誇れる日本の予想文化(山田理子)

 

 

 iPad mini、Google Nexus7、Kindle Fire HDのニュースを読むにつけ、いよいよ小型タブレットが欲しくなってきた。一家に一台いきわたったであろうパソコンの市場は飽 和状態を迎え、タブレット端末の市場が競争激化。ノートパソコンがありゃいらんでしょとこれまで静観してきたが、MicrosoftのWindows 8の反響を見ても時代の流れには逆 らえないというか、何というか……。通勤はマイカー5分で、家→会社→トレセン→競馬場をひたすら回るだけの日常。会社からもパソコンが支給され、1日24時間のうちの ほとんどでいつでもどこでも通信できる状況にあるのにまだいるかと自分でツッコミたくなるが、最近、ちょくちょく不便を感じる。メーカーが新しい市場を作り出し、タブ レット端末を日常不可欠な標準アイテムにと仕向けている感じがあって何となくあらがいたい気持ちが心の隅に残るのだが、まあ、意固地になることもないか。

 で、私はタブレットを使って何がしたいかというと、やっぱり競馬の予想。もっと深くもっと綿密にして馬券的中率を上げたい、その一心だ。

 ところで、私が競馬ブックに入社した94年当時はまだ馬の成績は紙のカードで保管されていた。キャリアが増えればセロハンテープで紙をつぎ足し、パタパタと折りたたん で同じサイズにまとめて50音順に整列。成績や調教に関しては記録が一斉出力された一枚の用紙を内勤の女性社員が鋏で1頭1頭切り分けて糊づけする作業が延々と行われて いた。それ以前はトラックマンが持ち回りで記入していたようで、ちょっと歳のいった馬だとすべてが手書き。手間暇と手垢がしみこんだ味わい深い成績カードだったが、メ イキングオブを想像すると気が遠くなる。で、更に。当然ながら成績カードは1頭につきひとつしか存在しないので、新人がこれを見ながら予想するなどという好機は限りな くゼロ。当時、重賞・特別レースの本紙を打っておられた内炭重夫氏の机にレース毎、50音順にカードは常に並べられていたから遠い遠い存在で、私ら下っ端は自分の過去の 週刊誌の成績欄をひっくり返して調べものをするという状況だった。

 隔世の感だ。今は予想するにあたり、手に入れられない情報はひとつもないのではないかとすら思えるほど充足している。たとえば今週日曜のみやこSに出てくる3歳馬ハ タノヴァンクールについても、ちょっと調べれば、前々走端午S(今回と同じ京都ダート1800m)の勝ち時計1分50秒9が98年の創設以来、98年キングオブジョイ(稍重:1 分50秒5)、02年ゴールドアリュール(良:1分50秒6)、05年カネヒキリ(良:1分50秒8)に次ぐ優秀なものだと分かるし、父キングカメハメハの産駒の成績にしても、 過去2年間に京都ダート1800mで特別レースを10勝(重賞1)もしていて(出走数の多さを考慮しても断然)、ベスト10に入る種牡馬のなかで連対率も最も高いと出てくる。 馬体派にとってみればフォトパドックを劣化のない画像で比較できるのはありがたいこと。馬の成績カードに自分の意見や感想を好きなようにオリジナルにストックできるカ スタマイズなんかもあり、記憶力の低下と戦う世代にとっては頼もしいバックアップ機能となっている。そうそう、思い出したけど、学生時代は過去のレース映像を検索して 観るなんて大変なことだった。エクウス渋谷とかに専用の機器が2、3台ほど設置されていたと記憶するが、30分とか1時間ぐらい並んで待ってやっと順番がくるという感じ (当時競馬ブームでしたしね)。今はJRAレーシングビュアーですぐ。パドック映像の配信まで始まって未勝利馬でもパドックでの姿を確認することができるマニアックさ は凄い。

 JRAは「スマホで競馬」を掲げ、新しい競馬の楽しみ方を提案している。競馬場にパソコンを持ち込むのは厄介だったし、タブレット端末も10インチじゃ大きかったけど 、小型軽量化して携帯しやすくなると展開は更に違ってくるのではないか。もしもJRAが多くのニーズに応えてレーシングビュアーでリアルタイム中継なんかを始めたりす れば画面サイズの観点からスマホ以上にタブレット端末により利便性がありそうで、今後小型タブレット端末の普及が急加速的に進むようであれば、競馬場の現場感も変わっ ていきそうな気がしている。先々週のコラムで水野さんが「日本の競馬文化」について語っていたけど、コアなファンによる「日本の競馬予想の文化」も世界の最先端を驀進 中ですね。ねえ、みなさん、今週も誇りを持って競馬の予想をしましょうよ。

栗東編集局 山田理子