12月9日に香港のシャティン競馬場で行われた香港国際競走。香港スプリントをロードカナロアが制したのは皆さんご承知の通り。このシリーズで日本調教馬が勝ったのは2005年に香港マイルを制したハットトリック以来7年ぶり。ステイゴールドが香港ヴァーズを、エイシンプレストンが香港マイルを、アグネスデジタルが香港カップを勝ったあの快挙はもう11年も前のことだ。その日本馬祭りの年にも香港スプリントだけは手が届かなかった。ダイタクヤマトが12着、メジロダーリングが13着に終わっている(14頭立て)。
それ以後も惨敗が続く。2002年ショウナンカンプ10着、ビリーヴ12着。2004年サニングデール7着、カルストンライトオ14着。2005年アドマイヤマックス11着。直線1000mから右回り1200mに替わった2006年もシーイズトウショウ10着、メイショウボーラーはゲートを出てすぐ競走をやめてしまった。2008年はローレルゲレイロ8着、トウショウカレッジ9着。2009年に再挑戦したローレルゲレイロは13着。敗因を探るまでもないほどに手も足も出なかった。
1年おいて昨年、鬼門に挑んだ2頭はパドトロワこそ最下位14着に敗れたものの、カレンチャンは5着とこれまでの日本馬としての最高着順を得た。ラッキーナインから0秒4の2馬身1/4差。しかも当時は輸送機のトラブルにより空港に缶詰にされて到着が大幅に遅れた。その逆境をはねかえして初めて掲示板に載り、しかも、敗因のひとつが明確になったという点で、これが大きな一歩だった。
そして今回、ロードカナロアの引率も兼ねたカレンチャン姉さんはスタートで外のアドミレーションにぶつけられて後方からの競馬を余儀なくされ、よく差を詰めたものの昨年より着順を落として7着に終わった。しかし、ロードカナロアの強かったこと。積極的に前へ行って何とかうまく折り合いをつけて3番手追走。逃げたスリーズチェリーを余裕を持って捉えると、ラッキーナインら追い込み勢に影を踏ませることすらない完勝だった。2着スリーズチェリーにつけた2馬身1/2の差は2006年のアブソリュートチャンピオンの4馬身1/4に次ぐ香港スプリント史上2番目のもの。アタマ、クビの接戦となることの多いスプリント戦で、この着差は圧勝といっていい。
ロードカナロアの父はキングカメハメハ。1600mのNHKマイルC、2400mの東京優駿を連勝するいわゆる「松国ローテ」を完成させた名馬であって、種牡馬としても2010年、2011年の2年連続リーディングサイアーとなった。今年は12月10日現在で首位を突っ走るディープインパクトに3億1600万円ほどの差をつけられて3年連続リーディングに黄信号が灯っているが、春には香港でルーラーシップがクイーンエリザベス2世Cに勝ち、夏にはジャパンダートダービーをハタノヴァンクールが制した。秋にはロードカナロアのスプリンターズSとタイセイレジェンドのJBCスプリントもある。今のところ産駒の多芸多才ぶりではディープインパクトを寄せ付けないものがある。2位追走中の今年にしても収得賞金額では前年と前々年を既に超えているのだから、これはディープインパクト産駒が走り過ぎたということだろう。
国内の種牡馬ランキングはどうあれ、ルーラーシップとロードカナロアの父として、キングカメハメハが香港競馬界に大きなインパクトを与えたのは間違いない。ホーリックスがジャパンCに勝ったとき、日本人はニュージーランドに馬を買いに飛んだ。ベタールースンアップが勝ったらオーストラリアに向かった。どんなプロモーションよりも雄弁で効果的なのは競馬に勝つこと。今年のオーストラリアのセリをざっと調べると、香港ジョッキークラブをはじめ、香港関係者は分かっただけで50頭を総額900万豪ドル(約8億円)で購買している。シンガポール/マレーシア勢もオーストラリアでかなりの数を買っている。これらオーストラリアに向いた東アジアの購買力を何分の1かでも日本に振り向けられれば、日本の生産界にとっては干天の慈雨となり得る。そういった効果が来年の夏に現れるようなら(実際にいくらかは現れるだろう)、今回のロードカナロアの勝利は1個の海外G1のタイトル以上の意味を持つ大殊勲といえる。
栗東編集局 水野隆弘