去る6月16日、関西では阪神競馬場で「写真判定のデジタル化」についての記者説明会があった。え、まだデジタルじゃなかったの?とまず思ったが、9月の阪神・中山開催から「デジタル」フォトチャートに移行するそうです。現在は現行の銀塩フィルムのカメラと並行して試験的にデジタルカメラによる撮影を行っているところ。
判定写真の撮影に使われるスリットカメラについてはご存知の方も多いだろうが、JRAのホームページで見られる動画が分かりやすい。グラスワンダーvsスペシャルウィークの有馬記念を例に挙げている10年以上前のものだが、今も方法は同じ。パソコンでJRAホームページから「トピックス&コラム」→「ビデオギャラリー」→「競馬How to Movie」→「競馬メカニズム Vol.2 判定写真編」と進むと見られるので、上級者を自認する方にも一見をお勧めします。
JRAの写真判定は「山口シネマ」が一手に請け負っていて、フォトチャートカメラの第1号が完成したのは1949年。それがカラー写真となったのは意外に最近で、1996年のこと。現像のスピードがネックとなっていたためだ。現行のYS-V型は2008年から使われているので現在6年目ということになるが、見た目には上記の動画に出てくる10数年前のものと同じ。広辞苑を2冊重ねたような本体に、巨大な望遠レンズがついている。恐らくキヤノンの白レンズで、芝用は競馬場でカメラマンが使っている望遠レンズ同様の見慣れたものだが、ダート用はコースが遠いだけに、異様に口径の大きなもの(お盆くらい)が使われている。キヤノンの現行レンズのカタログをざっと眺めたが、似た機種はあっても、これだ!というのは見当たらなかった。興味がある方は動画をご覧いただければどんなものか分かる。
デジタル機も山口シネマ自社開発によるもので、本体は広辞苑を横に半分に切ったくらいの箱を想像すればいい。写真判定用の機材は芝用に3台、ダート用に3台。それぞれがパイプ製のラックにしっかりと固定されている。意外なことに競馬場据え置きではなく、開催場を持ち回り、移動のたびに設営(というくらいの規模)するのだそうだ。本体だけで広辞苑2冊分×6がおよそ4分の1までコンパクトになれば輸送コストや労力の削減だけでも意義は大きい。
ただ、デジタル化への直接の動機はフィルムの調達が困難になってきたためだという。現在の銀塩写真のシステムでは撮影後即座にフォトチャート室を暗室にして現像、わずか55秒で写真が仕上がるという。技術的には完成しているので、特にデジタル化を進める必要もなかったのだろう。そして、デジタルカメラの性能がようやく使用に耐えるレベルにまで上がってきたのも最近のこと。初期のデジカメを使っていた方ならおわかりだろうが、わずか10年前のものでも、シャッターラグは大きく、画像も粗くて引き伸ばしに耐えなかった。解像度やノイズが銀塩フィルムと同等にまで進歩するのを待って、ようやく切り替えに踏み切ったわけだ。デジタル万能と思える今の時代でも、全部が全部デジタル優勢かというと必ずしもそうではないということですね。
2011年のメルボルンカップ。直線猛然と追い込みながらデュナデンに写真判定でハナ差敗れたレッドカドーのエド・ダンロップ師は「わずか3ピクセルだ!」と嘆いたという。3ピクセルはさすがに大げさだろうが、写真判定もデジタル時代に入ったことを示す表現ではある。ちなみに判定写真に入っている線は1000分の6秒ごとに1本入っている。よく大接戦が「わずか4cm差!」と表現されたりするが、あれ、正確には長さではなく時間で示すべきですよね。「わずか1000分の3秒差!」とか。でも、着差はハナ、クビ、1馬身…だから、伝統に則れば長さでもいいのか。
栗東編集局 水野隆弘