角から動き出して」とか、「4角で並びかけて」とか、もう少し距離が長ければ「1角のコーナーワークで主導権を取って」というように……。それだけに、1角や2角、いや、3角や4角さえもなくなると果たしてどうなるのか?
 それまでは遠い異国の話だった直線競馬。その直線競馬が我が国で始まったのは、新潟競馬場がリニューアルオープンした2001年の7月。記念すべき最初のレースは3歳未勝利戦。フルゲート18頭のこのレースをハナ差で制したのは関西馬のセトブリッジでした。
 そのセトブリッジの勝利からひと月後、8月19日には直線コースで初の重賞、第1回アイビスサマーダッシュがスタートしました。以来、直線コース唯一の重賞として親しまれてきたこのレース。うだるような暑さの中で、陽炎に揺れる遥か彼方のスタート地点から一直線にゴールを目指す疾風の如きスプリンター。その姿はすっかり夏の新潟の風物詩となった感があります。

▼やはり外枠
 ところで、この12年間で完全に定着したのが「直線競馬は外枠有利」という概念。それはアイビスサマーダッシュでも例外ではありません。実際に過去12年間のデータを検証してみたいと思いますが、同じ12番枠でも12頭立てなら最外枠だし、18頭立てなら真中より少し外目という程度。過去12年を振り返ると、年によって出走頭数が12~18頭と違ってくるこのレース。単純に〝○番枠が○勝〟というような数字は、あまり意味を為さないでしょう。そこで、年ごとに全出走馬を内枠、中枠、外枠に3等分して比較してみました。その結果が以下の通り。ちなみに、出走数が3で割り切れないケースでは、便宜上、端数を中枠に入れて集計してあります。
<過去12年 アイビスSD枠順成績>

  出走数 成 績 勝 率 連対率 入着率
内枠 61頭 (2.1.6.52) 3.3% 4.9% 14.8%
中枠 64頭 (4.4.2.54) 6.3% 12.5% 15.6%
外枠 61頭 (6.7.3.45) 9.8% 21.3% 27.9%

 こうして見ると、やはり外枠が有利であることは歴然。特に内枠との比較で、勝率では約3倍、連対率では約4倍の数字を残しています。その理由ですが、第一に、馬はラチに頼って走る習性があること。第二に、馬場の外目は芝の傷みが少ないこと。この2つの要因が重なって、出走馬のほとんどがスタート直後から外寄りに進路を求めることになり、結局、真っ直ぐ最短距離でこの進路を取れる外枠の馬に利が生じてくる……。そう考えていいのではないでしょうか。ただ、このアイビスサマーダッシュに関しては、夏の新潟の開幕週に施行された06~11年でも外枠有利の傾向が出ているため、たとえ内と外の馬場差が少なくても外枠の馬に利があることを否定できません。

▼とにかく牝馬
 さて、アイビスサマーダッシュのもうひとつの大きな特徴と言えるのが、牝馬の活躍です。もともと夏のスプリント戦は全般に牝馬上位の傾向が強いのですが、このレースでは特にそれが顕著。これも過去12年の成績を遡ってみると……。
<過去12年 アイビスSD性別成績>

年度 1着 2着 3着 出走数
メス セン
2001 メス 5頭 7頭 0頭
2002 メス 8頭 5頭 0頭
2003 メス メス 8頭 7頭 0頭
2004 メス 8頭 3頭 1頭
2005 メス メス 9頭 4頭 0頭
2006 メス メス メス 9頭 7頭 0頭
2007 メス メス 12頭 6頭 0頭
2008 メス 11頭 6頭 1頭
2009 メス メス 9頭 8頭 1頭
2010 メス セン 10頭 7頭 1頭
2011 メス 7頭 6頭 2頭
2012 メス 11頭 7頭 0頭

 結果は上記の通り。牝馬は05~11年の7連勝を含め、過去12年で計9勝。対する牡馬は3勝のみ。牡馬と牝馬の出走数の差(牡馬107頭、牝馬73頭)を考慮すると、まさに牝馬のワンサイドと捉えて良さそうです。連対や3着入着になるとさすがに牡馬が盛り返してきますが、少なくとも「優勝候補は牝馬から」、そう考えて間違いないでしょう。

▼直線競馬の傾向
 続いて、直線競馬に強い騎手、強い種牡馬を紹介しておきしょう。こちらは2003年以降に施行されたすべての直線競馬を対象にしたランキングです。
 まず種牡馬成績ですが、1着数、2着数、3着数のすべてで、まさにサクラバクシンオーの独壇場。これまでも「バクシンオー産駒はよく来るものだ」と、漠然と感じていた直線競馬ですが、ここまで他を圧倒していたとは……。
 ただ、サクラバクシンオー産駒は着外の数もまた多く、それだけに〝狙って有効〟というイメージが薄いのも事実。そのサクラバクシンオーには水を開けられながらも、それなりの勝利数・連対数を残し、なおかつ、勝率・連対率も高い……。そんな種牡馬が馬券作戦上では狙い目。ここに挙げた勝利数のトップ20位の中で、連対率で20%を超えるような種牡馬に注目してみてはどうでしょうか?
<過去12年 直線競馬の種牡馬成績>

順位 種牡馬 1着 2着 3着 着外 勝 率 連対率 3着率
サクラバクシンオー    22 28 24 216 7.5% 17.2% 25.5%
タイキシャトル      83 8.2% 15.5% 23.8%
スウェプトオーヴァーボード 10 56 10.1% 22.7% 29.1%
アフリート        11 49 10.9% 17.8% 32.8%
ボストンハーバー     67 8.6% 13.5% 17.2%
トワイニング       56 8.5% 15.7% 20.0%
スターオブコジーン    35 12.2% 20.4% 28.5%
パラダイスクリーク    28 15.3% 23.0% 28.2%
マンハッタンカフェ    36 12.7% 14.8% 23.4%
10 マイネルラヴ       47 7.6% 16.9% 27.6%
11 ホワイトマズル      24 14.7% 20.5% 29.4%
12 スキャン         21 17.2% 20.6% 27.5%
13 アグネスタキオン     31 12.8% 15.3% 20.5%
14 フジキセキ        79 4.0% 13.0% 21.0%
15 バブルガムフェロー    62 5.5% 8.3% 13.8%
16 ファルブラヴ       18 16.0% 24.0% 28.0%
17 ウォーニング       22 14.2% 14.2% 21.4%
18 ブライアンズタイム    29 11.7% 11.7% 14.7%
19 キングヘイロー      10 52 4.2% 11.4% 25.7%
20 チーフベアハート     21.4% 42.8% 42.8%

※1着数順。同数の場合は2着数、3着数順

 一方、騎手成績の方も同様のことが言えますが、こちらは勝利数で1~4位の中舘、村田、後藤浩(休業中ですが)、柴田善の各ジョッキーが勝率・連対率でもそれなりの数字を残しているだけに、高い信頼を寄せられそうです。また、上位20名の中で、連対率で2番目、3着率でも4番目の数字を残しているのが若手の西村太騎手。こちらも直線競馬では目の離せないジョッキーの一人と言えるでしょう。
<過去12年 直線競馬の騎手成績>

順位 騎手名 1着 2着 3着 着外 勝 率 連対率 3着率
 中 舘 21 22 21 121 11.3% 23.2% 34.5%
 村 田 20 10 104 14.0% 21.1% 26.7%
 後藤浩 14 49 8.9% 29.7% 33.7%
 柴田善 12 66 13.6% 20.4% 25.0%
 西 田 10 96 8.0% 15.3% 22.5%
 吉田隼 10 11 79 9.3% 15.8% 26.1%
 木 幡 11 108 6.7% 11.1% 19.4%
 江田照 13 10 73 7.6% 20.1% 29.8%
 北村宏 69 8.7% 17.5% 24.1%
10  蛯 名 45 12.3% 18.4% 30.7%
11  田中勝 79 7.0% 15.1% 20.2%
12  吉田豊 66 7.9% 15.9% 25.0%
13  田 辺 81 6.9% 11.8% 19.8%
14  内田博 28 14.2% 21.4% 33.3%
15  石橋脩 91 4.7% 10.3% 14.1%
16  大 野 88 5.1% 7.1% 10.2%
17 ◆芹 沢 27 14.7% 17.6% 20.5%
18 ◆大 西 33 9.7% 14.6% 19.5%
19  松 岡 45 5.0% 15.0% 25.0%
20  西村太 21 9.6% 25.8% 32.2%

※1着数順。同数の場合は2着数、3着数順(◆は引退騎手)

 さて、今年のアイビスSDの狙い馬は? 昨年はパドトロワが牝馬8連勝を阻止してみせましたが、何しろこのレース、牡馬が2年続けて優勝した前例がない……。ならば、やはり牝馬でしょう。狙い目はファルブラヴ産駒のフォーエバーマーク、スターオブコジーン産駒のビラゴーティアラ、そして、スウェプトオーヴァーボード産駒のプリンセスメモリーあたり。これらのうち、外目の枠を引き当てた馬を1着候補に据えてみてはどうでしょうか。3頭揃って内枠、また、揃って外枠なら、その時は改めて頭を捻ることになりますが……。

▼恥ずかしながら自社商品を初活用
 さて、最後にちょっとだけ宣伝。実は今回紹介した直線競馬のデータですが、いつも通りの手作業の集計が半分。そしてもう半分(直線競馬の種牡馬成績と騎手成績)は、小社・競馬ブックweb内の「レース結果分析」を活用しました。この種の仕事は自らの手で集計するから面白い。そんな思いから、時間がかかろうが、多少の数え間違いがあろうが、今までは〝一個ずつ手で数える〟派だった筆者。しかし、この年齢になると悲しいかな、細かな数字に目の焦点が合わなくなってくる……。長時間、細かな作業をすると眼精疲労に悩まされるようになり、「これはもう無理」とギブアップした次第です。
 それにしても、自社の商品ながら今まで敬遠してきたこの「レース結果分析」。これがけっこう面白い。コース、距離、クラス、期間などの項目を任意で指定して、「これを集計しなさい」と人差し指をちょこっと動かすと、あっという間に各種のデータを集計してくれます。こんなに楽して、色々なことが分かってしまっていいのだろうか? 心の隅っこで僅かばかりの罪悪感を覚えながらも、今後、この「レース結果分析」を活用する機会が増えてくるような予感がしています。

美浦編集局 宇土秀顕