明けて2013年。降着・失格の新ルール適用が始まり、3日間開催を含む3週間の日程を終えて、東西で4つの騎乗停止の事例があった。いずれも失格・降着はなし。JRAは新ルール浸透に力を尽くしているが、当事者もファンもまだ戸惑いがあり、とりわけアメリカJCCで優勝したダノンバラード=フランシス・ベリー騎手の最後の直線での進路の取り方、そしてそれをセーフとしたJRAの判断は議論を呼んでいる。
1月20日(日)の中山競馬メイン競走アメリカJCCに出走したダノンバラードは余力たっぷりに4角を回り直線で先頭に立ったが、右回りでも左回りでも右へ行く癖が出て、ベリー騎手が懸命に右ムチで矯正するもののラスト1F付近から内へ内へと斜行。内にいたトランスワープとゲシュタルトは外から押し込められて進路がなくなり、ともに手綱を引っ張るほどの不利を受けた。ゲシュタルトは脚がなくなりかけていたこともあったが脚いろも急に鈍って9着に後退。トランスワープは完全にブレーキをかける形から再加速して1馬身4分の1差まで詰め寄ったところがゴールだった。ファンは騒然としたが、レース直後に審議のランプは点灯せず、ほどなく到達順位の通りにレースは確定した。JRAのジャッジはこう。
「第1位に入線した3番ダノンバラード号(F.ベリー騎手)は、最後の直線コースで急に内側に斜行し、5番トランスワープ号(大野拓弥騎手)及び6番ゲシュタルト号(勝浦正樹騎手)の進路が狭くなりました。このことについて、5番トランスワープ号(2位入線)の調教師及び騎手から、最後の直線コースにおける3番ダノンバラード号(1位入線)の進路の取り方について、降着の裁決を求める申立てがありましたが、その影響がなければ5番トランスワープ号は3番ダノンバラード号より先に入線したとは認めなかったため、棄却しました。ただし、F.ベリー騎手は、1月26日(土)から2月10日(日)まで騎乗停止となりました。」
申立てがあるまで審議ランプが点灯しなかったことには納得がいかないが、JRAが最終的に下したジャッジに関しては、新ルールの導入が決まった時点で想定にあった。私個人の見解を言えば、今回のアメリカJCCの例では、事象がゴールに近い残り1F過ぎの局面で起こったこと、トランスワープは急に減速していてそのビハインドがゴールでの差(1馬身4分の1差)以上に相当すると考えられること、一旦スピードを緩めながらも再び追い上げ態勢に入り脚は十分に残っていたことから、何事もなくスムーズに運べていれば同馬が優勝していた可能性は大いにあると思っている。ただ、「もし、トランスワープに不利がなかった場合、ダノンバラードは負けていたのか」と問われれば、「それは分からない」「負けていたかも知れない」としか答えられず、断言はできない。「可能性がある」「かも知れない」の判断では着順の変更はしないというのが世界水準の新ルールであり、JRAは「誰もが、被害がなければ先着していたと判断するケースのみ降着。議論が長引く、つまり意見が分かれるケースでは到達順位の通り確定する」と明言。まだまだ見る側は不慣れで、賛否もあるが、新ルール適用のもとでダノンバラードが降着になっていたとすれば、むしろその方が新制度の行方が危ぶまれたのではないかと推察する。
騎手の騎乗停止の他の3例は次の通り。
【1月12日(土)京都競馬第10R寿S】
伊藤工真騎手:2位入線のマイネルディーンに騎乗。最後の直線コースで外側に斜行し、1頭の進路が狭くなった。JRA開催日6日間を含む1月19日(土)から2月3日(日)まで騎乗停止。
【1月13日(日)京都4R3歳500万以下】
福永祐一騎手:4位入線のイスカンダルに騎乗。最後の直線コースで外側に斜行し、2頭の進路が狭くなった。1月19日(土)から1月20日(日)まで2日間の騎乗停止。
【1月20日(日)中山5R3歳未勝利】
杉原誠人騎手:13位入線のパシャドーラに騎乗。最後の直線コースで急に内側に斜行し、2頭の進路が狭くなった。JRA開催日6日間を含む1月26日(土)から2月10日(日)まで騎乗停止。
JRAが発表する定型文は
「○位に入線した○○○○○○号(○○○○騎手)は、最後の直線コースで○側に斜行し、○○○○○○号(○○○○騎手)および○○○○○○号(○○○○騎手)の進路が狭くなりました。このことについて、○○○○騎手は、○月○日から○月○日までJRA開催日○日間を含む○日間の騎乗停止となりました。」
降着・失格にあたらない場合には「走行妨害」の文字は消え、これまで「○位入線」の言い回しは○位に入線したが○着に降着になったので便宜上表記する…と理解していたが、確定順位でも「○位入線」と書かれるようになった。文面だけでは何を基準に騎手の過失度合を決めているかは不明。騎乗停止の期間が開催日2日間と6日間の違いは何なのか、JRAには明快な説明を求めたい。
熱い議論は続くのか、それとも慣れてくれば自然に定着するのか。様子を見守り、何かあればコラムでまた書いてみたい。JRAのホームページでは「競馬メニュー」→「レース結果」とたどって当該レースに行きつけば審議のあったレースのパトロールビデオを手軽に観られるので、みなさんぜひご活用を。
栗東編集局 山田理子